【タイ】転換期を迎える訪日旅行市場[観光](2020/08/07)
東南アジア最大の訪日旅行者数を誇るタイで、訪日市場が転換期を迎えている。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、日本を訪れるタイ人はほぼゼロとなった。現時点で訪日旅行の再開のめどは立っていないが、再開後は知人同士の少人数の旅行や個人旅行の人気が高まることが見込まれる。タイの旅行会社はコロナ後を見据えた訪日旅行商品の企画・販売に意欲を示しており、官民で協力して需要喚起を図る。
日本政府観光局(JNTO)バンコク事務所が、6月22~29日にタイの旅行会社48社(回答企業数24社)を対象に実施した調査によると、「コロナ後は訪日旅行商品の販売に注力するか」との問いに対して、75.0%が「従来通り」、残りの25.0%が「より取り扱いを増加させる」と答え、「取り扱いを削減する」との回答はゼロだった。
小沼英悟所長は、「訪日旅行商品を積極的に販売する旅行会社を対象に調査を実施していることを考慮する必要があるが、タイの旅行会社は依然として日本への送客に意欲的である」と話す。
大半の旅行会社は今後、「30~40代」「(訪日経験のある)リピーター」「家族」「富裕層」に照準を合わせる方針を示している。
訪日旅行の興味(動機)については、「食巡り」「温泉」など従来から変わらないとみているが、旅のスタイルは「知人との少人数のグループ旅行」「個人旅行」に変化すると見込んでいる。
小沼氏は「コロナ後は見知らぬ人との旅行を避けたいと考える人が増えると見込まれる。数年前からタイ人訪日旅行者の間で自ら自動車を運転して日本国内を回ることを望む人が増えているが、コロナ後はレンタカー需要に一層弾みがつく可能性がある」との見方を示す。
■航空会社の経営破綻が価格上昇の一因に
「コロナ後に取り扱う訪日旅行商品を変えるか」との問いには、旅行会社の58.3%が「変える」と回答。訪日旅行商品の価格については、33.3%が「コスト上昇により価格を上げる」、29.2%が「価格を高めて価値を上げる」と答えた。
訪日旅行商品の価格上昇の一因として、格安航空会社(LCC)を含む複数のタイの航空会社の経営破綻が相次いだことによる航空券価格の上昇の可能性が挙げられる。これまでにフラッグキャリアのタイ国際航空、タイのLCCノック・エアラインズ、同社とシンガポールの同業スクートの合弁会社ノックスクート・エアラインズの3社が破綻。いずれもコロナ前は日本路線を運航していた。
コロナ後のタイ―日本間の航空便は当面、運航会社と便数の減少、乗り入れ先の減少(=地方路線の減少)が生じる可能性があり、その結果、航空券の料金が高止まりし、コロナ前のような3泊5日で2万バーツ(約6万8,000円)前後の格安団体ツアーの成立自体が難しくなることが予想される。
そのため、旅行会社は「格安団体ツアー」よりも「知人との少人数のグループ旅行」「プレミアム団体ツアー」「インセンティブ・MICE(会議、視察、国際会議、展示会・見本市)旅行」を取り扱っていく意向を示している。
JNTOバンコク事務所の田浦靖典次長は「商品の価格を上げる代わりに、個人旅行では難しい付加価値の高い商品を開発・販売しようという考えの旅行会社が多く、JNTOとして取り組みを支援していきたい」と話す。
■タイ人旅行者の7割がリピーター
タイの訪日旅行者は、2013年7月に日本政府が短期滞在査証(ビザ)を免除して以降、右肩上がりに伸びており、18年に初めて100万人を突破した。19年は前年比16.5%増の132万人で、東南アジア諸国連合(ASEAN)では2位のフィリピン(61万人)に大差をつけて首位。世界でも中国、韓国、台湾、香港、米国に次ぎ6位となった。
タイの訪日旅行者は30代の上位中間層(アッパーミドル)以上が中心で、家族や親族と共に旅行する人が多く、リピーターが全体の7割を占める。行き先では、19年に東京の訪問率が初めて5割を切り、北海道や世界遺産に登録された白川郷の合掌造り集落がある岐阜県、九州など地方が人気を集めており、東北地方も認知度が上がってきているという。
新型コロナの影響で、20年上半期(1~6月)に日本を訪れたタイ人旅行者は、前年同期比68.5%減の22万人まで落ち込んだ。日本政府は新型コロナの水際対策として短期滞在ビザ免除措置を停止しており、現時点で訪日旅行の再開のめどは立っていない。
JNTOバンコク事務所は、ウェブサイトや会員制交流サイト(SNS)を通じてタイ人の趣味嗜好(しこう)に応じた、将来の訪日意欲を喚起する情報を発信するほか、旅行会社への情報提供や手配能力向上に向けた取り組みを実施し、航空会社や旅行会社と連携して共同広告やプロモーションを展開していく方針だ。