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【ミャンマー】軍政復帰、遠のく民主化[政治](2021/02/02)

ミャンマー国軍は1日早朝、文民政権の実質トップであるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相とウィン・ミン大統領らを拘束し、クーデターを実行した。国軍系ニュースを通じて国家緊急非常事態宣言の発令を伝え、同日中にミン・アウン・フライン国軍総司令官が立法、行政、司法の全権を掌握した。世界的な注目を浴びた民政移管から10年、ミャンマーは軍政に復帰し、民主国家への道のりが遠のく恐れがある。

2019年10月、「即位礼正殿の儀」に参列したスー・チー氏(中央)=宮殿・長名殿(共同)

2019年10月、「即位礼正殿の儀」に参列したスー・チー氏(中央)=宮殿・長名殿(共同)

国軍は、昨年11月に行われた総選挙で不正があったと指摘。選挙のやり直しを求めるとともに、スー・チー氏が率いる与党・国民民主連盟(NLD)政権の責任を追及していたが、与党側は却下していた。日本を含む選挙監視団や国際機関は、総選挙が公正に行われたと表明している。

1日は総選挙後、初めての連邦下院議会が開会される予定だったが、未明に首都ネピドーでスー・チー氏が拘束され、ウィン・ミン大統領のほか、NLD所属の閣僚、国会議員ら多数が軟禁された。地元メディアによると、最大都市ヤンゴンでもピョー・ミン・テイン管区首相が拘束されている。

ミャンマーの憲法では、大統領に国家緊急非常事態宣言を発令する権限がある。しかし、国軍はスー・チー氏らを拘束した上で、政府と国軍の協議の場と定められる「国防治安評議委員会」を国軍メンバーだけで開催。国軍出身のミン・スエ副大統領が大統領代理として宣言に署名した後、ミン・アウン・フライン総司令官に全権限を委譲した。緊急非常事態宣言の期限は1年。

国軍系ニュースで、国防治安評議委員会の映像とともに、国軍総司令官が2月1日から全権を掌握し、現行憲法を尊重した政権運営を行うと放送。政府が総選挙の不正を調査せずに議会を開会するのは憲法に反しているなどとクーデターを正当化し、「公正で自由な選挙を行い、そこで勝利した政党に政権を委譲する」と伝えた。

国会議員が拘束されているとみられる建物の近くで警備を行う国軍の車両と兵士=1日、ネピドー(D―Wave 提供)

国会議員が拘束されているとみられる建物の近くで警備を行う国軍の車両と兵士=1日、ネピドー(D―Wave 提供)

■スー・チー氏が抵抗呼び掛け

スー・チー氏は1日、フェイスブックを通じ「ミャンマーを独裁国家に逆戻りさせるクーデターに屈してはならない」と国民に抵抗を呼び掛けるメッセージを発信した。スー・チー氏は万が一のクーデターを懸念し、側近にメッセージを託していたもようだ。スー・チー氏はネピドーの自宅で拘束されているもようだ。

国軍は先立つ1月26日にネピドーで会見を開き、複数回の投票や国民登録証(NRC)の不所持者による不正投票が860万人分あると非難した。その際に、広報官がクーデターを示唆したことで有事の懸念がささやかれていたが、連邦下院の開会2日前に国軍側が「憲法を順守する」と声明を出したことで、リスクはいったん減退したとみられていた。

スー・チー氏が拘束されたとみられる深夜から、ネピドーでは電話回線が遮断され、ヤンゴンなどでも午前中にインターネットがつながりにくくなった。ヤンゴンでは、銀行や両替商が店舗を閉鎖し、ヤンゴン証券取引所(YSX)も取引の中止を発表した。空港は国内線、国際線ともに閉鎖されている。

ヤンゴン中心部では、クーデターを支持する国軍支持者らが隊列を組んで行進。市街地の人波はまばらで、商業施設などでも食料品などを売る店を除く大半が営業を中止した。建設現場では工事が急きょ中断され、途方に暮れた労働者が座り込む様子が見られた。

ヤンゴンでは現在、国軍の民主化勢力に対する制圧行為などは起きていないが、スー・チー氏の拘束が続けば、NLD支持者らが反発を抑えられず、デモ活動が起きる恐れもある。

国軍のクーデターを受け、日本の茂木敏充外相は1日、ミャンマー国軍によるクーデターについて「民主化プロセスが損なわれる事態が生じていることに対し、重大な懸念を有している」との談話を発出。国連のグテレス事務総長は、「強く非難する。ミャンマーの民主的改革に深刻な打撃を与える」と述べた。インドやシンガポール、マレーシア、インドネシアなど周辺国も深い懸念を表明した。

ミャンマーは1988年から軍事政権が続いていたが、2011年に民政移管が実現。国軍系の連邦団結発展党(USDP)による政権が続いた後、15年の総選挙でスー・チー氏が率いるNLDが改選議席の約8割を獲得する勝利を収め、半世紀余りぶりの文民政権が誕生した。昨年11月の総選挙でNLDは、15年を上回る連邦上下院396議席を獲得。USDPはスー・チー氏の高い人気に加え、軍事政権への逆戻りを嫌悪する国民の大半から支持を得られず、議席を15年の41議席から33議席に減らす大敗だった。

■国軍、改憲に危機感か

ミャンマーの政治経済に詳しい政策研究大学院大学の工藤年博教授(東南アジア研究)は「圧倒的なNLDの勝利を受け、スー・チー政権が公約に掲げる(国軍に有利な)現行憲法の改正が現実味を帯びると危機感を抱いたのではないか」とみる。官民での投資に力を入れてきた日本にとっては、西部ラカイン州のイスラム少数民族ロヒンギャへの迫害問題で国際的な批判を受ける国軍が政権を握ることにより、「支援や投資がしにくくなり、相当な影響が出る恐れがある」と話した。

スー・チー氏らが拘束されたミャンマーで、市場で買い物する市民=1日、ヤンゴン(共同)

スー・チー氏らが拘束されたミャンマーで、市場で買い物する市民=1日、ヤンゴン(共同)

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