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【インド】日系飲食チェーンが新業態[食品](2020/06/25)

インドで7軒の飲食店を経営するくふ楽インディアは今月、北部グルガオンで居酒屋「くふ楽」の味を冷凍食品にして自宅に届けるサービスを開始した。オンラインショップを通じて、ラーメンや餃子を販売。焼き鳥といった商品も徐々に追加する予定だ。店舗はあえて営業を再開せず、「ウィズコロナ」の新たな飲食需要に集中。本多康二郎取締役は「冷凍食品のデリバリーで11月までに単月黒字化を目指す」と意気込む。

くふ楽インディアが展開する飲食店は、3月下旬に始まった全土封鎖で営業を停止した。封鎖措置の段階的緩和により、今月8日には当局から営業再開を許可されたものの、目下は店舗営業はせず、デリバリーの新業態で収益化を目指す方針だ。

■富裕層に「簡単調理」アピール

くふ楽グルガオン本店の公式通販サイト。加熱・調理の仕方を示す動画をアップし、購入を促進している

くふ楽グルガオン本店の公式通販サイト。加熱・調理の仕方を示す動画をアップし、購入を促進している

くふ楽グルガオン本店は今月12日に公式ウェブサイトを通じて、冷凍のラーメン(2食入り、1,200ルピー=約1,700円)、つけ麺(2食入り、1,500ルピー)、餃子(10個入り、380ルピー)の販売を開始した。

本多氏は「新型コロナウイルスの感染が収束していない今、店を開いても誰もハッピーにならない。また、店で感染者が出れば、デリバリーすらできなくなる」と語る。一方で、「(全土封鎖で)今までメイドさんに料理をしてもらっていたインド人富裕層が、(メイドが故郷に帰ったことで)デリバリーを頼んだり料理をしたりするようになり、新しいマーケットが生まれた」と指摘。「ひと手間かければ鉄板餃子ができますよと、富裕層に広めていきたい」と意気込む。

ラーメンとつけ麺は煮卵やチャーシューといった具材入りで、追加の食材調理なしに店の味を再現できるようにした。公式サイトとユーチューブに、過熱調理のハウツー動画を掲載。インド人でも簡単に調理できることをアピールしている。

今後は、インド人フォロワー数千人を抱える日本人従業員のユーチューブチャンネルや、人気インスタグラマーを通じて、ハウツーや「食レポ」の動画をさらに増やしていく。描くのは「インド人消費者が自宅で作る様子を動画撮影し、インスタグラムなどで配信して周囲に自慢するような状況」だ。受注は現在、日本人とインド人が半々だが、1回当たり1万ルピー以上の注文をするインド人顧客もいる。会員制交流サイト(SNS)と口コミを活用し、こういったインド人ファンを増やす狙いだ。

■存続のためコスト削減

くふ楽グルガオン本店は封鎖前、毎月約500万ルピーを売り上げていた。封鎖のダメージを緩和するため、物件のオーナーと交渉して4~6月の賃料は無料、7~8月は半額とすることで合意。マネジャーレベルの従業員の給与も、生活の保障を考え貸付制度を設けた上で一部削減した。「コロナ禍の今、借主や職がなくなって困るのは物件オーナーも従業員も同じ。会社(店)を存続させるために協力してほしいと依頼し、合意を取り付けた」という。

グルガオン本店以外の店舗も、それぞれのやり方で黒字運営を目指している。グルガオンの別店舗「麺家くふ楽」は弁当のデリバリーに注力する形で、グルガオン本店と役割をすみ分け。くふ楽チェンナイ店(南部チェンナイ)は冷凍食品と弁当の販売を一手に担い、くふ楽ニムラナ店(西部ラジャスタン州ニムラナ)は工業団地で働く日本人向けに弁当販売を続けている。

本多氏は「新型コロナの収束に半年以上かかることは目に見えており、店舗営業の再開時期は予測できない。だからこそデリバリーで、課金できるサービスをしっかりと構築していかなくては」とコメント。グルガオン本店は冷凍食品のデリバリーで、10~11月の単月黒字化を目標としている。

■食品加工会社が好調

くふ楽店舗向けの食肉や麺を加工する目的で2016年に設立された食品加工会社、ジャパニーズ・スタンダード・プロセッシング(JSP)も奮闘している。当初はくふ楽のほか、「Chaayos(チャヨース)」や「ハードロックカフェ」といった飲食店向けの精肉・食肉加工品の供給を主軸としていたが、今年に入ってから消費者向け販売を強化。封鎖により飲食店向けの販売は全面的に停止し、ほぼ100%がBtoC(企業・消費者間取引)となった。

インド北部グルガオンにあるJSPの工場。「日々、新商品の開発に取り組んでいる」と本多氏(写真右)=1月(NNA撮影)

インド北部グルガオンにあるJSPの工場。「日々、新商品の開発に取り組んでいる」と本多氏(写真右)=1月(NNA撮影)

現在は自社通販サイトに加え、グルガオンと北部デリーで野菜など食材を配達する「トマト・プロジェクト」と同業の「ハソラ」、グルガオンの日本食材店「大和屋」などで販売。1月に180万ルピーほどだった月間売上高は、自社通販サイトでの販売と配達を再開した5月に約250万ルピーまで拡大し、損益分岐点に到達した。

JSPの社長でもある本多氏によると、企業間取引(BtoB)からBtoCへの移行と封鎖の影響で食肉の販売は減り、ソーセージやハム、冷凍のハンバーグや筑前煮といった「レディー・トゥー・イート(RTE、調理済み食品)」が主力商品となった。同社はRTEの新商品開発を強化し、他社との提携を通じて近隣のデリーに販路を広げることで、さらなる売り上げ拡大を図る計画だ。(天野友紀子)

<メモ>

くふ楽インディア

飲食チェーンのKUURAKU GROUP(千葉市)と、本多氏が代表を務めるヒロハマ・インディアの折半出資により、13年に設立。くふ楽4店舗(グルガオン本店、チェンナイ店、ニムラナ店、麺家くふ楽)と、「TOKYO TABLE」2店舗(ニムラナ1店、北部デリー1店)、「Piccante」1店舗(イタリアン業態、チェンナイ)の計7店舗を展開している。

JSP

レンタルオフィスやホテル運営などを手掛けるヒロハマ・インディアに出資するサブヒロハマコーポレーション(東京都墨田区)とヒロハマ(同)がそれぞれ45%、インド人パートナーが10%を出資し、16年にグルガオンで設立。資本金は3,800万ルピー。ベーコンやソーセージといった食肉加工品、「煮込みハンバーグ」など和風の冷凍総菜を製造・販売している。加工場で使用する活性次亜水(殺菌水)も自社で製造。「GERMGO(ジェムゴ)」の名前で社外販売も行っている。

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