M&AにおけるPMI(経営統合)の概要
はじめに
PMIとはPost Merger Integrationの略称です。
PMI はM&Aで会社の合併や買収がなされた後に行なわれる経営の統合作業のことをいいます。
PMIの成功がM&Aの成功を意味するといわれるぐらい、PMIはM&Aにおいて重要な役割を担っています。
M&Aの実施後、会社として統合が必要な項目は多く、経営方針の統一、企業文化の融合、製商品やサービス、取引先やITシステムの共有など、多岐にわたります。
この記事では、M&AにおけるPMIに焦点を当てて、その概要やプロセス、手法など、詳しく解説します。
M&AにおけるPMI(経営統合)とは
M&Aで企業の合併・買収後に行なう一連の経営統合の作業のことをPMIといいます。
ではこのPMIは具体的には一体どのようなことをすればいいのでしょうか?
PMIを実行に移すには、会社という有機体を5つの視点に分けて、それぞれの視点で統合作業を進めるとよいです。
そしてその5つの視点とは、経営、制度、業務、事業、そして意識の視点になります。
買い手が売り手の協力も得て、各方面で整合性とバランスを保って統合作業を進めることができれば、M&Aを進めた目的のひとつである総合的シナジーも早めに実現でき、引いては企業価値も向上させることができます。
M&AにおけるPMIとは、最終的に会社の企業価値を向上させ、さらに発展成長させていく基礎的作業ともいえるでしょう。
M&A前後のPMIのプロセス
この章ではPMIのプロセス(流れ)やその内容について解説します。
通常PMIは、M&Aの流れにおいて、クロージング前、基本合意書締結後の段階から検討を開始して、デューデリジェンスの直後から経営統合に向けた準備作業を本格化させていきます。
以下の図がその基本的な流れです。
STEP1:M&A前の準備
PMIを具体的に実行に移すのは買収後、クロージングが終わった後です。
しかしPMIの計画を練り始めるのは、クロージングのひとつ前の段階、交渉及び締結段階になります。
当事者間でトップ会談を行なうなどして、基本合意を結ぶ前には双方で、統合効果をどのような手順でどのような方法で進めていくか、しっかり話し合っておきます。
事前に大まかな統合計画を立てておけば、その後の交渉も比較的スムーズに進められます。
STEP2:デューデリジェンスの結果をもとにPMIを策定
PMIを検討する次の手順はデューデリジェンスの実施です。
M&Aの過程で実施したデューデリジェンスの結果、会社の現状や抱えているリスクや問題点、シナジー効果などが浮き彫りになります。
その結果を元にして、優先的に統合を進めていく項目や使う方法、どれぐらいの期間で行なうかなど、PMIの基本的な統合方針を決めていきます。
またデューデリジェンスで見つかった問題点やリスクは通常契約書などに盛り込まれ、事後の手続きで解決が図られますが、クロージングまでに解決や改善が難しかった項目はその後のPMIで補完していくことになります。
STEP3:ランディングプランの策定
「最終合意・クロージング」すなわち買収前後の段階で実施されるPMIプロセスがランディングプランの策定です。
ランディングプランとは、クロージング以降、3~6ヶ月の間に優先的に実行・解決すべき課題をピックアップして行なわれる短期の統合計画です。
デューデリジェンスで見つかった課題が解決の優先事項となるので、それをベースにランディングプランを策定していくことになります。
具体的には、5つの面、経営、制度、業務、事業、意識面から見つかった諸項目、経営管理、財務経理の見直しや人事労務の変更などがランディングプランの対象です。
STEP4:100日プランの策定
ランディングプランの策定が終わると、続けて100日プランを策定します。
100日プランとは、クロージングから100日間(約3ヶ月)で行なうべき経営改革プランです。
100日プランの策定は専門のプロジェクトチームを組成して、かつ現場レベルも巻き込んで実施されます。
さらにプロジェクトチームには外部の人材も入ってくることも多く、それまでできなかった抜本的な変革も期待できます。
STEP5:統合の実施及び効果の検証
ランディングプランや100日プランを策定すると、それらをベースにPMIを実施します。
しかし計画は進めて行くにつれて進捗に遅れが出たり、期待したような効果が出なかったりすることもよくあります。
そのためPMIのプロセスでは、当初の計画との間にズレが生じていないか、シナジー効果含む経営効果はきちんと出ているかなど、定期的に達成状況をモニタリングすることが必要です。
また定性的な目標に対しては、事前に管理指標(KPI)を設定しておけば、達成状況がより視覚化できます。
さらにPMIは2年以上期間が掛かる場合もあるので、途中で解決すべき新たな課題が出てきたようなときには、随時プランも見直しして、弾力的に対応していくべきでしょう。
PMIの手法について
この章ではPMIの手法について、5つの視点からそれぞれ重要な実施項目を取り上げ詳しく解説します。
統合作業で重要なことは、この5つの視点で実施する各項目を、いかに整合性を保ってバランス良く整備していくかということです。
経営の視点
PMI実施において、まず整備しなければならないのが経営の管理体制の構築です。
多くの中小企業では、経営に関してオーナーにほとんど全ての権限が集中しています。
そのため管理体制など無きがごとしなので、まずは経営の管理体制作りが始めの一歩です。
PMIでの責任者の選定、意思決定機関のあり方、重要な意思決定プロセスとその伝達方法、専門チームの作り方や適切な人材配置など、検討項目はたくさんあります。
また経営者同士のすり合わせで作った統合後の経営・企業理念の社員への浸透作業も経営面の重要ポイントです。
統合後の関係者全員に会社の経営・企業理念がきちんと浸透してこそ、M&A後に期待されるシナジー効果が最大限に発揮されるでしょう。
制度の視点
制度の視点での統合ポイントは、人事諸制度の整備見直しです。
M&Aで2つ以上の会社が統合するとなると、それまで各社で個別に運用していた人事制度の見直しと統一化が必要になります。
就業規則、労働条件、福利厚生制度や報酬体系も含めて、広範囲な項目で整備見直しが必要です。
ただ見直しする項目によっては、拙速に統一化を進めると社員の労働条件に不利になるケースもあり、それが引き金となって社員の退職を招きかねません。
特に買収された側の社員が不満を持つケースが多いので、あくまで双方の社員に不公平感を感じさせないよう、人事諸制度については慎重に整備見直ししていく必要があります。
業務の視点
業務の視点での統合ポイントは、間接・競合部門の統廃合と業務システムの一元化です。
まず作業が必要なのが間接・競合部門の統廃合です。
M&Aで2つ以上の会社がひとつになると、事業の直接部門である営業・製造・開発等を支えている間接部門(総務・人事・経理等)の統廃合が必要になります。
間接部門が社内にいくつもあれば、逆に業務面で効率が悪くなるので、PMIで重複する部門をひとつに集約・整備して経営効率を上げていく必要があります。
業務の視点でもうひとつ大事なのが業務システムの一元化です。
M&A成立後、どんな業務システムを入れて一元化するか、業種や会社規模の違いなどによって各社の対応は分かれます。
しかしM&Aを契機に、業務システムを新しく一元化することで、業務の効率化やこれまで解決できなかった問題点の改善が図れるようになります。
事業の視点
事業の視点の統合ポイントは、取引先の見直しや製商品・サービスの統廃合です。
取引先の見直しでは、M&Aの実施前、各社異なった取引先から共通した原材料や資材等を購入していたとしたら、M&A実施後は取引先を一元化して、購入量を増やす代わりに仕入れ価格を減らしてもらうなど、取引条件の変更で経費削減効果が図れます。
一方製商品・サービスの統廃合では、全ての項目にメスを入れて、商品性やサービス面で重複している分については廃止したり、ひとつにまとめたりします。
そうすれば顧客に製商品やサービスを提供するまでの過程が効率化でき、同時にスケールメリットも得られることから、高いシナジー効果に結びついてきます。
意識の視点
意識の視点の統合ポイントは企業風土・企業文化の統一ということです。
企業風土や企業文化は、その会社の歴史が長ければ長いほど、独特なものとして社内で定着してきたものです。
また企業風土が役員や社員間に深く根付き、一貫した行動や言動として現れるにも一定の時間が掛かっています。
しかしM&Aで複数の会社がひとつになると、どうしても異なる企業風土・企業文化の下で働いてきた役員同士や社員間であつれきが生じてきます。
またこれを放置したままだと、いつまでも社内での融和が進まず、経営も非効率となることからM&A後に目指す企業価値の向上に結び付きません。
会社としてもできるだけ早めに役員・社員の意識を変えて、企業風土・企業文化の統一化を図る必要があります。
一般的に企業風土の統一は、買収された側が買収先の企業風土に合わせていきますが、一方で拙速な取組は禁物です。
拙速な取組は時として逆効果にもなります。
買収側も、被買収側の企業風土・企業文化を尊重しつつ、相手の長所もうまく取り入れながら、着実に全役員・社員の意識の統一化を図っていきましょう。
おわりに
M&AにおけるPMIの概要やプロセス、その手法など、詳しく解説してきました。
PMIの成功なしにM&Aの成功はあり得ないというほど、M&A後のPMI(統合作業)は重要です。
そのためには、M&Aの早めの段階からPMIに係る検討や準備も同時に始めておく必要があります。
PMIに対する準備が早ければ早いほどM&Aの成功の確率も上がります。
公認会計士・税理士等、専門家のサポートも受けて堅実にPMIを進めていきましょう。
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