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M&Aのストラクチャーの概要とは

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_Kheng Guan Tohさん

はじめに

M&A実施に当たってはそのストラクチャーを決める必要があります。

ストラクチャーとは、その目的を実行・達成するための手順や方法のことで、ストラクチャーの選び方の良し悪しで目的に対する結果も大きく異なってきます。

今回の記事では、M&Aのストラクチャーの概要を詳しく解説します。

M&Aのストラクチャーとは

M&Aのストラクチャーとは、M&Aを行なうに当たり、その目的を達成するための手順や方法のことです。

M&Aを実施すると、売り手買い手はもちろん、対象企業の役員・従業員、取引先や金融機関まで幅広く影響するので、適切なストラクチャーの選択はM&Aを成功させるための重要な条件です。

さらに加えてストラクチャーの選択で、売却・譲渡価格や手続の煩雑さ、税務面の対応等にも差が出るので、自社のニーズや将来性を踏まえ慎重に選ぶ必要があります。

以下の図がM&Aに係る主なストラクチャーです。

全ての利害関係人を完全に満たせるようなストラクチャーはないので、各々に対する優先順位を付ける中で、また関係者間の利害を調整しつつ、適切なストラクチャーを選ぶ必要があります。

【M&Aストラクチャーの全体図】

※上記のM&Aストラクチャーは狭義のM&Aに限定しており、広義のM&Aストラクチャーとしては、上記手法に加えて、業務提携、資本提携、その組み合わせの業務資本提携などもあります。

M&Aのストラクチャーの概要

ここでは上記M&Aストラクチャー(スキーム)の全体図に沿って、各ストラクチャーの概要や特徴を解説します。

狭義のM&Aストラクチャーでは、まず買収と合併の2つのグループに分類でき、さらに各手法によって数グループに細分化できます。

※M&Aの実行に当たり採用する手法のことをストラクチャーまたはスキームと呼ぶため、以下からの説明では主にスキームを使います。

株式譲渡

株式譲渡は買収スキームの中で代表的かつ最も利用されているスキームです。

株式譲渡とは、売り手から買い手が株式を買収することでその会社の経営権を獲得するスキームです。

M&A契約締結時、買い手は売り手から株式を獲得して対価として現金を払い株式譲渡が完了します。

他のストラクチャーより比較的簡単な手続で当初の目的が達成でき、また経営権が変わる以外、会社が持つ権利義務関係など変化がないのがこのスキームの特徴です。

ただし株式譲渡は相手の資産だけでなく負債も同時に引継ぐので、簿外債務など経営にマイナスとなる要素も引継いでしまうリスクもあります。

ただ手法としてプラス面も多いので、株式譲渡は後継者問題に悩んでいる経営者が第三者に事業承継するときなど、多くの場面で利用されています。

第三者割当増資

買収スキームのうち、第三者割当増資は、新株で発行する株式を特定の第三者に限定して交付するスキームです。

広く市場に株式を公開して出資を募る公募増資や既存株主に保有割合に応じて新株を発行する株主割当増資とはその目的が違います。

その目的とは、新株の交付対象となる第三者との関係強化、業務上の提携強化、資金調達などです。

ただし第三者割当増資の際、新株発行で有利発行した場合(新株発行法人の株式の時価より相当低い価格で新株発行を行なうこと)、会社法上の手続として株主総会の特別決議が必要となります。

株式交換

買収スキームで3番目のスキームが株式交換です。

株式交換とは、たとえばA社とB社があった場合、A社がB社の発行済株式を全て取得する際、その対価としてA社の株式をB社の株主に交付するスキームです。

こうすることでA社はB社を100%子会社としてA社の傘下に加えることができます。

このスキームでは、株式交換の対価として主に対価として株式が使えるので(株式以外に金銭や社債も使うことも可)、自社に手元資金が少なくても他社を子会社とすることが可能です。

一方株式交換では、実施後も100%子会社となる会社は別会社として存続でき、会社合併のように実施後に元の会社がなくなるようなことはないので、急いで経営統合する必要もありません。

100%子会社となる会社の組織の特徴や長所を尊重しながら買い手は時間を掛けてグループ化が可能です。

株式移転

買収スキームには株式移転という手法もあります。

株式移転とは、A社、B社、C社等、複数の会社の株主が共同出資して作った新会社が受け皿となり、複数の会社の株主から全ての株式を取得して、対価として新設会社の株式を各社の株主に交付することで、新設会社の下に全ての会社を子会社するようなスキームです。

また株式移転には種類として単独株式移転と共同株式移転があり、多くの場合、共同株式移転という手法が使われています。

この株式移転では、買い手は買収時、対価として新設会社の新株を発行すればいいので、あらためて買収資金を用意する必要がない点が大きなメリットです。

また株式交換同様、M&Aで株式移転を使っても、100%子会社となる各社は子会社として存続できるので、経営統合や実質的グループ化も時間を掛けて行なえるメリットがあります。

事業譲渡

買収スキームのうち、株式譲渡と並び、多くの会社で利用されている手法がこの事業譲渡です。

事業譲渡とは、売り手が持つ事業の全部または一部を買い手に売却・譲渡して、代わりに現金等の対価を受け取るスキームです。

株式譲渡のように経営権自体を引き渡す取引でなく、特定の事業及びそれに有機的に関わっている経営資源(従業員、設備、ノウハウ、のれんなど)を一体で譲渡するスキームが事業譲渡です。

ただし事業譲渡は会社法上の組織再編ではなく、資産や負債ごと、個別に項目を指定して譲渡する手法なので株式譲渡に比べて時間も手間も掛かります。

一方で買い手として引継ぎたい項目(資産、負債、契約等)を個別に指定して買収できるので、簿外債務などのリスクを回避できるメリットもあります。

会社分割(吸収分割及び新設分割)

買収スキームのうち、事業譲渡と同じ範疇にあるのが会社分割というスキームです。

また会社分割は吸収分割と新設分割の2つに分けられます。

会社分割とは、会社が行なっている事業に係る権利義務の全部または一部を他社に引継いでもらい、対価として株式や金銭等を受領するスキームです。

このうち吸収分割では、ある企業に自社が有する事業を全部または一部引継いでもらい、株式か金銭等を受領します。

前述した事業譲渡だと、買収対象となる権利義務について個別の移転手続が必要ですが、吸収分割を使うとその手続が不要になるので便利です。

一方新設分割とは、新しく設立した会社が既存の会社が有する事業に係る権利義務を全部または一部引継ぐ方法です。

どの会社がどの事業範囲を引継ぐかという点を除けば、新設分割は吸収分割とスキーム的に大きな違いはありません。

日本のM&Aでは、会社分割の場合、吸収分割が新設分割より多く活用されています。

合併(吸収合併及び新設合併)

狭義のM&Aストラクチャーのうち、買収スキームと並び、大きな範疇でくくれるのが合併というM&Aスキームです。

合併とは、文字通り、複数の会社をひとつにまとめて統合して、M&Aを実現するスキームです。

また合併には、吸収合併と新設合併という2つの方法があります。

吸収合併とは、合併で消滅する会社が持つ全ての権利義務を合併後も存続する会社が全て引継ぐスキームです。

一方新設合併とは、合併で消滅する単独または複数の会社が持つ全ての権利義務を、合併時に新しく設立された会社が引継ぐスキームをいいます。

ただし日本のM&Aでは、手法として合併が使われた場合、その利便性から新設合併でなく吸収合併が使われることが多いです。

合併が持つ特徴としては、合併で複数の会社や事業が一つになるので、それぞれ単独で経営や事業を行なうよりも経営効率が上がり、売上面、コスト面、その他各方面でシナジー効果が働きやすくなります。

各M&Aストラクチャーの留意点比較

各M&Aストラクチャーの概要や個別の特徴を解説してきました。

本章ではその概要を踏まえ、M&Aで個別のストラクチャーを選んで利用する際の留意点を説明します。

各ストラクチャーを利用する際に、当事者が留意しなければならない主な点は以下の通りです。

  • 実施に当たり会社法に基づきどのような決議が会社として必要か
  • 債権者保護手続が必要か否か(※1)
  • そのストラクチャーは税制適格要件を満たしているか(※2)
  • M&A取引で消費税を支払う必要があるのか

(※1)債権者保護手続とは、組織再編を行なう際、自社の債権者の利益を保護する目的で、組織再編を行なう通知、組織再編に対する異議を述べる機会を与えるための手続のこと

(※2)そのストラクチャーが税制適格要件を満たすと、譲渡損益の繰り延べなどのM&Aにおける税務対策にもつなげられるので重要

以下の表を参考に、自社に合ったM&Aストラクチャーの選定作業を進めて下さい。

(※3)有利発行の場合

(※4)一定の要件を充たした場合、例外的に存続会社等の株主総会特別決議を省略できる簡易組織再編や略式組織再編の制度あり

(※5)売り手は事業の全部または重要な一部を譲渡する場合、買い手は事業の全部を譲り受ける場合

おわりに

M&Aストラクチャーの概要について、各ストラクチャーの概要と特徴、利用の際の留意点など、詳しく解説しました。

各ストラクチャーの特性をよく理解して、また専門家(M&A仲介業者、FA、弁護士、公認会計士等)の助けも借りて、自社に適切なM&Aストラクチャーを選びましょう。


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