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【ミャンマー】欧米の制裁リスク高まる[政治](2021/02/10)

1日に発生したクーデターを受けて、ミャンマーでは欧州連合(EU)や米国から再び経済制裁を科されるのではとの不安の声が上がっている。金融制裁が発動されれば、日本企業をはじめとする外資のミャンマーへの投資意欲が減退する恐れがある。欧米諸国がミャンマー産品の関税を引き上げた場合には、縫製品など主力産品の輸出減が懸念される。

欧米による軍政への制裁のリスクが高まっている。写真はスーレー・パゴダ(仏塔)付近で英語で書いた訴えを掲げる市民ら=ヤンゴン、8日(NNA)

欧米による軍政への制裁のリスクが高まっている。写真はスーレー・パゴダ(仏塔)付近で英語で書いた訴えを掲げる市民ら=ヤンゴン、8日(NNA)

「米ドルの送金が制限されれば、投資をしづらくなる」――。ミャンマー駐在経験がある日系企業関係者は、米国による金融制裁が発動された場合の影響に懸念を示す。特に、米財務省外国資産管理室(OFAC)の制裁対象(SDN)リストに、ミャンマーの企業が再び追加されることを危惧する。

SDNリストに載った個人や団体は、米国内の資産が凍結されるだけでなく、金融機関を含む米国企業との取引が禁止される。リスト対象の関連会社も、一定の条件で制裁が科される。取引先が制裁対象だと、米国企業でなくとも、米ドルの送金時に米銀を経由するような場合に、資金が凍結される恐れもある。

かつてのミャンマーの軍事政権時代、リストには多くの国軍関係者や企業が含まれていた。国軍系複合企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)や、主要な財閥も入っていた。状況が変わったのは、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)政権が誕生した2016年で、オバマ大統領(当時)が、100以上のミャンマーの個人・団体をリストから外した。

だが、バイデン政権はクーデターを受けて、経済制裁の復活を検討し始めた。現時点で、検討内容の詳細は明らかになっていないが、大手地場企業などがSDNリストに追加される事態になれば、外資の進出環境は一変する。米ドル建て取引が制限されれば、事業が大幅に限定されるからだ。

みずほ総合研究所の酒向浩二・上席主任研究員によれば、SDNリスト対象が再び増加した場合、余波は日本企業に及ぶ恐れがある。「日本企業も対米配慮上、ミャンマー企業との取引に慎重になるのでは」と予測する。

■縫製産業にさらなる打撃も

先進国が途上国からの産品の輸入関税を引き下げる「一般特恵関税制度(GSP)」の対象から、EUと米国がミャンマーを外す恐れもある。

EUと米国はミャンマー軍事政権への制裁として貿易を制限していたが、民政移管後の民主化の進展を見定め、まずEUが13年にGSPを再開。米国は16年、ミャンマーを再びGSPの適用対象とした。

GSPの適用後、ミャンマーの主力産業である縫製業は急成長した。衣類のEUへの輸出額は、19年までの3年間で約4倍の25億米ドル(約2,630億円)に、米国向けは3.5倍の2億9,000万米ドルに伸びた。CMP(裁断・縫製・梱包)受託方式による縫製品は、ミャンマーの輸出総額の約3割を占める。EUは、最大の輸出先である日本に匹敵する重要市場に育った。

欧米のGSP対象国から外れるようなことになれば、新型コロナウイルス感染症の影響で冷え込むミャンマー経済への打撃は大きい。ミャンマーからの縫製品輸出は低迷しており、電子メディアのイラワジによると、今年の春物へのEUからの受注は、前年から約75%落ち込んだ。制裁が再発動されると、縫製産業が窮地に立たされる。

EUは既に「あらゆる手段を検討する」と何らかの制裁発動を示唆している。ミャンマーの縫製業界に詳しい日本繊維輸入組合の藤田誠フェローは、「過去に制裁を導入していた経緯からみても、欧米は何らかの輸入規制を敷くのではないか」と予測する。

EUのアパレルブランドによる21~22年の秋冬物の発注は、これから本格化する。藤田氏は「EU企業は、政府に先駆けてオーダーを手控えるのでは」と分析した。

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