M&Aのプロセスの概要とは
はじめに
M&Aを行なう当事者にとって、M&Aのプロセスを理解しておくことはとても大切です。
M&Aは、企業規模の大小問わず、今や経営戦略のひとつとしてとても重要な役割を果たしています。
一方ケースによっては着手から成約に至るまで最長2年以上も掛かるので、M&Aの当事者は当初に立てた目標を見失わないよう、全てのプロセスをしっかり把握及び管理しておく必要があります。
本記事では、M&Aのプロセスについて、その概要や各フェーズでの重要項目、取扱い上の注意点などについて詳しく解説します。
M&Aのプロセスとは
M&Aのプロセスとは、その進行について全ての手順及び方法のことを指していいます。
M&Aのプロセスは開始から成約まで、短くて数ヶ月、長ければ2年以上掛かり、さらにその後の経営統合(PMI)の期間を入れると一般的に長期化します。
それだけにM&Aに係る当事者は、当初に立てた目標を常に意識しつつ、最終ゴールを目指してしっかり取り組まなければなりません。
M&Aのプロセスは大きく分けて3つのフェーズからとらえることができます。
1つめのフェーズは「検討・準備フェーズ」です。
M&Aに係る当事者のニーズや実現すべき目標を見据えて、M&Aの戦略を策定したり、売買ターゲットを絞り込みしたりします。
2つめのフェーズは「マッチング・交渉フェーズ」です。
このフェーズでは、M&Aの当事者である売り手や買い手が具体的にマッチングや条件交渉を行ないます。
そして双方の意思が合意方向で大まかに確認できれば基本合意書を交わし、より詳しく情報交換してデューデリジェンスを実施、その結果を売買額(譲渡額)に反映しつつ次のステップに進みます。
3つめのフェーズは「最終契約フェーズ」です。
そしてこれがM&Aの最後のプロセスで重要な手続きになります。
このフェーズでは、これまでの交渉や合意内容を踏まえて最終契約書を締結、そして一定期間内に買収対象会社の株式と対価を交換するなど、クロージングでM&A成約に係る事後処理を行ないます。
以上がM&Aのプロセスの大きな流れです。
以下で各フェーズについてさらに詳しく説明します。
プロセス①検討・準備フェーズ
検討・準備フェーズでは、M&Aの戦略を策定した後、売り手買い手、双方の立場から交渉する相手(ターゲット)の絞り込みを行ないます。
M&A戦略策定
検討・準備フェーズの段階では、まず自社の現状を細かく分析した後、M&Aで達成すべき目的や目標を策定して、そもそもM&Aが自社のニーズ達成に適切な手段かどうかも含め、戦略を練ります。
M&Aで会社・事業の売り手は、その目的が第三者への事業譲渡、不採算部門の切り離しなどになる場合が多く、売却・譲渡価格を適切に把握するためにも、前提として自社の経営状況・純資産や負債等の状況を把握することが大事です。
さらに加えて、M&Aの交渉時に売却価格に対してプラスとなる特許や独自ノウハウ、逆に評価のマイナス要因である簿外債務などの整理もしておく必要があります。
一方M&Aの買い手は売り手以上に初期の戦略策定が重要です。
買い手がM&Aの目的を曖昧なまま交渉を進めてしまうと、買収コストの算定やリスク評価がいい加減になり、たとえ成約しても不満足な結果や失敗に終わることもあります。
それだけに買い手としては、当初に買収後の組織のあり方、成長戦略に関するビジョン等を明確にして交渉を始めなければなりません。
具体的には策定した買収戦略に沿って、適切な相手をまず20~30社から絞り込み、次に候補先を4~5社以内に絞り込みしていくという作業が必要です。
ターゲット絞込み
売り手や買い手の交渉相手(ターゲット)の絞込みでは、もちろん当事者の取引先や金融機関等から紹介を受けて対象者を探すこともできます。
しかしそれでは探す範囲が限定され自社のニーズに合った相手を見つけることが難しく、やはり交渉相手を探すにはM&A専門業者等、プロフェッショナルの助けを借りる方が適切です。
またM&Aのプロセスでは、法律や会計・税務等、専門性を要する手続きが多く、当事者単独で手続きを進めるのは難しいので専門業者からサポートを受けて進めるのが効率的と考えます。
M&Aの取扱い業者としては、FA(ファイナンシャルアドバイザー)、M&A仲介業者、マッチングプラットフォーム、国の支援機関など様々利用できますが、自社の企業規模、会社ニーズ、利用コストなどに沿って適切に利用しましょう。
利用する業者が決まれば、まず売り手は業者の助けを借りてノンネームシートを作成します。
ノンネームシートとは、会社が特定されない範囲の情報をまとめた書類(概要書)のことで、内容として業種、事業規模、業績推移、希望譲渡価格、希望のM&Aスキームなどが簡潔にまとめられています。
売り手と委託契約を結んだM&A仲介業者やFAは、多くの買い手候補の中から、このノンネームシートを複数の買い手に提示して、興味があるかどうか打診します。
一方ノンネームシートを提示された買い手候補は、その記載内容や独自の調査を元にその売り手と買収交渉をさらに先に進めるべきかどうか社内で検討します。
そして前に進めることを決めたら、更なる交渉に進むため、次のフェーズへと移って行くのです。
プロセス②マッチング・交渉フェーズ
マッチング・交渉フェーズでは、売り手が企業概要書を作成して買い手に提供、買い手は企業概要書を基に、売り手とさらに交渉を進めていくか、社内で検討を行ないます。
そして最終的に交渉を進めることが決まれば双方で基本合意書を締結します。
基本合意書締結後は各デューデリジェンスを実施、その結果を踏まえて、さらに売却・譲渡価格、M&Aスキームに係る取引条件など、M&Aの重要事項を決める手続きを前に進めます。
企業概要書作成
ノンネームシートを介してアプローチしてきた買い手に対して、売り手は秘密保持契約(NDA)を締結した後、より詳細な企業情報(社名、会社概要、事業内容、取引先、財務データ、資産設備状況、雇用内容等)をまとめた資料(企業概要書・インフォメーションメモランダム)を開示・提供します。
また通常、この企業概要書はM&A仲介業者または売り手側FAが用意します。
そして企業概要書の開示を受けた買い手は、資料を元に社内でM&Aを先に進めるか判断します。
買い手の判断プロセスの中で最も重要な作業が買収対象企業の企業価値判定(バリューション)とM&Aスキームの絞込みです。
まず買収対象企業の企業価値判定についてです。
もちろん企業概要書の中にも売却希望価格は記載されていますがそれはあくまで売り手側の要望に過ぎません。
また企業価値判定の算定方法にもやり方が様々あり、業界として決まった方式があるわけでないので、企業概要書の情報を元に、買い手は仲介業者や公認会計士等、専門家の助けも借りて、買い手として独自の企業価値判定を行なう必要があります。
一方M&Aスキームの絞込みもこの段階での重要な作業のひとつです。
M&Aの代表的なスキームとして、株式譲渡、事業譲渡、会社合併、会社分割、株式交換、株式移転等があります。
買い手としては、売り手の意向も踏まえ、M&A実行後のビジョン、買収対価、税制面、対象会社の持つリスク等、総合的に勘案して、合意可能で適切なスキームを選ぶ必要があります。
基本合意書締結
交渉開始からM&Aの方針や売買条件について基本合意が締結されるまでの間には、売り手買い手の経営者同士の直接面談(トップ面談)も実施されます。
この直接面談では売却・譲渡価格などの具体的な話はせず、売り手買い手双方の経営ビジョン、売却・譲渡後の運営方針や経営状況等をすりあわせして相互の理解を深める場に利用します。
そしてこのような流れを経て双方のM&Aに向けた意向が固まれば、M&Aスキームや売買条件について暫定的な合意事項と以後のプロセスに係る規定等を盛り込んだ基本合意書を取り交わします。
なおこの基本合意書は、原則、法的拘束力を持つ書類でなく、最終的なM&A契約を確約するものではありません。
なぜならその後に実施するデューデリジェンスの結果次第では、M&A契約そのものが破談となる可能性もあるからです。
しかし売り手買い手の意向次第では、基本合意書の段階から法的拘束力を持たせて、交渉をより力強く進めることもできます。
デューデリジェンス実施
基本合意書の中ではデューデリジェンス実施に係るスケジュール(期間)も決めるのが一般的です。
デューデリジェンスとは、最終段階の取引条件の方向性やM&A実行後の対応を検討するため、法務・財務・税務・ビジネス・IT・環境等の各方面で、買い手の委託を受けた各専門家(弁護士、公認会計士等)が売り手の抱える経営リスクや問題点を洗い出す作業をいいます。
ただしデューデリジェンスも限られた時間・買い手が掛けられるコストの中で実施されるので、どの面に重点的なデューデリジェンスを行なうかは買い手によって異なります。
またデューデリジェンスの結果もばらつきがあります。
それでもデューデリジェンスの結果は、大枠で合意済みの売却・譲渡対価や契約条件等に調整弁として反映され、次の最終契約フェーズに進んでいきます。
プロセス③最終契約フェーズ
最終契約フェーズでは、これまでの交渉と基本合意、デューデリジェンスの結果等を踏まえ、最終契約書締結に向けた交渉が進みます。
最終合意・契約書締結
最終契約フェーズでは、基本合意の段階で合意した事項にデューデリジェンスの結果を反映させて、最終合意及び契約書の締結に向けて手続きを進めていきます。
買い手としては、デューデリジェンスで抽出されたリスク項目に基づき買収価格やM&Aスキームを見直し、売り手に対してリスクを下げるための施策の実行、リスクが発生したときのための補償の設定を求めます。
一方売り手は、買い手が要求してきた各項目について慎重に対処・譲歩するとともに、買い手に対して譲渡対価、代表者含む役員や従業員の処遇、事業の継続など、各要望の達成を求めていきます。
そして双方合意の上、最終交渉がまとまれば、いよいよM&Aについて最終契約書の締結に入ります。
なお、M&Aプロセスで当初に交わした基本合意書には法的拘束力はありませんが、この最終契約書には法的拘束力があります。
したがって契約締結後に譲渡金額に影響するような新たな瑕疵が見つかったとしても、契約内容を変更することは難しいので、双方とも事前に十分契約内容を確認しておくよう注意しましょう。
また契約書は最終契約書という名前でなく、採用したM&Aスキームによってその名称が変わります。
たとえばM&Aスキームが株式譲渡によるものなら株式譲渡契約書、合併によるものなら合併契約書などです。
クロージング
最終契約書の締結が終わると、最後の残された手続きとしてクロージングがあります。
クロージングとは、最終契約書に基づき会社の経営権等を移転する一連の手続きをいいます。
そしてクロージングをもってM&Aの手続きは完了して成約となります。
通常クロージングは最終契約書締結から1ヶ月以上掛かることも多く、買い手は売り手の協力も得て、クロージングの当日に向けて粛々と準備手続きを進めなければなりません。
通常クロージング当日には、主として以下のような手続きがあります。
- 売却または譲渡対価の支払い
- 株式交付と株主名簿の名義書換
- 会社の実印等重要物の引き渡し
- 会社の設立登記(合併・分割・移転等のケース)
その他にも事後処理として、経営権が移転するケースでは、臨時株主総会を開催して新体制に関して株主に承認を求めたり、役員の変更や商号等の変更があった場合には各種変更登記を行なったりすることも必要です。
クロージング後の経営統合(PMI)について
一連のM&Aプロセスが終了しても買い手にとって手続きはそれで終わりではありません。
買収企業にとってはむしろそれからが本番となる経営統合(PMI)の作業が待っています。
経営統合(PMI)とは、合併・買収後の新体制発足の下で、M&Aで得られたあらゆる経営資源を活用して、シナジー(相乗)効果を最大限に生み出していく、会社としての一連の統合作業のことをいいます。
経営統合(PMI)の良し悪しでその後の会社の将来が決まっていくといっても過言ではないでしょう。
それぐらい経営統合(PMI)はM&Aの買い手にとって重要な手続きといえます。
ただし本記事はM&Aのプロセスの概要についての記事なので、経営統合(PMI)の概要については、別の機会で詳しく解説します。
詳しくはそちらを参考にして下さい。
おわりに
M&Aのプロセスの概要について、主に3つのフェーズに分けて詳しく解説しました。
ただし本記事で示した概要は一般的な手続きであり全てを満たしたものではありません。
M&Aスキームによって細かな点では手続きに大きな違いがあります。
また手続きをスムーズに進めるためにも各種専門家のサポートが不可欠です。
不明点は各分野の専門家に相談してM&Aを積極的に進めていきましょう。
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