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【タイ】【韓流新時代】タイのデモで「韓流」影響力[社会](2020/11/05)

タイで連日続いている若者による反体制デモ下で、同国での韓流人気の根強さが鮮明になっている。タイで展開する芸能人の非公式ファンクラブが集めたデモ隊への寄付金額が、10月18日時点で470万バーツ(約1,580万円)を超え、そのうち約8割がKポップのファンクラブからだったためだ。一部のファンクラブは反体制デモに批判的な企業へのボイコットを呼び掛けるほか、Kポップグループに所属するタイ人メンバーが政権批判をにおわせる発言をし、ファンへの影響力を強めている。【タイ地域事務所・安成志津香】

地場大手企業の広告に起用されたKポップグループ「BLACKPINK」のタイ人メンバー、リサさん=タイ・バンコク(NNA撮影)

地場大手企業の広告に起用されたKポップグループ「BLACKPINK」のタイ人メンバー、リサさん=タイ・バンコク(NNA撮影)

タイでは2000年以降に韓流ドラマが浸透し始め、10年前後にはKポップの人気に火がついた。タイ人の若者が追い掛ける韓流文化の対象はドラマや音楽、ファッション、化粧品と多岐にわたり、その人気は不動のものとなっている。

Kポップの人気動向などについて情報提供する韓国のウェブサイト「Kポップ・レーダー」によると、19年7月~20年6月にツイッターでのKポップ関連のツイート件数が世界で最も多かったのはタイで、本場韓国を上回るほどだ。

その韓流人気は、政権の退陣や絶対的権威を持つ王室の改革を求める反体制デモにも影響を及ぼしている。タイのオンラインメディアのワークポイント・トゥデーによると、デモ隊に寄付したファンクラブ37組のうち、Kポップは30組で、寄付金総額は380万バーツに上った。

寄付額が最大だったのは、Kポップグループ「少女時代」のファンクラブで、77万9,000バーツ。以下は「スーパージュニア」の70万バーツ、「BTS(防弾少年団)」の45万9,000バーツなど、Kポップ勢が続いた。日本の芸能人のファンクラブはロックバンド「ONE OK ROCK(ワンオクロック)」のみで、金額も3万5,000バーツにとどまった。

反体制デモを支持するオラファンさん(仮名、23歳)は、Kポップデュオ「東方神起」のファンクラブに200バーツを寄付した。個人的にデモ隊支援の口座へ振り込むこともできたが、「他のファンとの連帯感を感じられる。応援しているアイドルのイメージ向上にもつながる」と考え、ファンクラブを通じた寄付を選んだという。

寄付を呼び掛けた女優で活動家のインティラ氏はツイッターで、「大人たちはファンクラブ(若者)の持つ力を過小評価している」と主張。「集まった寄付金はデモで使われるヘルメットやレインコートなどの購入に充てる」と投稿した。ファンクラブからは今後も継続して寄付を募る考えを示している。

■駅構内での広告枠、不買運動も

Kポップのファンらが、反体制デモに批判的な対応を取る企業のサービスに対し、ボイコットを促す動きも出ている。「高架鉄道や地下鉄で広告枠を買うのはやめましょう」――。そう呼び掛けたのは、44万人以上がフォローするBTSのタイ版ファンクラブのフェイスブックページだ。

首都バンコクの高架鉄道や地下鉄が、政府の要請に応じて、反体制デモの開催中に運行を停止したことを受け、「デモ参加者や市民の帰宅を困難にした。このような企業を支持するべきではない」とボイコットの理由を説明した。

タイのファンクラブの間では、駅構内に広告を設置してアイドルを応援する習慣がある=タイ・バンコク(NNA撮影)

タイのファンクラブの間では、駅構内に広告を設置してアイドルを応援する習慣がある=タイ・バンコク(NNA撮影)

タイの若者の間では、自分の応援するアイドルを宣伝するため、駅構内の広告枠を購入する習慣があり、鉄道運行会社の収入源の一部となっている。こうしたファンクラブの呼び掛けに対しては、「今度から広告枠を購入するのをやめる」と宣言する声も出ており、ファンクラブの持つ影響力の大きさを伺わせている。

■アイドルがデモ隊排除に苦言

Kポップグループのタイ人メンバーによる発言にも注目が集まっている。「暴力が行使されているのを黙って見過ごすことはできない」。Kポップグループ「2PM」のメンバーで、タイ人の父親を持つニックンさんは10月17日、ツイッターにこう投稿し、ファンに身の安全を呼び掛けた。前日に警察が高圧放水車を出動させ、デモ隊を強制排除したことを受けた発言だとみられている。ニックンさんのツイッターのフォロワー数は690万人で、この投稿はたちまち約5万3,800件リツイートされた。

近年のKポップグループはメンバーの多国籍化を進めており、2PMのほか「BLACKPINK(ブラックピンク)」、「GOT7(ガットセブン)」など世界的に有名なグループにもタイ人メンバーが所属している。地場企業の広告にも大々的に起用されているタイ人メンバーの存在が国内のファンに親近感を与え、韓流人気を後押ししているとみられている。

駅構内で大々的に展開されるKポップグループ「GOT7」のタイ人メンバー、ベンベンさんを起用した広告=タイ・バンコク(NNA撮影)

駅構内で大々的に展開されるKポップグループ「GOT7」のタイ人メンバー、ベンベンさんを起用した広告=タイ・バンコク(NNA撮影)

大衆音楽専門家で、韓国ジョージ・メイソン大学の李奎卓(イ・ギュタク)教授は、「韓国のコンテンツ産業が海外の市場として、東アジア、米国の次に重視しているのが東南アジアと南米。特にタイは東南アジアの中でも韓流文化の影響力が強く、芸能事務所は積極的にタイ人を採用している」と分析する。

タイではこれまで、人前で政治的な発言をすることはタブーとされてきたが、若者からは芸能人の政治的な意見表明を支持する声も多く聞かれる。Kポップグループのツイッターアカウントを複数フォローするムリさん(仮名、33歳)は、「芸能人の言動は、政治的な思想も含めてファンに大きな影響をもたらしている」とコメント。その上で、「彼らがデモについて発信することによって、タイで起きていることを世界に広めるきっかけになる」と話した。Kポップスターの一挙一動は、今後もファンの行動に影響を与えそうだ。

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