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M&Aの取得者側における税務上の扱い

camera_alt Shutterstock_寄稿者 Miha Creativeさん

はじめに

企業の成長戦略としてM&Aの利用を検討している方も多いかと思います。

M&Aにより既に実績のある会社や事業を取得することにより、新規事業をゼロから立ち上げるよりも時間やリスクを低減する効果が期待できます。また、新たな人材やノウハウの獲得により既存事業との相乗効果が望めることが考えられます。

しかしながら、一口にM&Aと言っても、その手法は様々あり、手法毎に法人税や消費税などの税務上の扱いも異なります。そこで、今回はM&Aの取得者側における税務上の取扱いを解説します。

ある会社が他の会社や事業を取得しようとするとき、その手法として、例えば、以下の3パターンが考えられます。

  1. 合併
  2. 他社事業の取得(会社分割、事業譲渡)
  3. 株式取得等による子会社化(株式譲渡、株式交換)

以下それぞれの手法ごとに、会社や事業の取得者側における税務上の扱いを確認します。


1.合併

合併とは、2つ以上の会社が契約に基づき1つの会社となることをいいます。

法人税法上の扱い

合併の法人税法上の取扱いは、適格合併(税制適格要件を満たす合併)の場合と非適格合併(税制適格要件を満たさない合併)の場合で異なります。

適格合併では、合併法人に移転する被合併法人の資産負債については簿価で引継ぎを行います。

これに対して、非適格合併の場合は移転する資産及び負債については時価で譲渡することになります。また、移転資産負債の時価純資産と交付株式等の時価とに乖離がある場合には、合併法人において資産調整勘定または負債調整勘定が認識され、資産調整勘定については5年間にわたって月割りで損金に算入されます。負債調整勘定のうち差額負債調整勘定については5年間にわたって月割り、それ以外については一定のタイミングで、それぞれ益金に算入されます。

合併の税制適格要件は、株式保有状況に応じてそれぞれ表1の要件を満たす必要があります。

表1

表2

なお、株式取得などにより買収した法人と合併する場合であっても、合併の直前に完全支配関係または支配関係があれば、表1のグループ内の合併に該当することになります。

また、適格合併に係る被合併法人のその合併の日前10年以内に開始した各事業年度において生じた未処理欠損金額は、原則として、合併法人の当該合併前の各事業年度において生じた欠損金額とみなすこととされています。しかしながら、すべての適格合併等において被合併法人の青色欠損金の使用が認められると、赤字法人の青色欠損金のみを利用するような合併等が多用されることが予想されるため、以下のいずれにも該当しない適格合併の場合には、被合併法人等の青色欠損金の使用が制限されています。

  • 共同事業の適格合併である
  • 支配関係発生日が、合併事業年度開始の日の5年前の日(又は設立日のいずれか遅い日)よりも前である
  • みなし共同事業要件を満たしている
  • 支配関係発生事業年度の直前事業年度末における時価純資産超過額が未処理欠損金額以上である

消費税法上の扱い

消費税は国内において事業者が行った資産の譲渡等に対して課税されます。従って、包括承継である合併による資産の移転に対しては消費税が課税されません。


2.他社事業の取得(会社分割、事業譲渡)

事業の一部または全部を取得する手法は、その法的形式の違いにより、会社分割と事業譲渡に分けることができます。

2.1.会社分割

会社分割とは株式会社または合同会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後新たに設立する会社または既存の他の会社に承継させることをいいます。分割には分割型分割と分社型分割があり、分割対価が最終的に分割法人の株主に交付される分割を分割型分割といい、分割対価が分割法人に交付される分割を分社型分割といいます。

法人税法上の扱い

会社分割においても合併の場合と同様に、税制適格要件を満たすか否かで法人税法上の取扱いが異なります。

適格分割では、分割承継法人に移転する分割法人の資産負債については簿価で引継ぎます。

これに対して、非適格分割の場合は移転する資産及び負債については時価で譲渡することになります。また、移転資産負債の時価純資産と交付株式等の時価とに乖離がある場合には、分割承継法人において資産調整勘定または負債調整勘定が認識され、資産調整勘定については5年間にわたって月割りで損金に算入されます。負債調整勘定のうち差額負債調整勘定については5年間にわたって月割り、それ以外については一定のタイミングで、それぞれ益金に算入されます。

会社分割の税制適格要件は、株式保有状況に応じてそれぞれ表3の要件を満たす必要があります。合併と比べると、按分型要件(分割型分割のみ)と主要資産等引継要件が追加的に課されています。

表3

表4

消費税法上の扱い

合併と同様に会社分割は包括承継であるため、資産の移転に対して消費税が課税されません。

2.2.事業譲渡

事業譲渡とは売り手が営む事業の全部または一部を買い手に譲渡する行為をいいます。

法人税法上の扱い

事業譲渡は売買取引なので時価で取引することが原則となります。従って、移転する資産及び負債については時価で引継ぐことになります。

また、受け入れた時価純資産と交付対価に乖離がある場合には、買い手において資産調整勘定または負債調整勘定が認識され、資産調整勘定については5年間にわたって月割りで損金に算入されます。負債調整勘定のうち差額負債調整勘定については5年間にわたって月割り、それ以外については一定のタイミングで、それぞれ益金に算入されます。

消費税法上の扱い

事業譲渡は、権利義務の包括承継ではなく売買であるため、それぞれの受け入れる資産の内容により消費税の課税・非課税の判断を行う必要があります。


3.株式取得等による子会社化(株式譲渡、株式交換)

株式取得とは、買い手が対象企業の株主から株式を取得し、対象企業の支配が可能な議決権を獲得する手法をいいます。子会社化の手法として、株式譲渡による方法のほか、株式交換等も用いられます。

3.1.株式譲渡

株式譲渡とは、被買収会社株式を買収会社に譲渡し、被買収会社の株主が譲渡代金を受け取る手法をいいます。

法人税・消費税法上の扱い

株式譲渡では株主が交代しますが、対象企業のすべての事業や資産、負債はそのままの形で残り、税務上は資産負債の評価替えは実施しません(グループ通算制度下での株式譲渡を除く)。また、消費税も課税されません。

3.2.株式交換

株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社等に取得させることをいいます。

法人税法上の扱い

  • 完全子法人

株式交換においても、税制適格要件を満たすか否かで法人税法上の取扱いが異なります。

適格株式交換により完全子法人となった法人の資産負債については時価評価を行いません。

これに対して、非適格交換により完全子法人となった法人の一定の時価評価対象資産について時価評価が行われることとなり、評価益又は評価損は株式交換を行なった事業年度の益金または損金の額に算入されます。時価評価の対象になる資産は、固定資産、土地、有価証券、金銭債権、繰延資産ですが、帳簿価額が1,000万円に満たない資産等の一定のものは時価評価の対象から除外されています。

株式交換の税制適格要件は、株式保有状況に応じてそれぞれ表5の要件を満たす必要があります。

表5

  • 完全親法人

完全親法人が完全子法人株式を取得し、対価として完全親法人株式を交付した際、完全親法人においては、受け入れた完全子法人株式に相当する部分の金額について、資本金等の額を増加させます。受け入れる子法人株式の帳簿価額は表6のとおりとなります。

表6

消費税法上の扱い

消費税は課税されません。


おわりに

以上のようにM&Aの手法ごとに、税務上の扱いが異なってきます。また、課税関係だけでなく、法的効果や会計処理にも違いが生じます。場合によっては予想外の負担を負うことも考えられますので、組織再編を行う際には、各分野の専門家に相談するなど、慎重にその手法を検討する必要があります。


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