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【日本】【アジアGDPまとめ】「景気後退」5カ国・地域に[経済](2020/09/03)

アジア主要国の4~6月期の国内総生産(GDP)成長率が、今週までに出そろった。新型コロナウイルス感染症の流行が拡大した影響で、マイナス成長となったのは11カ国・地域のうち8カ国・地域に上った。2期連続でマイナス成長となる「景気後退(テクニカル・リセッション)」となったのは5カ国・地域。新型コロナの感染拡大を食い止められていない国や「第2波」の対応に苦慮している国もあり、7月以降の見通しも厳しい状況が続いている。

香港は4~6月期まで4四半期連続でマイナス成長を記録するなど、低迷が長期化している

香港は4~6月期まで4四半期連続でマイナス成長を記録するなど、低迷が長期化している

「統計開始以来で最悪」「22年ぶりの2桁のマイナス」「過去最悪」――。アジア各地のメディアでは、今年に入って経済指標に関するこんな見出しが相次ぐ。4~6月期にGDP成長率が2四半期連続でマイナスとなり、リセッション入りしたのは、韓国とシンガポール、タイ、フィリピン。同期の成長率がマイナス9%だった香港は、4四半期連続でのマイナスと長期の低迷にあえぐ。2019年に「逃亡犯条例」改正案への反対を契機とする抗議運動、今年は新型コロナの感染拡大に加えて「香港国家安全維持法」の施行をめぐる政治的な混乱が大きな打撃となった。特に影響が大きかったのが、GDPの約7割を占める個人消費だ。「感染防止策の導入や失業増加によるマインド低下を背景に、大幅に減少した」(みずほ総合研究所の主任エコノミスト 玉井芳野氏)。また、輸出もサプライチェーン(部品の調達・供給網)の混乱や貿易の縮小により減少した。

政治の混乱と経済の低迷で、香港が長年にわたって維持してきた「世界の金融センター」としての地位を危ぶむ声もある。玉井氏は「香港市場の『中国化』を懸念する海外投資家などが先行き不安から投資を控え、香港の相対的な地位低下につながる可能性は否定できない」としながらも、「開放された資本市場や簡素な税制・低税率など、香港の機能を支える要素は維持されている」と指摘。中国からの投資増加や人材流入などを通じて中国の影響度が増し、「中国への投資窓口」「中国のための国際金融・ビジネスセンター」としての性格が強まっていくとの見通しを示した。

■東南アジア3カ国は2桁のマイナス

4~6月期の成長率が3.3%のマイナスとなった韓国は、輸出が16.6%減少したことが全体を押し下げた。特に「輸出の下げ幅が輸入の下げ幅(7.4%減)を大きく上回ったことで、実質GDPが4.5%下がった」(オックスフォード・エコノミクスのアナリスト、ロイド・チャン氏)。輸出の好不調が経済成長の浮沈に直結する韓国は、8月まで6カ月連続で輸出がマイナスとなった。20年通年の成長率見通しも縮小が避けられない状況だ。

東南アジアでリセッション入りしたシンガポールとタイ、フィリピンの4~6月期のGDP成長率は、そろって2桁のマイナス。マイナス13.2%となったシンガポールは、プラスが予想されていた製造業が0.7%縮小した影響が大きかった。さらに小売りやホテル、航空といった観光関連の産業が打撃を受けて13.4%縮小したほか、外国人労働者が多く感染したことで建設業が停滞し、59.3%のマイナスとなった。

タイは12.2%の縮小。「観光サービスが7割を占める『サービス輸出』が前年同期比70%前後減少し、コロナの影響が如実に表れ、実質GDPを10%押し下げた」(日本総合研究所の副主任研究員 熊谷章太郎氏)。4~6月の輸出(バーツ建て)は、13.7%減となった。米中向けはそれぞれ10%以上のプラスとなったものの、厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施したインド向けが66.7%減、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けと欧州連合(EU)向けがそれぞれ20%以上落ち込むなど、国・地域別で大きな差が出た。

米中向けの輸出が好調だったのは、中国での生産活動が再開したことや、米国向け輸出で中国からタイへの生産シフトが進んでいることが大きいとみられる。また、新型コロナによる世界的な活動制限で、IT関連の需要が高まったことから、タイが競争力を持つハードディスクドライブ(HDD)の輸出が恩恵を受けた可能性もある。

長期にわたって厳しい活動制限を敷いたフィリピンの成長率は、16.5%のマイナス。ロックダウン(都市封鎖)の影響を受けにくい金融や、テレワークや在宅時間の増加を受けた情報・通信は底堅かったものの、製造や建設、観光など多くの分野が停滞した。

■フィリピン、問われる経済救済の政策

これら3カ国は7~9月期の視界も悪い。シンガポールの第3四半期の成長率は4~6%のマイナス、通年では6%のマイナスになる見通し(CIBMプライベート・バンキングのエコノミスト、ソン・センウン氏)。タイも7月以降の持ち直しが遅く、通年では7%ほどのマイナスになると予想される。輸出は仕向け先によって大きなばらつきがあったが、「輸出への影響は景気動向に3~6カ月遅れて表れるため、年後半にさまざまな影響が出るだろう」(日本総研の熊谷氏)

近年、日系企業の東南アジアでの投資先として注目度が高いフィリピンは、今後の対応によっては中長期的な人気を落とすことにつながりかねない。日本総研の塚田雄太・副主任研究員は、「世界的に見ても厳格といえるフィリピンの活動制限は、医療が脆弱(ぜいじゃく)であることを考えれば妥当な措置だった」としながらも、「問題は、経済救済措置の規模が対GDP比5.7%程度で、厳しい活動制限に見合う手厚いものではなかったこと」と指摘する。フィリピンにとっては財政赤字への懸念という事情はあったものの、「フィリピンへの投資を検討する企業にとって、政府の危機対応能力やリーダーシップに疑念を持たせる可能性がある」

新型コロナ対策に予算を投じたことから、ドゥテルテ政権の看板政策であるインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」は、各種プロジェクトの実現可能性が危ぶまれているのが現状。20年通年のインフラ整備計画は前年から25%縮小され、21年も当初計画から下振れする見通しだ。フィリピンはドゥテルテ政権の強いリーダーシップによって大規模インフラ整備計画が実行されることで、ビジネス環境の改善が期待されていた。新型コロナを経てその「看板」に傷がつくことになれば、投資の呼び込みに影を落としかねない。

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