上場までのスケジュールと上場準備実務の概要
はじめに
IPO(新規株式公開)において、会社で株式上場を目指す意思決定を行ってから株式上場を実現するまで、最低でも約3年程度の準備期間が必要と言われています。以下では、IPOにおける上場までの一般的なスケジュールと、各期間における主な上場準備実務の概要を説明します。なお、以下では、証券取引所に上場の申請を行う期間を「N期」、その1期前を「N-1期」、2期前を「N-2期」、3期前を「N-3期」と示します。
上場スケジュールの概要
上場準備では実務対応が必要な事項が多岐にわたるため、上場までの各期間において対応すべき事項を明確にし、上場に向けたスケジュールを策定し、それに基づき計画的に上場準備実務を行うことが必要です。上場スケジュールの概要は下図の通りです。
上場準備実務の概要
①N-3期以前
N-3期以前は、上場準備全般の方針を策定する期間です。例えば、3月決算の会社が2023年8月に上場申請を予定する場合であれば、2021年3月期以前の期間となります。この期間における主な上場準備実務は下記の通りです。
・全般の方針策定
上場時期や上場時の想定バリュエーション、上場準備のためのプロジェクトチーム体制や組織作りの方針を策定します。
・上場に向けた課題抽出
監査法人や主幹事証券会社からのショートレビューを受け、その結果をもとに株式上場に向けての課題を抽出し、その改善のための計画を策定します。
・資本政策の検討
主幹事証券会社と相談しながら資本政策の検討を進めます。資本政策は一度実行してしまうとやり直しができない性質があるため、上場準備の初期段階から慎重に対応することが必要で、これはIPOを成功させる要因の一つとなります。
・監査契約
上場申請にあたっては、監査法人からN-2期以降の監査証明を入手する必要があります。それには、N-3期以前から監査に耐えうる最低限の内部管理体制の構築と、監査法人との契約交渉が必要です。なお、N-2期の監査証明を入手するにはN-2期期首から監査を受ける必要があり、N-2期に監査法人と交渉を開始してもN-2期から監査証明をもらえるわけではない点に留意が必要です。
②N-2期
N-2期は、内部管理体制(社内体制や規程等)の整備期間です。N-1期の内部管理体制の運用期間にスムーズに移行できるように、N-2期中の整備が必要です。また、労務関連の問題は早期に解決しておくことが必要です。この期間における主な上場準備実務は下記の通りです。
・利益管理制度の整備
中期経営計画、年度予算などの事業計画・予算制度を整備します。
・業務フローの整備
会社に必要な内部統制を構築するなど、会社の業務フローを整備します。
・各種規程の整備
社内規程の整備・見直し・改訂を行います。なお、会社の規模、業種、業態、成長ステージ等に応じて、必要な規程の範囲は異なります。
・会計制度の整備
会社の業種・業態、会計基準等を踏まえて、監査法人と協議を重ねながら、会計処理のルールを整備します。
・ガバナンス体制の確認・準備
N-1期の内部監査や監査役(会)監査の本格運用に向けて準備します。
・ディスクロージャー体制の準備
四半期決算や適時開示に向けた社内体制を整備します。
・労務関連の課題解決
未払残業代の精算等の労務関連の課題解決には時間を要することが多く、早期に着手することが必要です。
③N-1期
N-1期は、内部管理体制の運用実績を積み上げ、運用面で生じた課題を改善する期間です。ガバナンス体制・ディスクロージャー体制の確立、上場申請書類の作成、証券会社の審査対応などを行います。この期間における主な上場準備実務は下記の通りです。
・内部管理体制の運用状況
N-2期で整備した社内ルールに従って、業務が運営されている運用実績を積み上げます。
・内部管理体制の改善活動
内部監査等が実施され、内部管理体制において改善すべき事項が指摘されます。改善が必要な事項は、早期に改善に着手する必要があります。
・ガバナンス体制の確立
内部監査の実施や社外役員や独立役員の設置等により、ガバナンス体制を確立します。
・内部監査の年間運用
N-1期の内部監査の状況は、上場申請書類へ記載が求められます。また、内部監査における監査調書は上場審査の提出書類となっています。
・上場申請書類の作成
Ⅰの部・Ⅱの部等の上場申請書類の作成には数か月単位で時間を要するため、余裕をもったスケジュールを確保する必要があります。
・ディスクロージャー制度への対応準備
四半期財務諸表の作成や適時開示(45日)ルールに準拠したディスクロージャー制度へ対応できる体制を準備します。
④N期
N-1期に引き続き、内部管理体制の運用実績を積み上げながら、その改善活動を繰り返す期間です。また、上場審査対応から上場に向けての準備を進める期間です。なお、予算と実績の乖離状況によっては審査が延期し、上場スケジュールが遅延する可能性があります。この期間における主な上場準備実務は下記の通りです。
・証券会社の審査対応
証券会社の引受審査は5~6か月程度を要します。引受審査では、数回の質問回答に加えて、主要取引先へのヒアリング等も行われます。質問は数回に分けて計300~400問程度となることが多く、質問受領から回答までに期間が非常にタイトであるため、担当者への負担が大きくかかります。
・取引所の審査対応
上場申請から審査完了まで3か月以内が目安です。事業内容・内部管理体制等について数回の質問回答、審査担当者による会社への実地調査、社長・監査役・会計監査人との面談等が行われます。
・審査の過程で発見された要改善事項への対応
審査の過程で要改善事項(予算と実績の乖離を含む)が発見された場合、当該事項の改善を図る必要があります。改善状況の確認のために審査の完了が後ろ倒しになることがあり、IPOスケジュールの遅延となる可能性があります。
南青山リーダーズ編集部
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