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【日本】【コロナアンケート】駐在員退避3割、地域で温度差[経済](2020/04/16)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、海外駐在員が日本に退避しているかどうかについて、NNAがアジア14カ国・地域の駐在員を対象に聞いたところ、国・地域によって大きなばらつきが出る結果となった。「日本に退避」「退避を準備」の回答は全体(回答総数1,401人)の3割程度だが、インドでは8割弱に達する一方、台湾やシンガポールは1割未満にとどまった。医療環境のぜい弱なインドやインドネシアなどを除くと、退避しない理由は「日本の方が安全でないため」との指摘が多かった。

羽田便の搭乗手続きを待つインド駐在員ら=8日、ニューデリー(NNA撮影)

羽田便の搭乗手続きを待つインド駐在員ら=8日、ニューデリー(NNA撮影)

「退避した・退避中」または「準備を進めている」との回答が最も多かったのはインドで、合計で全体の78.5%を占めた。同国では3月25日に全土が封鎖されたほか、中央政府とは別に州政府による規制もあり、地域によっては全く外出できないといった厳しい行動制限が敷かれている。インドでサービス業に従事する駐在員からは「居住地でのライフライン確保が困難になった。特に医療体制」などと現地での生活継続を懸念する声が寄せられた。

首都ジャカルタで4月10日から「大規模な社会的制限(PSBB)」が始まったインドネシアは、「退避した・退避中」または「準備を進めている」の割合が計65.7%とインドに次いで高かった。ミャンマーでも2つの回答の合計が61.6%に達し、フィリピンでは46.8%と半数に迫った。

インドを筆頭に「退避」「退避準備」の回答が多かった国では、「罹患(りかん)時の医療リスク大」(インドネシア/鉄鋼・金属)、「医療崩壊と治安への不安」(フィリピン/四輪二輪・部品)と、医療環境への不安を示す回答が特に目立った。

ミャンマーではほかに、「医療体制が整備されておらず、近隣諸国に駆け込むこともできない」(電機・電子・半導体)と、医療や生活面で頼りにするタイへの渡航手段が絶たれたことで日本退避が加速している状況もあるようだ。

■「退避しない」「特に考えない」は6割

アジア各地で外出や航空機の乗り入れに関する規制が相次ぎ強化・延長されると同時に、動きが鈍いとされてきた日本でも、感染者の増大を受けて、4月7日に東京など7都府県で緊急事態宣言が発令されるなど、退避判断が一層難しくなってきている。

こうした状況下、「退避しない」と回答した割合は平均で38.3%となり、台湾(61.5%)、韓国(54.8%)、シンガポール(51.8%)、中国(48.1%)、ベトナム(45.7%)などで40%を上回った。

今回の感染の震源地となったが、ロックダウン(都市封鎖)を経て現在は終息の兆しが見えつつある中国では、「退避した・退避中」の回答も18.8%とそれなりにあったものの、おおむね過去についての話で、これから退避しようという動きはほぼゼロ。「春節休暇から2月上旬まで既に日本に退避。その後中国は落ち着き、日本が安全とは言えない状況のため、現時点では退避しない方針」(四輪二輪・部品)といった状況になっている。中には「中国での操業再開以降、生産スケジュールがタイトになっている」(その他製造)など目下の課題は生産をどう増やすかと答える駐在員もいた。

香港、台湾、韓国は、総じて「日本より安全」で「政府の対応も評価できる」とみなされているようだ。「避難する理由がない。日本より安全」(台湾/四輪二輪・部品)、「政府による防疫対策などで状況が安定している。現地の医療体制も信頼性が高く、万一感染しても適切な治療を受けられる」(香港/電機・電子・半導体)、「日本と韓国の防疫システムや感染状況の比較、帰国時の感染リスクを考慮し、とどまった方が安全と判断した」(韓国/小売・卸売)などの声が上がった。

東南アジアでは、特にシンガポールとタイで、感染者の拡大状況と日本退避に伴うリスクの比較に加え、現地政府の対策、医療水準や生活環境を評価して退避の必要はないと判断する傾向が強いことが分かった。「日本人の住環境が整っており、新型コロナに関しても日本より安全な状況であるため」(タイ/電機・電子・半導体)、「当地のほうが行政の管理が行き届いている」(シンガポール/建設・不動産)などは代表的な声といえる。ただ東南アジアで最も日本人駐在員の数が多いタイでは、駐在員の家族や希望者のみを優先して日本に退避させる傾向も強かった。

マレーシアは域内でフィリピン、インドネシアに次ぐ累計感染者数を記録しているものの、「退避しない」との回答が4割近くを占め、「病床数、医療、政治のレベルが高い」(その他の製造業)など医療への信頼感から退避を見送るといった声が目立った。感染者数が3桁にとどまっているベトナムは、もともと「罹患時の医療体制に不安はある」(鉄鋼・金属)ものの、「現段階では、ベトナムの行政指示での対応が日本より適切とみており、それに準じた業務を実施することが得策と判断」(鉄鋼・金属)と現地対応を評価する声が多かった。

「退避しない」ではほかに、「現時点で営業に支障なし。原本・サインが業務上必要」(ベトナム/小売・卸売)など業務上の理由でとどまったり、「ロックダウン明け再開の準備中」(フィリピン/機械・機械部品)といった不透明な状況下で事業再開に備えたりする動きが見られた。

また、入国規制や査証(ビザ)などの問題から、ほぼ全ての国・地域で再入国に支障が出るリスクを懸念する声があり、特にベトナムで多かった。「退避しない」とは別に、「退避できない」との回答も全体で4.9%あった。中には「取引先の駐在員が残っている以上、退避できない」(インドネシア/運搬・倉庫)という使命感と悲壮感が入り混じった声もあった。

「退避しない」とは言い切らないものの、現時点での退避について「特に考えていない」との回答も全体平均で23.4%と4分の1近くを占めた。国・地域別ではシンガポール、香港、タイ、台湾、マレーシアでこの割合が3割を超えた。「日本の方が危ない」「現地にいる方が安全」といった「退避しない」とほぼ同じ理由が挙がる一方で、「今後ロックダウンとなった際は退避を進める」(インドネシア/鉄鋼・金属)など、状況次第では退避を検討するとの回答もあった。

■駐在員の5~7割退避が最多

日本に退避または退避を準備している日本人社員の内訳を聞いたところ、「駐在員のみ一部」が有効回答数(389人)の過半数を占め、「現地採用日本人も含めた全ての日本人社員」は8.5%にとどまった。「駐在員のみ一部」または「希望者のみ」が退避の対象になるとの回答をした人に、その数が日本人社員の何割程度を占めるのかを尋ねたところ、「5割~7割未満」が28.6%と最も多く、以下「3割~5割未満」が24.2%、「3割未満」が22.9%、「7割~9割未満」が16.7%、「9割以上」が7.5%と続いた。

航空券をはじめ退避に関する費用は、「会社負担」が87.9%と大半だった。「状況に応じて会社負担と自己負担を使い分け」は11.4%で、「自己負担」は0.5%のみだった。

日本政府は現在、日本人を含む全ての入国者に対し、自宅やホテルなどでの14日間の待機と公共交通機関の使用自粛を要請している。また海外からの入国は成田、羽田、関西の3空港に集約されている。このため帰国後の空港から自宅やホテルなどへの移動手段の確保が課題となっており、アンケートではこの点についても尋ねてみた。

移動手段をどう確保するかは、「自分で用意」との回答が49.6%に上り、「会社で用意」の43.3%とほぼ同水準だった。具体的な移動手段については、回答した約300人のうち、200人以上がレンタカーやハイヤーの利用を挙げた。

14日間の自主隔離手段では、「状況によって自宅と宿泊施設を使い分ける」が40.5%となり、次いで「原則自宅で待機する」が35.8%、「ホテル・社員寮などの宿泊施設で待機する」が22.4%。自主隔離後の勤務については、「そのまま在宅勤務を指示されている」が72.0%、「出社を求められている」が16.1%と、現在の日本の状況を鑑み、そのまま在宅勤務に入るとの回答が多かった。

日本に退避した場合の駐在国・地域への帰任時期については、「現地政府の行動制限の解除」が55.1%と過半を占め、「日本政府の『渡航規制情報レベル3』の解除」が18.6%で続いた。

具体的には「ロックダウンや入国時のスクリーニング、感染リスクの低減」(インド/電機・電子・半導体)、「渡航レベル3からの引き下げとPSBBの解除が条件」(インドネシア/運搬・倉庫)、「外国人の入国停止措置が解除されれば復帰」(中国/建設・不動産)といった声があった。

■「BCPで規定せず」が7割弱

アンケートでは、自社の事業継続計画(BCP)についても尋ねた。それによると、69.1%が駐在国・地域の非常時における日本への退避について、自社のBCPで「規定していない」と回答し、「規定している」の24.5%を大きく上回った。今回の新型ウイルスの感染拡大を受け、日本退避の基準などBCPを改訂する予定があるかどうか聞いたところ、「予定していない」との回答が54.7%、「予定している」が27.0%、「その他」が18.3%だった。

<メモ>

■調査の概要

調査は13~14日にNNAのウェブサイトを通じて実施した。業種別の回答者の内訳は、製造業が43.5%、非製造業が44.1%で、駐在員事務所などその他が12.3%。国・地域別の回答件数は、中国239件、タイ204件、インドネシア201件、ベトナム173件、フィリピン109件、インド107件、台湾96件、マレーシア73件、香港70件、シンガポール56件、韓国42件、ミャンマー26件などだった。

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