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【マレーシア】強化制限令で大半が操業停止[経済](2021/07/05)

マレーシアで3日から、首都クアラルンプールとスランゴール州の広範囲に規制が最も厳しい「強化された活動制限令(PKPD)」が敷かれている。対象地域では生活に不可欠な業種しか操業が認められず、日系も含め企業の大半が操業停止に追い込まれているもようだ。職場での感染対策に取り組んできた産業界からは、不満の声が上がっている。

首都圏での新型コロナウイルス感染拡大を受け、イスマイル・サブリ・ヤアコブ上級相(治安担当)兼国防相は1日、首都クアラルンプールの14カ所、スランゴール州の34カ所に規制が最も厳しいPKPDを敷くと発表した。期間は16日まで。クアラルンプールとスランゴール州は、州・連邦直轄区別の国内総生産(GDP)で合わせて全国の4割強を占める国内経済の屋台骨だ。

PKPD下で生活に不可欠な業種として操業が認められるのは、製造業では▽食品類(砂糖、食用油、小麦粉、パン、粉乳)▽飲料(ミネラルウーター)▽衛生・医療・パーソナルケア用品(紙おむつ、医薬品、手指消毒剤、マスク)。サービス業では▽公共サービス(水道、電力、エネルギー)▽医療▽銀行▽輸送(陸路、水路、空路)▽港湾、造船所、空港(荷揚げ、荷役、操船、保管など含む)――などとなっている。

なお、これらの業種に絡むサプライチェーン(調達・供給網)は操業が認められる。製造業では梱包やラベリングなども含まれる。

ただ、主要な港湾であるクラン港がPKPDの対象地域に含まれていることから、生活に不可欠な業種であっても荷揚げや倉庫などの作業に支障を来す恐れがあり、サプライチェーンの混乱は広がりそうだ。

■日系幹部「非常に厳しい」

日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所の小野沢麻衣所長は2日、NNAに対し、「スランゴール州では日系企業の大半が操業できない業種に該当するのではないか」との見方を示した。PKPDによる打撃は避けられず、日系企業の間で「サプライチェーンを踏まえた操業の容認を望む声は高まっている」(小野沢氏)という。

スランゴール州に工場を持つ日系大手製造業の幹部は4日、NNAに対し、「PKPDが敷かれる前から、ロックダウンによるサプライチェーンの混乱で生産を停止していた」と明かした。主要サプライヤーとなる鉄鋼業で10%の出社制限が設けられていることで、部品が調達できないためだという。

同幹部は「部品の代替調達先を探すとしても、製品の設計を一から変更しなくてはならない上、コスト高となる可能性もある」と述べ、「非常に厳しい状況だ」と顔をしかめた。

■ロックダウン長期化を懸念

在マレーシア米国商工会議所(AMCHAM)は2日付で声明を出し、今回の政府の決定に「企業の一貫した感染対策を無視したもの」と不満を表明した。シオバン・ダス会頭は「政府は感染対策を行っている企業とそうでない企業を区別し、きちんと対策を講じている企業には操業を認めるべき時期に来ている」と主張。「安全な職場を閉鎖することで、逆に監視が行き届かない地域社会での感染状況を悪化させる恐れがある」とした。

マレーシア経営者連盟(MEF)も同日付でムヒディン首相に書簡を送付。コロナ禍からの復興の道のりを4段階で示した「国家回復計画」の第1期に当たるロックダウン(都市封鎖)の長期化に懸念を示した。

その上で、これまでのロックダウン下で10%の出社人数で設備の暖機運転のための操業を認めていた業種に対し、PKPD下でも同様の措置を取るよう要請。また首都圏での産業向けワクチン接種プログラムの推進や、民間病院でのワクチン接種の容認、国家回復計画における次の段階への移行基準の見直し、集中治療室(ICU)の増床などを求めている。

マレーシア小売協会(MRA)など小売業界6団体も3日、共同声明を公表。ショッピングモールやショッピングセンターでは入場者を徹底的に管理している上、客の滞在時間も短く、感染の温床ではないと主張し、正確で詳細な分析に基づいた規制を実施すべきだと訴えた。

■5州はロックダウン解除

一方で政府は3日、クランタン、トレンガヌ、パハン、ペラ、ペルリスの5州については、きょう5日から国家回復計画の第2期に移行すると発表した。事実上、ロックダウンを解除する形。第2期では操業可能な業種が拡大し、出社上限も第1期の60%から80%に引き上げられる。

5州の1つに拠点を構える日系電気・電子製品大手の幹部は4日、「(出社上限の緩和を受け)5日からすぐにではないが、経理や総務など間接部門の出社人員を段階的に増やしていく」と語った。生産現場はこれまでも「総従業員の60%」以下で1日2シフトの出勤人員を確保できていたため、体制に変更はない。

出社制限は緩和されるが、同社も首都圏でPKPDが敷かれる影響は避けられない見通し。一部部品の供給に支障が生じるためで、「予定通り16日にPKPDが解除されれば在庫で対応できるが、延長された場合は厳しくなる」(同幹部)という。

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