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【韓国】国政安定より現政権を審判[政治](2021/04/13)

韓国ソウル・釜山両市長選で、いずれも保守系最大野党「国民の力」の候補が革新系与党「共に民主党」の候補を大差で破った。韓国を代表する政治コンサルタントの朴ソンミン氏は与党の惨敗の原因について「中道層の支持を失い、政権審判論が世論を圧倒した」と分析。野党への政権交代の可能性を帯びた次期大統領選(2022年3月)では、検察改革を巡って文在寅(ムン・ジェイン)政権と対立した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長が有力な候補になるとの見方を示した。

「中道層が進歩から保守に移った」と話す朴氏=9日、ソウル(NNA撮影)

「中道層が進歩から保守に移った」と話す朴氏=9日、ソウル(NNA撮影)

――ソウル・釜山市長選で野党が与党を圧倒した。昨年4月の韓国総選挙での大勝利で与党に慢心があったのか。

今回は、世論が国政の安定よりも政権の審判に大きく傾いたことで、候補者の個性や人柄、政策が全く話題にならなかった選挙だった。

■与党が三つの判断ミス

共に民主党は三つの戦略的な判断ミスを犯した。一つ目は、有権者の4割を占めるとされる文在寅政権の「岩盤支持層」に対する過度な信頼だ。直前の世論調査では、文政権の支持率は35%に落ち込み、不支持率は55%まで上昇した。この20%の格差は想像以上に大きく、中道層が進歩(革新)から保守に移ったことを意味する。

二つ目は、保守政権下で定着した慣行や政策を一掃する「積弊清算」の賞味期限切れに気づかなったことだ。検察改革を旗印に掲げる文政権が19年に、親族の疑惑を抱えるチョ・グク氏の法相指名を強行したことで、すでに「民心離れ」が進んでいた。

チョ氏と対立した尹前検事総長は現在、次期大統領候補として国民的な人気が高い。検察に代わって政府高官の汚職などを捜査する独立捜査機関として設置した「高官犯罪捜査庁」も、皮肉なことに「政府高官の不正の隠蔽(いんぺい)が目的ではないか」と疑われている。検察改革は、道徳的にも、法的にも、政治的にも完全な失敗だ。

三つ目の判断ミスは、昨年4月の総選挙で与党が180議席を獲得したことで、「文政権に『レームダック(死に体)』はあり得ない」と思い込んでしまったことだ。国民との対話をおろそかにし、検察改革に固執する文政権は、側近以外を遠ざけて「不通(韓国読み=プルトン)」といって批判された朴槿恵(パク・クネ)前大統領の政治スタイルをそのまま繰り返した。

最も深刻な点は、文政権自体が危機的状況にあることを認めなかったことだ。危機認識がなければ、危機の原因も分からないし、解決策も見つからない。

文政権の重要な政策の柱である北朝鮮の非核化も膠着(こうちゃく)状態で、文政権に「レガシー(政治的遺産)」と呼べるものが全くない。徹底した防疫で感染拡大を食い止めたことで、文政権の自慢となった「K防疫」も、ワクチンの手配が後手に回ったことで、その威光がすっかりかすんでしまった。

■支持層の20代男性が反旗

――文政権の発足当初は「腐敗した保守政権を弾劾して自分たちが作った政権」として熱狂した20代男性の政権離れが進んでいるといわれる。

韓国の20代男性は、30~40代と比べて社会的な不公正に敏感だ。彼らは、チョ・グク前法相の娘の大学院不正入学などの疑惑に大きく失望した。在職年数で給与が決定される号俸制は不公平だと感じており、最近の大卒初任給の急騰の一因にもなっている。

大学を卒業しても就職もままならない中、女性の進学率と就職率の上昇に伴い、「女性の方が機会に恵まれている」と実感することが多い。そのため、女性に対してむしろ被害者意識を持っており、文政権に対しても「フェミニズムに重点を置きすぎている」と批判的だ。

また、文政権下の不動産価格の高騰や政府高官の不動産スキャンダルに最も敏感に反応したのも20代の男性だ。特に、韓国土地住宅公社(LH)の職員や青瓦台(大統領府)の職員が宅地開発地区の発表前に、土地を取得していた問題が明らかとなり、彼らの怒りは頂点に達した。

現在50歳代で、1960年代に生まれて80年代に民主化運動に参加した元学生活動家らは現在、青瓦台・内閣・政府機関の要職を占めているが、もはや彼ら「586」世代も20代の男性の目には、既得権者にしか映らない。

■政権交代の筆頭は尹氏か

今回の惨敗で、文政権のレームダック化は進むだろう。公務員たちの間で「次の大統領選挙では野党への政権交代が起こるかもしれない」という認識が広がったためだ。

そうなれば大統領の指示が徹底されにくくなり、機微な情報がマスコミに漏れやすくなるなど、内部の統制が困難になる。青瓦台の与党に対する影響力も弱まり、党内の大統領候補も文政権と距離を置き始めて「与党内野党」の立場を取り始める。

呉氏(左)と安氏(右)の一本化でソウル市長選の勝敗が事実上決まった(共同)

呉氏(左)と安氏(右)の一本化でソウル市長選の勝敗が事実上決まった(共同)

――検察改革を巡って文政権と対立した尹前検事総長の出馬はあるか。

尹氏が大統領選挙に出馬するには、◇既存政党に入党◇第3の候補として出馬◇既存政党の候補者との一本化――の三つの可能性がある。

既存政党への入党は可能性が低いだろう。入党するとすれば、「国民の力」になるだろうが、タイミングを間違えれば「文政権と対立したのは、最初から政治的な野心があったためではないか」と批判される可能性がある。

2番目に関しては、実は韓国では今まで、第3の候補として出馬して大統領になった例がない。最近では、12年の大統領選挙で安哲秀(アン・チョルス)現第2野党「国民の党」代表、17年の大統領選挙では潘基文(パン・ギムン)国連前事務総長がそれぞれ、第3の候補として浮上したものの、安氏は文氏に一本化され、潘氏は不出馬となった。

第3の候補として出馬して選挙に勝つには、第1党と第2党に有力な候補者がいないことが大前提だ。さらに、内部のごたごたで離党する議員が続出するようになれば、さらに当選の可能性が高まる。

――現在、「国民の力」には、有力な候補が存在しない状況だ。

「共に民主党」も今回の選挙の惨敗で、選挙対策委員長を務めた李洛淵(イ・ナギョン)前代表は党の大統領選レースから後退を余儀なくされた。一方、有力候補に躍り出た京畿道の李在明(イ・ジェミョン)知事に対しては、党の主流派である文大統領に近いグループとは距離がある。親文派は、現実を受け止めて李知事支持に回るか、別の候補を立てるかの決断を迫られる。丁世均(チョン・セギュン)首相が、大統領選に備えて近く首相を辞任するとの観測もある。

もし中道層の支持が尹氏に流れて、李知事に反対する勢力が「共に民主党」から離党する事態になれば、尹氏は第3の候補として十分に闘えるだろう。

■政治的センス問われる尹氏

しかし、「共に民主党」が現在の危機的状況を認識し、分裂せず候補者を中心に一体となった場合、組織力のない尹氏は「国民の力」の候補者との一体化を模索せざるを得なくなる。

その場合、仮に「国民の力」から有力な候補者が生まれて単独でも勝てると確信した場合、尹氏擁立の必要性はなくなる。例えば今回のソウル市長選でも、当初は安氏の当選が有力視されていたが、LHの職員らによる土地投機疑惑が浮上して「共に民主党」の支持率が急落してからは、「国民の力」では「安氏を擁立しなくても、呉世勲(オ・セフン)氏で勝てる」との雰囲気が生まれた。

政治の世界は決断とそのタイミングが全てだ。尹氏がどのタイミングで出馬を表明するかは、大統領候補としての力量を問う絶好の機会ともなるだろう。(聞き手=坂部哲生)

<プロフィル>

朴ソンミン:

韓国を代表する政治コンサルタント。91年に政治コンサルティング会社「ミン」を設立して以来、各種選挙でクライアントとなった候補者向けに選挙戦略などの立案や広報などのサービスを提供してきた。テレビやラジオでの政局分析には定評があり、朝鮮日報など大手紙にも定期的に政治コラムを寄稿している。著書に「政治の没落」や、政治ゲームでの勝利の法則を盛り込んだ「強い者が正しい者に勝つ」などがある。

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