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M&A における表明保証とは

camera_alt Shutterstock_寄稿者 Natee Meepianさん

はじめに

M&A(企業買収)の一般的な流れとしては、基本合意書の締結後に買収監査(デューデリジェンス)を行い、対象会社の問題点を洗い出した上で最終的な譲渡代金を交渉し決定していくことになります。しかし、買収監査によって対象会社の問題点を限られた情報や時間の中で全てを明確にすることは困難であり、M&A実行後に問題点が発見されることも少なくありません。

そのため、M&Aにおける契約書には譲渡代金に反映出来ていない事項について表明保証条項を記載することが契約の前提となっています。そこで本記事では、株式譲渡契約における表明保証条項の一般的な内容について解説いたします。

表明保証とは

表明保証(Representations and Warranties *1。)とは、一般的には契約当事者の一方が、他方当事者に対し、主として契約目的物などの内容に関連して、一定時点において一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証するものであると解されています。

*1 英米法上のWarranty(担保責任・保証)やMisrepresentation(不実表示)の概念を起源として発展した概念であると言われています)

M&Aの一般的な流れとしては、

1.事前準備(対象会社の選定、秘密保持契約の締結による資料受領・検討)

2.基本合意書の提出(最終契約前の仮条件の合意事項等)

3.デューデリジェンス(対象会社を調査し、M&Aを実行する上で障害となる問題点の有無の確認作業)

4.最終契約書の締結(最終条件の確定、表明保証条項)

5.クロージング(M&A取引における資金決済、株券引渡し等)

となります。

ここで、最終契約書に盛り込まれる表明保証条項とは、例えば、対象会社の貸借対照表上に計上がされていない偶発債務を保全するために、買手企業に対して追加的な債務が存在しない旨などを保証することをいいます。

表明保証の対象となる個別事項

表明保証(特に対象会社に関する表明保証)は、対象会社の財務状態など対象会社の企業価値そのものに直接影響を与える事項を中心に、両当事者が前提とした状態の中でも特に重要と思われる事項を網羅するかたちで形成されます。どのような事項が表明保証の対象になるか、どの程度詳細な表明保証が行われるかは、案件によって様々であり、必ずしも統一的な決まりがある訳ではありません。ここでは株式譲渡において一般的に表明保証の対象として検討されることが多い事項を列挙します。

1.当事者に関する表明保証

① 契約の締結及び履行権限 ② 契約の有効性及び執行可能性 ③ 倒産手続の不存在 ④ 法令、判決、契約等にかかる違反 ⑤ 株式の保有(注:売主のみが表明保証する対象)

2.対象会社に関する表明保証

① 設立及び法的に有効な存続 ② 倒産手続の不存在 ③ 法令、判決、契約等にかかる違反 ④ 株式 ⑤ 財務諸表 ⑥ 潜在債務 ⑦ 後発事象 ⑧ 租税 ⑨ 役員・従業員 ⑩ 労働問題等 ⑪ 資産 ⑫ 不動産 ⑬ 知的財産権 ⑭ 保険 ⑮ 子会社等 ⑯ 重要契約 ⑰ 許認可 ⑱ 法令違反等 ⑲ 規則の順守 ⑳ 反社会的勢力との関係 ㉑ 環境問題 ㉒ 紛争 ㉓ 情報開示 ㉔ 売主グループとの関係 ㉕ 手数料

上記に列挙したように株式譲渡契約では、その大部分が対象会社に関する表明保証によって占められることが多いのが一般的となっております。これらの項目のうち、財務状態以外に論点となりやすい個別事項として、以下では、株式の帰属、人事労務の潜在債務およびコンプライアンスの3つの項目について見ていきます。

個別事項例1:株式の帰属

初めに、株式の帰属について見ていきます。

買主としては、株式譲渡契約に譲渡対象として記載されている株式が売主に帰属していることを表明保証の対象としてもらう必要があります。具体的には、売主が、当該株式に関して、以下に述べるような第三者に対する抵抗可能な完全な権利を有していることが表明保証の対象とされます。

第一に、最も基本的な「帰属」の部分について詳細に規定するとすれば、対象会社の株主名簿を添付して、「当該株主名簿が対象会社の株主名簿の真正かつ正確な写しであり、売主は保有する対象会社の譲渡する株式を適法かつ有効に有し、かかる株式について唯一の株主であること」が表明保証されます。

第二に、株式の帰属について対抗要件を具備していない場合には、二重譲渡などがあった場合に第三者にその帰属を主張できないことがあることから、「譲渡対象株式について売主が対抗要件を具備している唯一の株主であること」が表明保証されます。

第三に、売主が株式を保有していたとしても、当該株式に売主が質権を設定していたり、当該株式が差し押さえられていたりすれば、買主は完全な株主としての権利を取得できないため、「譲渡対象株式には質権その他の担保権、譲渡の予約その他の担保類似の権利、裁判所による差押えもしくは仮処分、第三者からの権利主張やクレームその他の如何なる制限もしくは負担も付されておらず、売主は対象会社の株式に関する完全な権利を有していること」が表明保証の対象とされることもあります。

第四に、売買の対象となっている対象会社の株式の権利関係について紛争が生じているような場合には、上記記載のような表明保証を売主からもらったとしても、第三者に株式を奪われてしまう可能性があることから、買主としては、「売買の対象となっている対象会社の株式の権利関係について、いかなる判決、命令、決定、または裁判上の和解も存在せず、訴訟、仲裁、調停または行政上の手続の係属その他いかなる紛争も発生しておらず、また、そのおそれもないこと」を表明保証してもらうことになります。

ここで、株券について補足します。

株券については、対象会社が株券発行会社であるか株券不発行会社であるかによって株式譲渡に必要な行為が異なるため、そのいずれであるかについて定款や全部事項証明書の正確性の表明保証でカバーされている事項であるにもかかわらず、基本的な事項として確認的に表明保証の対象とされることがあります。株券発行会社の場合には、加えて、当該株式譲渡契約に基づき買主に譲渡される株券は、「全て適法かつ有効に発行された真正な株券であり、これ以外に発行された対象会社の株券は存在しない」ことが表明保証の対象とされますし、売買の対象となっている株式が有効に存在することを裏付けるため、発行済株式は全て有効に発行され全額払込済みであることも表明保証の対象とされるのは言うまでもありません。

個別事項例2:人事労務の潜在債務

次に、人事労務の潜在債務について見ていきます。

人事労務に関する潜在債務について表明保証の対象とされる事項として、主に、(1)労働契約などの内容として、買主が既に把握している(すなわち、株式譲渡契約締結の前提となっている)以上の債務が含まれないこと、(2)未払賃金のような発生済みの未払債務が存在しないこと、および(3)労使関連の不法行為などに基づく損害賠償債務等が存在しないこと、の3点が挙げられます。

人事労務関係の潜在債務のうち特に問題となりやすいのが未払賃金債務ですが、一口に未払賃金債務といってもその発生原因は多種多様であり、典型的なものとしては、いわゆるサービス残業や始業開始前稼働に対する基本賃金・割増賃金の未払い、時間外、深夜または休日労働に対する割増賃金(労働基準法上および就業規則上定められている割増率に応じた割増賃金)の未払いがあります。また、いわゆる「名ばかり管理職」の問題に起因する賃金の未払いも典型的な未払賃金債務発生原因です。

(1)については、対象会社が役員または従業員に対し労働契約などに基づき負担している債務として、買主が既に把握しているものの内容を特定します。その上で、買主は売主に対して、これらの債務以外の潜在債務が存在しないことの表明保証を要請されることになります。対象会社と役員との間では、委任契約やこれに関連する契約が締結されることがあり、これらの契約上の定めのうち、潜在債務という観点からは、特に、通常の役員報酬や退職関連給付に関する取決め以外の特殊な経済的給付に関する合意が問題となります。例えば、報酬が異常に高額になりうるような特殊なインセンティブプランや、いわゆるゴールデン・パラシュート(経営権の変更などに伴い退職する役員などに対して多額の割増退職慰労金などの経済的給付を行う旨の取決め)などがこれに当たります。他方で、対象会社と従業員との間では、労働契約が締結され、その標準的な内容は、主として、雇用契約、就業規則およびその付随規定、労使協定の内容によって構成され、労働基準法その他の労働契約内容と異なる経済的給付に関する合意(慣習も含まれる)の存在が問題となります。

(2)の未払債務および(3)の損害賠償債務については、そもそも存在しないことが株式譲渡契約締結の前提とされています。しかし、これらの債務には、その発生原因や性質が多岐にわたるという特性があることから、単に未払債務や損害賠償債務の不存在を抽象的に表明保証対象とするよりも、例えば、時間外、深夜または休日労働に対する基本賃金、割増賃金についての未払債務の不存在、不当解雇に起因する未払賃金債務、損害賠償債務などの不存在、また、労災に関する損害賠償債務(労災補償保険のカバー範囲を超える損害についての損害賠償債務など)の不存在、といった事項を明示することが考えられます。

個別事項例3:コンプライアンス

最後に、コンプライアンスについて見ていきます。

法令順守は、労働関連法規に限らず、全ての法令について問題となる事項です。そのため、労働関連法規の法令順守に関する表明保証についても、これについて別個に項目を立てて表明保証対象とすることはせずに、実務上は、一般的な法令の遵守に関する表明保証に含めて取り扱われることもあります。もっとも、会社の人事労務に関連する労働関連法規には、労働基準法およびその関連法令に始まり、職業安定法やいわゆる労働者派遣法などの労働力の供受給に関する法令、労働安全衛生法、高齢者等や障がい者の雇用に関する法律、雇用保険法その他の社会保険に関する法令から確定拠出年金法などの年金に関する法令に至るまで、広い領域にわたる多様な法令が含まれるほか、2018年7月6日に成立された「働き方改革関連法」(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)」)も含まれます。そのため、個別事項例2:潜在債務の未払賃金で検討したのと同様に、ある一定の法令違反が表明保証対象に含まれるかについての事後的な紛争を防止する観点や、ディスクロージャー・スケジュールなどによる開示を促す(表明保証が有する契約交渉過程における開示機能を生かす)という観点からは、労働関連法規の遵守を個別に表明保証対象として盛り込まれる場合もあります。

おわりに

表明保証は、英米法において発展した概念であることから、表明保証が有する日本法上の意義については、私的自治に基づく契約当事者の合意である点を別とすれば明らかではなく、また、いかなる法令の適用を受けるかという点については、解釈に委ねられる幅が大きいといわれています。

表明保証という概念が実務上の機能概念として日本法の世界に持ち込まれたものである以上、その法的性質を決定し、合意内容を解釈するにあたっては、表明保証がいかなる機能を有するかを検討する必要があります。

そして、表明保証に当事者が期待する機能が案件ごと・取引ごとに異なり得ることは当然であり、日本におけるM&A取引の実務慣行を踏まえて、関連する当事者が一般的に期待している機能は、株式譲渡契約において表明保証条項が担う「リスク分担機能」であると言えるのではないでしょうか。


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