資本政策の立案と上場準備におけるポイントについて
資本政策の立案の手順
資本政策とは、必要資金を充足する資金調達、株主利益の適正な実現、株主構成の適正化等の複数の目的を果たすための新株発行・株式移動等の手段を伴う財務計画をいい、IPO(新規株式公開)に向けて非常に重要な事項の一つです。資本政策は一度実行してしまうとやり直しができない(後戻りができない)性質があり、その策定においては、上場準備の初期段階から慎重かつ十分な検討が必要になります。
資本政策を策定しておらず、ゼロから検討する場合には、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか。
資本政策の立案手順としては、①現状分析・目的の確認、②前提条件の設定、③個別手法と実施時期の検討、の手順を繰り返しながら資本政策を策定していくことが一般的です。以下では、資本政策の立案手順と留意事項についてその概要を解説いたします。
①現状分析・目的の確認
まずは、以下に掲げる事項について現状分析とその目的を確認します。
- 現状の株主構成、持株比率、財務状況
- 事業計画(収益計画、投資計画等)の策定状況
- 資本政策の実施目的
②前提条件の設定
次に、以下に掲げる前提条件(上場時の目標)を設定します。
- 上場時期、上場市場の設定
- 上場基準(形式基準)の充足条件の確認
- 上場時の想定時価総額の設定
- 公募及び売出し株数の設定
- 上場時の投資単位(発行済株式数)の設定
- 上場時の株主構成の設定
上場時の想定時価総額については、どのくらいの時価総額で上場するかを起点として資本政策を立案していきます。上場時の時価総額は一般的にマーケットアプローチで決定され、ベンチマークとなる類似企業(上場企業)の選定が必要となります。
また、上場時における公募株数は市場から資金調達する額の設定に、売出し株数は創業者含む既存株主の利益の設定に関わります。
③個別手法と実施時期の検討
そして、以下の手法で資本政策の実施時期を立案します。
- 現在と上場時の株主構成から発行可能株式数を逆算する。
- 個別の実施手法の選択と順序、実施時期、想定株価を検討する。
- 想定した結果となるか内容を吟味し、必要に応じて前の手順に戻って内容を見直す。
- 資本政策表を作成し、内容を整理する。
ここでは、必要に応じて前の手順(①、②)に戻り、シミュレーションを重ねることが重要です。上場時を起点とし、会社設立から株式譲渡やストック・オプションの発行等を加味して、資本政策表を作成します。
上場準備における資本政策のポイント
最後に、上場準備におけるポイントを挙げたいと思います。以下に掲げるポイントも加味しながら資本政策を立案していくことになります。
- 資本政策については、主幹事証券会社と相談しながら進めることが重要です。
- 第三者割当増資やストック・オプションの発行を行う際は、既存株主との調整が必要となります。
- 資金調達時の株価が高すぎると、次回以降に調達しにくくなることに留意が必要です。既存株主は株価の希薄化を嫌うため、前回以上の株価が要求されるケースが一般的です。
- 従業員等へのストック・オプションの発行のタイミングに留意が必要です。一般的にIPO直前に発行すると株価が高くなるのでメリットが小さくなります。株価が低い段階でストック・オプションを発行しておくと、従業員等へのメリットが大きくなります。
- ストック・オプションの計画的な付与に留意が必要です。上場時における潜在株式の割合は10%前後となるケースが多いです。株価が低い会社設立時にストック・オプションを多く発行しすぎると、後でストック・オプションか発行しにくくなります。
- VC(ベンチャーキャピタル)の保有比率が高い場合、市場より上場後の株価下落要因と捉えられます。Ⅰの部等にリスク情報として開示が必要となるケースがあります。
- 大口の株主に上場時の売出しやロックアップ(上場後の売却制限)に応じてもらうためのコミュニケーションが重要です。
- VCからの資金調達時の株主間契約に著しく不利な条項が付されていないか注意が必要です。
南青山リーダーズ編集部
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