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【ベトナム】習近平氏発言、周辺国に波紋[経済](2020/12/18)

中国の習近平国家主席が11月に環太平洋連携協定(TPP)参加に前向きな発言をしたことで、周辺国に波紋を呼んでいる。従来から参加に関心が高かった韓国やタイは検討を急ぎ、米国の思惑を優先したい台湾や日本は、中国に対する警戒心がにじみ出る。TPPでは参加国による全会一致の賛成が必要となり、新政権が発足する予定の米国の動向も今後を大きく左右する。「メガFTA」を巡り、両大国と周辺国の「椅子取りゲーム」の様相も見せている。

習近平氏がTPPへの参加に前向きな姿勢を示したことで、周辺国にさまざまな思惑が交錯している。写真は2011年8月、北京を訪れ人民大会堂での歓迎式典に臨むバイデン米副大統領(当時、右)と中国の習国家副主席(当時)(共同)

習近平氏がTPPへの参加に前向きな姿勢を示したことで、周辺国にさまざまな思惑が交錯している。写真は2011年8月、北京を訪れ人民大会堂での歓迎式典に臨むバイデン米副大統領(当時、右)と中国の習国家副主席(当時)(共同)

2005年ごろから交渉が開始され、09年に米国が参加を表明したことで大規模な自由貿易圏を目指す動きとなったTPP。各種の厳しい条件が課されることから中国の参加は難しく、日米が交渉を主導していることで「中国包囲網」の性格を持つとも言われてきた。ただ、以前から中国はTPPへの参加に関心を持っており、その是非が真剣に議論されてきたとされる。

日本国際問題研究所の津上俊哉客員研究員は、地域的な包括的経済連携(RCEP)署名直後の習近平国家主席の発言について、「中国の『善玉外交』の一環」と分析する。習国家主席は今年9月、国連での演説で「2060年までにカーボン・ニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする)を目指す」意向を表明。関係国の意表を突く発表で、日本は70年としていたカーボン・ニュートラルの目標を50年に繰り上げるなど、国際社会へのインパクトは大きかった。さらに、11月に15カ国が署名したRCEPの交渉では、「1年ほど前から中国が前向きになり、交渉が加速した」(津上氏)。この2つの出来事と11月の「TPP参加」表明は、セットで考えるべきという。

一連の中国の動きの背景には、「米国との共存という幻想を捨てた」ことと、「今年前半に落ち込んだ国際的な評判を回復させる狙い」があると津上氏は語る。米トランプ政権の対中強硬姿勢を受け、習氏は2期目(17年)以降、米国の大統領が誰であっても共存は難しいとの認識を前提に、長期の持久戦に持ち込む構えを見せ、新たな「長征」を宣言した。国際社会では、自由貿易体制を支持し、環境保護など国際的に関心が高い問題に米国より積極的に関与する姿勢をアピールして、「味方」を作る構えを取っている。

また、今年に入り、新型コロナウイルス感染症が中国から世界に広がったことや、「戦狼」と呼ばれる強硬な外交姿勢をとったこと、香港の「一国二制度」への対応などで、中国に対して国際的な批判が強まったことも大きい。「中国は、地に墜ちた国際的な評判を回復させる必要に迫られていた」(同)ことも、一連の国際協調的な姿勢を後押ししたようだ。

■中国に「失うものはない」

TPPに参加すれば、関税の自由化や国営企業の改革のほか、知的財産権、労働、環境などで国際的な基準に適応し、高い透明性を求められることになる。地元紙「北京青年報」では習氏の発言直後の紙面で識者の寄稿を掲載し「RCEPはTPP参加への大きな一歩となった」とし、「TPPは中国のサービス業、ハイテク産業、デジタル経済に巨大なチャンスをもたらす」としている。だが、国の経済の支柱である国営企業の改革の実現性などについては、触れられていない。「習近平政権は、共産党の指導を市場の上に位置付ける姿勢が顕著だが、それはTPPの理念とは水と油」(津上氏)とも言える。権力集中を果たした習近平主席が本気で取り組めば、TPPが求める高水準の関税撤廃やサービスの自由化も実現できなくはないだろう。しかし、中国TPP参加の是非が根本から問われるのは、中国のこの姿勢を巡ってであり、「いわゆる『国有企業問題』は、そこから派生する問題に過ぎない」と津上氏は言う。

もっとも、TPPへの参加が実現しようとしまいと、「中国に失うものは何もない」(韓国の民間シンクタンク世宗研究所の李成賢/イ・ソンヒョン中国研究センター長)との指摘もある。参加を認められればTPPの「中国包囲網」という性格を変えることができる。参加を認められなかったとしても、「自由主義経済や多国間主義を重視しているという、従来からの主張に説得力を持たせることができる」ためだ。

■「全会一致」ルールが壁に

TPPへの加入には、全ての参加国による承認が必要となる。同協定にはタイや台湾、韓国も関心を示しており、TPPルールを主導してきた米国も、バイデン政権発足後に復帰の可能性がある。「米国やタイの方が全参加国の承認を得やすく、カナダやオーストラリアなどとも問題を抱える中国の承認には、時間がかかるのではないか」(みずほ総合研究所アジア調査部の酒向浩二・上席主任研究員)。

そのタイは政治的な混乱は続くものの、11月に外相がTPPに関して各省の意見を集約する方針が閣議決定された。識者の一部は地元紙に対して「多国間よりも二国間のFTAを重視すべき」との意見を示し、農産品が国際競争にさらされることや、医薬品のアクセスに関する規定が変えられることについては、反対が根強い。ただ、低成長が続き、コロナ禍の打撃でマイナス成長が不可避なタイにとっては、経済を飛躍させるきっかけとして、前向きに検討していく可能性もある。近く、各省の見解をまとめた報告書が内閣に提出される予定だ。

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