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【ミャンマー】軍事政権が当面は継続か[政治](2021/02/03)

ミャンマーの政治経済に詳しい政策研究大学院大学の工藤年博教授(東南アジア研究)に2日、ミャンマーの国軍によるクーデターが発生した背景、軍事政権の今後の展開と、日本への影響などについて聞いた。同氏は、軍事政権は当面続く懸念があるが、経済面では良い成果を出せる可能性もあるとみる。その場合、日本は引き続き、中国へのけん制役として存在感を発揮できると見通した。

――クーデターのトリガーは何だったのか。

クーデターを起こし、全権を掌握した国軍のミン・アウン・フライン総司令官(共同)

クーデターを起こし、全権を掌握した国軍のミン・アウン・フライン総司令官(共同)

国軍に拘束されているアウン・サン・スー・チー氏(共同)

国軍に拘束されているアウン・サン・スー・チー氏(共同)

国軍は「選挙の不正」を大義名分にクーデターを起こしたが、そもそもアウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)政権が発足した2016年から蓄積した不和や、経験のない大臣へのねたみも含む強い不満が根底にあったのだろう。

昨年11月の選挙でNLDが予想を超える大勝を収めたことで、国軍側にとってのパワーバランスが大きく崩れ、現行憲法で定める軍人枠25%では、国軍が主導した政権運営ができないという危惧が強まった。新閣僚を同日に発表するなど流れを見ると、クーデターは計画的に周到な用意をして実施されたと思う。

――1日に発表された新閣僚11人の顔ぶれをどうみているか。

前テイン・セイン政権時代に財務・歳入相を務めたウィン・シェイン氏が計画・財務・工業相、ミャンマー投資委員会(MIC)事務局である投資企業管理局(DICA)の局長経験もあるアウン・ナイン・ウー氏が投資・対外経済関係相に就くなど、11年からの同政権で実績を出した「できる」人材を登用している。

国軍側にとっては早く体制を固め、成果を出し、国軍側が実施を求めている再選挙でよい結果を得る思惑がある。

――日本にとっては、どのような影響がある人選か。

(軍事クーデターにより成立した内閣には)新たに国際的な制裁が科される懸念を含め、リスクがあるが、進出企業の事業環境や経済政策は改善され、政策決断も早くなる可能性がある。新閣僚は、テイン・セイン政権時代に日本に好意的な感情を持っていた人材が多く、不利なことはない。また、ミャンマーが中国をけん制する力を維持するために、日本は大きな重要な存在であり続けると思う。

――国軍側が望む選挙は、本当に実現できるのか。

国際社会が認めずとも、進んでいくだろう。選挙を行わないように圧力をかけるにしても、米国の強い指導力で国際社会が一致して(民主化に逆らう勢力を)制裁する環境がなくなってしまったことに加え、制裁により中国を利することを避ける流れもある。

国軍が行う選挙では、NLDを解党したり、スー・チー氏を表舞台に出さないようにするなどの事態が想定され、自由で公正なものにはならないだろう。

■NLDの復権は難しい恐れ

――国軍が求める落としどころは。

国家緊急非常事態宣言は1年が期限だが、延長で最長2年にできる。国軍側は、現法憲法で定める25%の軍人枠をさらに拡大するなどして、タイのような盤石な軍事政権をつくりたいと考えている。具体的な落としどころは、スー・チー氏がどう出るか次第になる。

ただ、スー・チー氏は既に75歳の高齢で、実際にはNLDの復権がかなり難しくなる可能性がある。また、17年以降のイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題への対応などで、スー・チー氏が制裁を呼び掛ければすぐに欧米が反応するという、かつてのような全幅の信頼は失っている。

――治安は悪化する可能性があるか。

1988年の「8888民主化運動」や07年の「サフラン革命」のような壮絶な衝突は、まず起きないとみている。国が豊かになり国民の生活水準が上がっていることが背景だ。クーデター翌日には、インターネット網も正常化した。

新内閣も国際社会からは批判を浴びるだろうが、政策としては外資を呼び込み経済成長を目指すだろう。軍政がうまくマネジメントして、国民が安心できる日常生活が戻れば、多少のデモは起きるだろうが、社会不安にまでは膨らまないとみている。

(聞き手=齋藤眞美)

<メモ>

工藤 年博(くどう・としひろ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所開発スクール(IDEAS)を経て、1994年に英ケンブリッジ大学修士(M.Phil)。同年から2014年までアジア経済研究所。15年から政策研究大学院大教授。専門は東南アジア地域研究、開発経済論。

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