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M&Aにおけるデューデリジェンスとは

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_Portrait Image Asiaさん

1.はじめに

近年、盛んに行われている企業買収(M&A)は、新しい事業をスピーディーに展開することや、シナジー効果により業績を向上させるなど、買い手の目的により多様な取引が行われています。既に取引関係のある企業を買収する場合もあれば、これまでの事業内容と何ら類似性のない企業を買収する場合など、様々なM&Aが実行される時代となっています。

しかし、実際に企業を買収するとなると、相手方の企業価値や今後の業績予想、社内体制の状況などを把握しなければ、買った後に「こんなはずではなかった」と陥らないとも限りません。

「こんなはずではなかった」に陥るリスクを低減するために、M&Aを行う際の専門的調査等として行われる「デューデリジェンス」の留意点について解説します。

2.デューデリジェンスとは

「デューデリジェンス」とは、英語で「Due」(正当な・当然の)と「Diligence」(勤勉・注意)という2つの単語を組み合わせた言葉であり、「企業などに要求される当然に実施すべき注意義務」と訳されるものです。M&Aにおけるデューデリジェンスとは、企業買収の際に行われる売り手への専門的な調査という意味で使われています。

売り手の行う事業の内容や保有資産の状況、雇用している人員の状況に応じて、デューデリジェンスは、その分野に応じた専門家に依頼することが一般的です。

3.様々なデューデリジェンス

M&Aの際には、買い手が売り手の何を取得するためにM&Aを実施するかにより、デューデリジェンスの種類や範囲が異なります。例えば、得意先(顧客)を引継ぎたいのか、保有している権利や許認可を取得したいのかなど、買い手には明確な取得の目的があります。買収により、その取得する目的が問題なく果たせるのか、また、取得するための買収価額に影響を与える事象を調査するためのデューデリジェンスには、以下のような種類があります。

(1)財務・税務デューデリジェンス

代表的なものには、財務デューデリジェンスが挙げられます。買収時点の財務・損益の状況を把握し、企業価値算定に影響を与える事項や、買収により影響がある財務項目や会計処理などの調査を行います。一般的には、正常収益力・運転資本・有利子負債・簿外債務・偶発債務・設備投資・ネットデット・関連当事者取引などが実施される主な調査事項となります。なお、財務と合わせて、税務デューデリジェンスを行う場合があります(株式取得の場合、買収後に税務調査等で過去の租税債務が見つかった場合、買い手が債務者となるためです)。

税務デューデリジェンスでは、税務調査の状況や潜在的な税務リスクが調査事項となります。調査を担当する専門家としては、財務デューデリジェンスは、公認会計士等が行い、税務デューデリジェンスは、税理士等が行っている場合が多いです。

(2)法務デューデリジェンス

M&Aの対象会社が、法務部門が充分ではない場合、契約書の不備・不足や、会社法に準拠した手続きが実施されているかなどの調査が必要となり、その場合に、法務デューデリジェンスが実施されます。一般的には、過去の決議(株主総会・取締役会)の有効性・取引契約書の内容・知的財産権の保有状況・訴訟等についての確認が実施される主な調査事項となります。調査を担当する専門家としては、弁護士等が行っている場合が多いです。

(3)労務デューデリジェンス

売り手の従業員を引き継ぐ場合、人事労務の規程や労使関係の契約・未払残業代の有無などの調査が必要となり、その場合に、労務デューデリジェンスが実施されます。一般的には、勤怠管理や残業代の計算等の確認によりサービス残業(未払残業)の有無等が確認されます。サービス残業が常態化している企業では、株主の変更を機に従業員から未払残業代不払いに関する訴えを起こされるリスク等があり、また、過年度の収益性は、人件費が過小計上されているおそれがあるため、重要な調査事項となります。調査を担当する専門家としては、社会保険労務士等が行っている場合が多いです。

(4)ビジネスデューデリジェンス

売り手のビジネスにおける強みや、営業の特性などビジネスに特化した事業分析を行う調査として、ビジネスデューデリジェンスが実施されます。一般的には、SWOT分析(会社の強み・弱み・機会・脅威)や、KPIの分析を行い、取得後にスムーズに買い手と統合することが出来るかなどを主に調査します。財務・税務デューデリジェンスが過去数値を基にした実態把握であるのに対して、ビジネスデューデリジェンスでは、ビジネスの将来性やリスクの把握を目的としています。ビジネスデューデリジェンスを行っているコンサルティング会社なども専門家として存在していますが、実際に統合が可能かを検討する必要性から買い手のM&A検討部門にて実施する場合も多いです。

(5)環境デューデリジェンス

その他のデューデリジェンスとしては、売り手が工場等を保有している場合、将来的な建替えの際に環境問題(土壌汚染)が顕在化する可能性や、大気汚染などの問題が発生するリスクについて事前に調査を行う環境デューデリジェンスなどがあります。環境デューデリジェンスは、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関に登録されている企業等が実施する場合が多いです。

4.デューデリジェンスを実施する際の留意点

M&Aにおいて、売買契約を締結する前の重要なプロセスであるデューデリジェンスですが、様々な種類の中から、どのデューデリジェンスを行うかを買い手は決めなければなりません。必ずしも問題点を発見することが目的ではなく、売り手に問題がないことを確認することもデューデリジェンスの目的となるため、デューデリジェンスに使うことが出来る予算や確認を行いたい項目によって、実施する範囲を決めることになります。

デューデリジェンスを実施するにあたり、留意いただきたい点が以下となります。

(1)売り手との関係性

デューデリジェンスを行う場合、売り手には膨大な資料の提出や質問への回答の負担が強いられます。M&Aが成約するためには、売り手がデューデリジェンスに協力的でなければならず、売り手側にも買い手とのM&Aを成約させたいという意識が必要となります。時に、情報統制等の観点からオーナーのみがM&Aを検討しており、実務を行っている従業員が調査の実施を知らない場合があります。その場合、資料が不十分であったり、オーナーでは実務を理解しておらず明確な回答を得られなかったりなど、デューデリジェンスの手続きが不十分な結果に終わる場合があるため、留意が必要となります。

(2)専門家の選定

デューデリジェンスを行う専門家は、多数あり、どこに依頼するかは買い手にとって重要な選択となります。価格・実績・スケジュールへの対応などを総合して判断する必要があり、数社の専門家から相見積もりを取得するなど、留意が必要となります。M&Aを頻繁に行う買い手であれば、買い手のビジネスやM&A後の統合に関する問題点を把握している専門家を継続して利用する方が、デューデリジェンスがスムーズに進むため、いくつかの専門家とあらかじめコミュニケーションを持っておくのも良いでしょう。

(3)スケジュール

デューデリジェンスを外部の専門家に依頼する場合、一般的に資料依頼・資料受領・資料分析・マネジメントインタビュー・レポーティング・買い手への報告といった流れで進みます。

仮に、買い手企業において、M&Aの実行日を〇月の取締役会で承認決議を行うと決めていた場合、デューデリジェンスの買い手への報告は、取締役会の前に行われなければなりません。デューデリジェンスの調査の期間は、案件により様々ですが、依頼する専門家がいつまでに報告を行うことができるかは、予め専門家と協議を行う必要があります。なお、スケジュールを確定し、専門家に依頼した場合、(1)で前述したように、売り手側が非協力的で資料の提出が不十分な場合は、提出された資料の範囲内で専門家は報告を実施しますので、期待した調査結果の報告を受けることが出来ない可能性があります。その場合は、買い手側でスケジュールの見直しなどが必要となります。なお、案件によっては、1年を超えるデューデリジェンスが実施される場合があります。

(4)M&A取引に対するデューデリジェンス結果の反映

デューデリジェンスの結果により、既存の資産の価値が毀損していたり、収益性が過去の数値より低下していたり、予定していた買収価格では、買い手が買収する価値がない場合があります。その場合は、売り手側と買収価格の交渉が必要となります。また、将来的なリスクや、調査しきれなかった事象がデューデリジェンスにおいて検出された場合は、M&Aにおける契約書に表明保証条項(売り手が、対象会社の一定項目(財務や法務等)について、その内容が正しいことを表明し保証し、虚偽の事実があった場合には売り手へ損害を補填するなどの責任を追及することができる条項)を盛り込むなどの対応が必要となります。

5.おわりに

デューデリジェンスは、適正な買収価格を見極めるためにも、ある程度のコストをかけて実施する必要があるプロセスです。そして、デューデリジェンスの実施により、買収後の利得よりも将来的なリスクが大きい場合は、買収を断念せざるを得ないという選択も買い手側は決断を行わなければなりません。M&Aにおいて、買い手側が価値ある買い物(買収)をするためには、自社における綿密な事前検討と、目的に沿った十分かつ効果的なデューデリジェンスの実施が成功の鍵と言えるでしょう。


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