【韓国】尹氏が大統領選出馬を宣言[政治](2021/06/30)
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権と対立して今年3月に検事総長を辞任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が29日、来年3月に控える次期大統領選への出馬を宣言した。「政権交代を必ず成し遂げる」と力説し、反政権派の結集を訴えた。尹氏は保守系最大野党「国民の力」への合流が有力視される。一方、革新系与党「共に民主党」の有力候補の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事も7月1日に出馬宣言する見通しで、韓国は本格的な政治の季節に突入する。
常識を武器に、文政権で奪われた自由民主主義と法治、公正を必ず取り戻す――。尹氏は同日の午後1時、ソウル市瑞草区にある「梅軒尹奉吉義士記念館」での記者会見で行われた事実上の大統領選出馬宣言とともに、こう述べた。
尹氏は文政権について「機会の平等と公正なプロセス、そしてその結果には誰もが納得できるような特権と腐敗のない国づくりを約束したものの、国民の期待には応えられなかった」と批判した。
失政の例として◇経済常識を無視した所得主導の経済政策◇市場原理に反した不動産政策◇脱原発政策◇敵と味方をはっきりと区別し、国会で過半数を握れば数の論理で強行採決も辞さない独裁主義――などを列挙。「文政権は、自由民主主義と法治主義の根幹を揺るがした」とし、「必ず政権交代を実現しなければならない」と訴えた。
尹氏は宣言の中で「10の公約のうち9つで意見が異なっても、政権交代のために団結が欠かせない」と述べたが、これは国民の力への合流を前提にした発言とみられる。
国民の力は11月に公認候補を決める計画だ。ただ、合流時期や党内での候補者選挙に参加するかどうかなど具体的なことは明らかになっていない。
政治コンサルタントの朴ソンミン氏は、尹氏の大統領出馬宣言について「予想以上に自らの理念や立場を明確に表明し、政治的影響力の大きさを示した。しばらくは支持率の上昇が続くだろう」と分析した。
尹氏には、検察時代の事件のもみ消し疑惑や尹氏の妻ら親族に関する疑惑があるとされる。疑惑のファイルは「Xファイル」と呼ばれているが、前出の朴氏は「与党や李知事もさまざまなスキャンダルを抱えており、『尹氏は大統領候補としての道徳性に欠ける』との訴えは説得力に欠ける」と指摘した。
■日韓関係は現実主義で
日韓関係について尹氏は「修復不可能なところまで悪化している。外交は現実主義に立脚すべきだ」との認識を示した上で、「元徴用工問題や慰安婦問題、安全保障協力、貿易対立などの懸案を全部一緒に1つのテーブルの上に置いて議論するグランドバーゲン(包括合意)方式でアプローチする必要がある」と主張する。
これに加えて、日韓関係においても、米韓関係のように外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)のような枠組みが必要だとの考えを示した。
尹氏の記者会見が韓国の有名な独立運動家である尹奉吉(ユン・ボンギル)をたたえる記念館で行われたのは、国民の愛国心に訴える狙いがあったとみられる。会場には多くの支持者が詰めかけて「政権交代」を連呼。一部では、尹氏に反対する団体と衝突する場面も見られた。
野党からはほかにも、脱原発政策を巡って文政権と対立した崔在亨(チェ・ジェヒョン)監査院長の出馬が取り沙汰されている。崔氏は、文政権が原発の採算性を過小に算定したと指摘しており、28日に辞任を表明した。
■李知事も出馬表明へ
与党「共に民主党」では、7月1日に出馬予定の李知事のほかにも、李洛淵(イ・ナギョン)元首相が近く出馬表明するとみられる。以前は李洛淵氏の方が支持を得ていたが、4月に行われたソウル・釜山両市長選での惨敗を受けて、世論調査では李知事の後塵(こうじん)を拝している。
韓国大統領は任期5年で再選できないため、文政権の路線を継承するかどうかが候補選定の争点の1つとなりそうだ。李知事は文氏の政策に批判的な立場にあり、ベーシックインカム(最低所得保障)の導入にも積極的だ。これに対し、李洛淵氏は文氏に近い姿勢をとっている。
同党ではすでに、丁世均(チョン・セギュン)前首相や秋美愛(チュ・ミエ)前法相らが名乗りを上げている。