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【韓国】【韓流新時代】映画プロデューサー「作家性の強さが礎」[社会](2020/11/02)

韓国映画界にもコロナ禍という逆風が吹く中、製作現場や配給・流通面にはどんな変化が起こっているのか。韓国映画の強さの礎はどこにあり、これからの課題は何か。また、今の日本映画にはどんな取り組みが必要なのか。北朝鮮の金日成元国家主席の暗殺計画を描いた「シルミド」などを製作した金享駿(キム・ヒョンジュン)氏に、書面でインタビューした。【坂部哲生】

――海外で韓国映画の注目度が高まっている。

「韓国映画はストーリーテリングに強みがある」と話す金氏(本人提供)

「韓国映画はストーリーテリングに強みがある」と話す金氏(本人提供)

オンラインで韓国映画に触れる機会が増えた視聴者が、韓国映画の持つストーリーテリングの魅力を発見するようになった。ハリウッド映画と比べて製作費では劣るものの、ストーリーテリングに重点を置く企画力が視聴者を引け付けたようだ。ストーリーの素材は韓国だが、海外の人も共感できるよう普遍化することに成功している。

■超大作の配給は当面困難

――新型コロナウイルス感染症の流行が韓国の映画業界にどのような影響を及ぼしてているか。

観客動員が大幅に低下しているため、すでに完成した映画のうち、製作費の大きな作品ほど封切りを先送りしている状況だ。今後も「3密」が発生しやすい映画館を避ける動きが予想されるため、少しでも製作費を回収しようと、一部ではネットフリックスなどインターネット動画配信事業者への版権の販売を真剣に検討しているところもある。

――映画への大型投資は今後減っていくのか。

巨額の費用を投じる超大作映画の製作はしばらくは難しいだろう。映画産業の市場規模はコロナ禍前の30%に縮小したにもかかわらず、「週52時間労働制」の実施や出演料の引き上げなどで人件費の抑制が難しい。現状では、採算割れが確実だ。

――コロナ禍が映画の流通過程にどのような変化を生んだか。

映画産業のオンラインでの売上高は2019年時点で全体の25%程度だったが、映画館での興行収入が減少したため今年はその割合がさらに拡大したとみられる。配給網が変化する中で、影響を受けるのは配給会社と映画館だ。今後は市場のニーズに応じて映画のジャンルや規模を柔軟に調整できるような仕組み作りが重要だ。

■韓国映画の成功は「挑戦」の賜

――ネットフリックスでは、韓国の映画監督が6~8のエピソードからなるシリーズ作品を製作している。韓国映画の質の低下につながらないか。

シリーズ作品を撮った方が、1本2時間の映画を撮影するよりも多くの収入を得られる。ネットフリックスでは作品を作る上で投資会社やスポンサーからの制約がないため、参入する監督が相次いでいる。しかし、ネットフリックスが視聴回数だけにこだわるならば、彼らが持つ芸術性や作家性を発揮する機会が失われる恐れもある。

――一方で韓国の映画産業は、実績のある有名な監督と脚本家にスポンサーが集まりやすい傾向が強いとも聞いている。これによって、若い監督が映画を撮影する機会は減り、単価が高いドラマに専念する脚本家が増えているようだ。

韓国映画が発展するようになった決定的なきっかけは、新参監督・プロデューサーの創造的で勇気のある挑戦だった。大企業が映画の製作に関わるようになったのは最近のことで、それまでは作家性の強い作品が多く作られ、また、そのチャレンジ精神が今日の韓国映画の成功の基礎になった。

しかし、映画業界も次第にビジネスライクになった。スポンサーは投資リスクを減らそうと、実績のある有名な監督や俳優への依存度を深めている。例えば、有名俳優が出演するというだけで、肝心の脚本は見ずに出資を決定する傾向が目立つようになってきた。これは、俳優の出演料が高騰する一因にもなっている。

■日本映画はシステムにメスを

――日本の映画界はアニメーションや小説の原作の映画化が中心だ。韓国プロデューサーとして現在の日本映画をどのように見ているか。

私は日本で韓日合作映画の製作に関わったか経験があるが、昔から、なぜ日本では小説などの原作でなければ映画化しないのかと疑問に思っていた。日本では、映画監督や脚本家が自ら創作したシナリオをメジャーな映画会社に持ち込んでも、映画化の実現は難しいという話をたくさん聞いた。

もちろん、すでに検証されたストーリーを活用できる利点はあるが、原作が持っている完成度と作品性を映画として正しく表現できるかどうかは疑問だ。実際、原作を知らずに鑑賞した場合、内容を十分に理解できない映画が多い。そのため、韓国人は日本の映画を観なくなるし、逆に日本人は原作のない韓国映画に関心を持たない。

日本でも多くの創作シナリオが映画化され、プロデューサーも韓国のように、映画による収益の一部を受け取れるシステムを構築できれば、日本の映画産業の発展と多様性につながっていくはずだ。

一方で、両国に横たわる政治的な問題が早く解説されることを願っている。韓国と日本が合弁などを通じた市場拡大に向けて協力することこそ、両国の映画産業がさらに発展する大きな手助けになるだろう。

<プロフィル>

金享駿(キム・ヒョンジュン):

映画プロデューサー兼会社経営者。南カリフォルニア大学卒業後、映画産業に入り、数多くの映画をプロデュース。04年公開のシルミドは韓国映画として観客動員数が初めて1,000万人を突破。韓国のアカデミー賞と呼ばれる大鐘賞映画祭などで各種賞を受賞。11~13年は、韓国CJグループのエンターテインメント企業CJ E&Mで常任顧問を務めた。

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