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【韓国】若者の「隠れ失業者」最多に[経済](2021/07/29)

韓国の若者の間で「隠れ失業者」が増えている。大企業への就業活動や公務員試験の勉強に専念する若年層の数は、今年5月に過去最多を更新した。新型コロナウイルス感染症の流行で雇用が不安定となり、安定的な就職先を望む傾向は強まるばかりだ。一方、雇用条件で劣る中小企業への求職者は依然少ないままで、「雇用のミスマッチ」が深刻化している。【中村公】

韓国の高麗大学。名門大学を卒業しても「就職浪人」となる若者が多い=ソウル、6月(NNA撮影)

韓国の高麗大学。名門大学を卒業しても「就職浪人」となる若者が多い=ソウル、6月(NNA撮影)

就業準備生――。公務員や大企業などへの就業を目指して、試験勉強やキャリアアップのための資格取得などに専念する若者のことを指す。これらの若者は統計の定義上、失業者ではなく非労働力人口に含まれるため「隠れ失業者」とも呼ばれている。

韓国統計庁によると、15~29歳の就業準備生数は5月時点で1年前と比べて5万5,000人増の85万9,000人に達し、過去最多となった。若年層の非労働者人口に占める就業準備生の割合も19.1%(今年5月基準)と、最高を更新した。

「友達からの電話は取りたくない」。そう語るのは、韓国南西部の港町・全羅北道群山市出身のユ・イランさん(28歳)だ。地方大学を卒業後、公務員試験の勉強に打ち込むため2年前からソウル市の名門予備校に通っているが、不合格が続く。ユさんは今の心情について「不安や焦りと毎日闘っている」と吐露する。

■「SKY」でも狭き門

韓国の就職事情は厳しさを極めている。多くの学生が、サムスン電子など財閥系の大企業をこぞって目指すため、日本の東大、早慶に例えられる「SKY」(ソウル大、高麗大、延世大)でも3人に2人しか就職できない狭き門だ。

一方、非正規社員ばかりが増える就職氷河期が続く中、安定を求めて公務員を志望する若者が急増している。就業準備生が目指す試験内容の内訳は、公務員試験が32.4%(5月基準)と最も高く、大企業の就職試験(22.2%)や資格取得・その他(18.9%)などを上回る。

■公務員の競争率27.6倍

コロナ禍も逆風だ。現代自動車やLGなどの大手グループは、新入社員を一括で採用する「定期採用」から、部門ごとにそれぞれの職務に最適な人材を適宜配置する「随時採用」に切り替えている。経営環境の急速な変化に対応するための措置で、新卒よりも即戦力の中途採用枠を拡大する動きが広がっている。

大企業への就職が一段と難しくなる中、振り落とされた若者が目標を公務員試験に切り替える動きも目立つ。今年5月に開催された「9級公務員」の筆記試験の競争率は27.6倍と、昨年の26.3倍をさらに上回った。日本の同クラスに相当する一般職試験(高卒者・倍率は1桁台)とは比べものにならないほど高く、その競争率は年々厳しさを増している。

■中小は慢性的な人手不足

逆説的だが、中小企業は人手不足が深刻だ。経営体力が乏しいため若者が求める条件では雇えず、欠員を外国人労働者で賄う企業も多い。

中小企業の給与は大手の6割水準にとどまり、福利厚生面でも子どもの学費や医療費などが支援される大企業とは圧倒的な差がある。平均勤続年数も約4年と短く、不安定な雇用状況が若者の安定志向をさらに強めている。働き口はあるが、将来の不安から安定職を求めて勉強に専念する。これが「就職浪人」を生み出し続ける構図になっている。

■政策的課題も露呈

「いつも心を痛めている」。洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政相は若年層の就職状況について、こうため息を漏らす。韓国政府は、中小企業への雇用支援や若年層への金融支援などによる雇用のミスマッチ解消に乗り出してはいるが、就業準備生は増える一方で政策的な成果を上げられずにいる。

教育水準が高く優秀な若年層を活用し切れていない現状を、政府はどこまで改善できるか。マクロ経済の好調な成長の陰で、根深い構造的な問題がじわりと首をもたげている。

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