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上場準備における開示(ディスクロージャー)の概要

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_Panchenko Vladimirさん

はじめに

上場企業になると投資家の投資判断に必要な情報(事業内容及び財務内容、経営成績等)を公平かつタイムリーに公開する義務が課せられます。そのため各種法律、証券取引所規則等で開示(ディスクロージャー)の体系が決められています。

しかし開示は会社が上場後に必要なだけでなく、上場前、あるいは上場準備をしている段階から必要で、そのためにも早めから段取りしておかないと間に合いません。なぜなら株式上場審査はその開示書類の多くを使って審査されるからです。その点からも開示書類の段取りは、上場予定日の何年も前から開始する必要があります。

今回の記事では、上場準備の段階から必要とされる開示(ディスクロージャー)についてその概要を解説します。

上場企業に求められる開示(ディスクロージャー)の種類

まずは上場企業に求められる開示(ディスクロージャー)の種類について説明します。

上場企業に求められる開示には、法律に基づく「法定開示」、証券取引所規則に基づく「適時開示」、そして義務ではないものの会社として社会や投資家へのアピールを目的とした「任意開示」があります。

とりわけスムーズな法定開示や適時開示の実現のためには、上場準備段階から会社は開示体制を整えておくことが肝心で、経営者も開示種類の内容を理解して、専門家の協力も得てきちんと対策しておくことが必要です。

法定開示

企業には会社法、金融商品取引法(略称:金商法)等の法律に基づく開示が義務づけられており、さらに上場企業には金商法に加えて証券取引所の上場規則に基づく情報開示が義務付けられています。これを法定開示といいます。

このうち会社法は企業に対して、その企業の上場の有無に関係なく、一定の情報開示を求めており、そのため上場予定会社は、上場前から上場後も引き続いて会社法に基づく情報開示が必要です。

一方金商法は、一般投資家が十分な投資判断ができるよう、会社が有価証券の価値判断に必要な情報を適切に市場に出すよう求めており、会社法以上にさらに詳細な情報の開示を義務づけています。そのため株式や社債等、有価証券を発行し資金調達を行う企業は、有価証券報告書を各地の財務局に提出することを義務づけられており、その内容は金融庁のウェブサイト(EDINET)で誰でも確認することができます。

参照先:金融庁 有価証券報告書等の開示書類を閲覧するサイト

https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/EKW0EZ0001.htm...

適時開示

適時開示は金融商品取引所の規則で義務づけられている開示制度です。

法定開示は法律に基づき定期的かつまとめて報告される開示方法なので、投資家等がタイムリーに情報を得ることができないネックがあります。また法定開示では、投資家を保護するディスクロージャーの観点から見て情報が不足しているので、投資家が安心して合理的判断ができるよう、タイムリーに情報発信できる適時開示が求められています。具体的にいうと適時開示では、上場会社は投資判断にとって重要な会社情報が生じた場合、適時かつ適切にその内容の開示を行うルールとなっており、こうした適時開示で公正で透明な株価形成の確保が図られています。

また適時開示の重要な会社情報は「決定情報」「発生情報」「決算情報」の3つから構成されており、各項目もまた事項が細分化されています。以下に「決定情報」「発生情報」「決算情報」の代表的事例を挙げておきます。

  • 「決定情報」…新株式の発行、合併、新規事業の開始等
  • 「発生情報」…工場の火災、大株主の移動、訴訟の提起等
  • 「決算情報」…決算内容、業績、業績予想の修正等

なおこれらの適時開示情報は東京証券取引所が提供しているシステムTDNetで閲覧可能です。

参照先:東京証券取引所 TDNet(適時開示情報閲覧サービス)

https://www.release.tdnet.info/inbs/I_main_00.html

任意開示

任意開示とは、法律や規則での開示が義務づけられていない開示制度です。

しかし昨今、企業と投資家の間の対話が重要視される中、開示が義務づけられていないとはいえ、任意開示のニーズはどんどん高まっています。

具体的には、上場企業として投資家向け説明会を開催するほか、企業サイトを通じてより身近で分かりやすい情報を提供したり、統合報告書、アニュアルレポート等の発行なども行ったりしています。

上場準備の開示(ディスクロージャー)で整えるべき開示書類

上場申請では、上場予定の証券取引所が申請会社に対して、審査を行うため様々な書類の提出を求めてきます。

また提出に必要な書類名は各証券取引所のサイトで公表されていますが、その審査書類の中核をなすのが「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」及び「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」です。(以下略して(Ⅰの部)、(Ⅱの部))

(Ⅰの部)は、名前の通り、株式上場後は「有価証券報告書」として上場会社が毎期作成して公開していくものであり、上場時ファイナンスの際、財務局に提出する「有価証券届出書」のベースとなります。

一方(Ⅱの部)は、申請企業が上場審査を受けるために作成する資料です。すなわち(Ⅱの部)は(Ⅰの部)をより詳細に記載した書類で、上場審査の際の実質的な審査資料といえるでしょう。これは上場審査で用いられる書類であり、Ⅰの部と異なり公開はされません。

なお、東証のマザーズ市場(2022年4月以降グロース市場)においては、Ⅱの部は作成不要ですが代わりに「上場申請者に係る各種説明資料」の提出が求められます。この各種説明資料は、一部の項目を除き、会社パンフレット等の既に作成している書類の写しで代替できるとされています。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)について

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)は以下のような諸項目から構成されています。

第一部 企業情報
第1 企業の概況
第2 事業の状況
第3 設備の状況
第4 提出会社の状況
第5 経理の状況
第6 提出会社の株式事務の概要
第7 提出会社の参考情報
第二部 提出会社の保証会社等の情報
第三部 特別情報
第1 連動子会社の最近の財務諸表
第四部 株式公開情報
第1 特別利害関係者等の株式等の移動状況
第2 第三者割当等の概況
第3 株主の状況
監査報告書

ご覧の通り、(Ⅰの部)は上場申請企業を広範囲に説明したもので、会社の事業内容やその沿革など基本的なことから、財務諸表の開示、コーポレート・ガバナンスの状況等や特別利害関係人まで多岐にわたっています。(Ⅰの部)には財務情報に加えて、多くの非財務情報が盛り込まれているので、書類提出前の作成準備には相当の時間が掛かることが予想できます。さらに(Ⅰの部)の財務諸表には直近2期分の監査証明が必要です。

そのため上場申請時の開示書類の準備には、遅くても直前々期の期首より前から監査法人による会計監査が受けられる段取りを始めて、上場審査時には2期分の監査報告書を(Ⅰの部)に添付できる用意をしておく必要があります。

新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)について

(Ⅱの部)は、(Ⅰの部)をより詳しく記載した書類として、製商品・サービスの特徴、取引先の概要、経営管理体制など、記述して提出します。

より詳しく知りたい方は以下のサイトで(Ⅱの部)の記載要領を確認して下さい。

参照先:日本取引所グループ 提出書類フォーマット(新市場区分) 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領

<プライム>

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/docu...

<スタンダード>

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/docu...

<グロース>新規上場申請者に係る各種説明資料の記載項目について

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/docu...

またその他の必要な提出書類は以下のサイトが参考になります。

参照先:日本取引所グループ 提出書類フォーマット(新市場区分)

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/docu...

上場準備で開示書類はいつまでに整えるべきか

さて、上記で示した上場準備で審査に必要な開示書類はいつまでに整えるべきでしょうか。それは、主幹事証券会社が行う引受審査時には開示体制が整っている必要があるといえます。

なぜ引受審査時に開示体制が整っておかねばならないかというと、審査官に対して「開示書類が適時適切に作成でき、かつ安定的に開示できる体制が社内に整備済み」であることを実績で証明しなければならないからです。

会社が上場すると、以後は毎期の決算報告に加え、適時開示の決算短信、法定開示の四半期報告書など、様々な開示業務に追われることになります。上場審査の段階で開示体制が整っていなければ、上場後の迅速かつタイムリーな情報開示など無理な話です。いわば上場審査時の開示体制の整備はその前哨戦ともいえます。

全社的な協力体制を確立して、上場準備の開示体制を可能な限り早めに整えるようにしましょう。

おわりに

上場準備に係る開示(ディスクロージャー)について、開示の種類と各々の必要性、開示書類の内容、開示書類の作成タイミングなど、その概要を解説しました。

上場審査に係る開示の内容には、経営環境の変化に沿って様々なトレンドがあります。また開示に伴う法律や規則も刻々変化しています。

それらをタイムリーにキャッチし、臨機応変に対応していくのも、上場審査を確実に通るための秘訣です。弁護士法人、監査法人、コンサルタント等、専門家の助けも借りて、抜かりない開示体制を構築しましょう。


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