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【台湾】防疫の迅速対応に評価の声[社会](2020/03/02)

新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の感染者数が世界的に増える中、厳格な防疫措置を打ち出す台湾に注目が集まっている。台湾の識者は、台湾政府の防疫措置の“速さ”を評価する。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時の経験が現在に生かされているとの見方で、社会の強い警戒感も後押ししているとみる。【山田愛実、卓吟錚】

台湾大学公共衛生学院のセン長権院長(セン=膽のつくり)と、台湾師範大学政治学研究所の范世平教授がNNAの取材に答えた。

台湾大学公共衛生学院のセン長権院長は台湾政府の迅速な対応を評価している(同氏提供)

台湾大学公共衛生学院のセン長権院長は台湾政府の迅速な対応を評価している(同氏提供)

台湾はこれまで米国と日本の防疫策を参考にしてきたが、今回は日本の対応が過度に遅いとみて、米国を参考にした。多くの国・地域が世界保健機関(WHO)の情報発表を待って行動に移しているのに対し、台湾はWHOをはじめとする国際組織の発表を待たず、比較的早い段階で措置を講じてきた――。セン院長は台湾政府の防疫措置の動きをこう説明する。

セン院長によると、SARSは当初中国から香港を経由して侵入したことで、台湾は不意を突かれた。今回の新型肺炎では、その時の経験を踏まえて迅速に対応した。「これでも少し遅いと思うが、他の国・地域よりは速い。現時点では政府の措置が成功していると言える」と評価する。

中国が昨年8月から個人旅行者の訪台を規制していることも、結果的に台湾での感染拡大を防いだとみられるという。

范教授は、中国人の入境禁止やマスクの供給・販売規制、国際クルーズ船の台湾への寄港禁止など、政府が厳格・明確に措置を打ち出している点を今回の特徴として挙げる。

台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が2月24日発表した民意調査によると、政府の防疫対策を担う衛生福利部(衛生省)中央流行疫情指揮中心への市民の評価(1~100で評価)は平均84.16。94%が60以上の合格点を選んだ。范教授はこの評価を踏まえ、「台湾の民意は政府の措置を支持していると言える。良くない面は、強いて言えばマスクの供給不足だが、他国・地域と比べればそう悪い状況ではない」とみる。

■SARSの経験生かす

「厳しい措置を講じることができているのは、社会の雰囲気によるところが大きい」と范教授は強調する。

SARSの経験があり、政府と市民は感染症に対して強い警戒感がある。新型肺炎の情報は春節(旧正月)前にメディアが伝えていたこともあり、市民は冷静に対応することができ、緊張はあってもパニックにならずに済んだ――。范教授はこう言い、一層の厳しい措置を望む声もあると説明する。

台湾師範大学政治学研究所の范世平教授は、政府が厳格・明確に措置を打ち出すことができるのは社会の雰囲気によるところが大きいと指摘する(同氏提供)

台湾師範大学政治学研究所の范世平教授は、政府が厳格・明確に措置を打ち出すことができるのは社会の雰囲気によるところが大きいと指摘する(同氏提供)

一方、セン院長は、政府の対応にも不備があると指摘。その中で「中国に拠点を持つ台湾企業の関係者などは現在も中国と台湾を往来できている」ことを問題点の一つとして挙げる。

台湾人はパスポートではなく身分証「台湾居民来往大陸通行証(台胞証)」を使用して中国に入境するので、台湾側が中国での滞在歴を把握するのは難しいとの指摘だ。台湾での「検査が遅く、試薬も少なすぎる」ことも問題点という。

■楽観・悲観的シナリオが混在

新型肺炎の感染は日本を含め世界的に広がりを見せており、現時点で収まる気配は見えない。いったいいつ終息に向かうのか。

セン院長は具体的な時期に言及しなかったものの、「楽観的シナリオは、夏になり終息するというもの。悲観的シナリオとしては、終息せず夏が過ぎ、冬に再び活発化する恐れもある」との見方だ。

一方、范教授は「政府の対応が優れている上、社会の警戒度も強い」として、台湾での感染状況の見通しに楽観的な考えを示した。

ただ今後さらに悪化した場合、隔離措置の違反者の写真を公開するなど、政府はより厳しい措置を講じるべきだと訴える。

セン院長も、政府は長期戦に備え、ワクチンの開発を進め、防疫関連物資の生産を強化する必要があると提案。ただ現在政府にその動きはなく、現れた状況に対して暫定的な対応をする形になっていると懸念を示す。

■「日本の措置は事実上失敗」

日本の防疫措置には、識者2人ともに辛口の評価だ。

セン院長は「日本の措置は事実上失敗している」との見方。日本は厳重な防疫措置を採っておらず、現在に至っても中国人の入国を完全には禁止していない。未知の感染症に対する対応としてはあまりにも緩く、判断を誤っているように見えると指摘する。

セン院長は「日本はバイオテクノロジーやウイルス研究などの分野で進んでいるが、今回の防疫の失敗は、内部システムに問題があることを示している」と分析する。

范教授は日本が抱える防疫上の問題として、官僚システムが異なる意見を受け入れ難い点や、SARSを経験していない点、米疾病管理予防センター(CDC)のような専門機関がない点を列挙。「民意が政府の措置に素早く反映される台湾とは異なり、日本は冷静だが反応が遅い。防疫では、素早い反応が重要になる」と話す。

日本政府は4月に向けて準備を進めている中国の習近平国家主席の国賓訪日を控え、日中関係の悪化を恐れている。7月24日に開会式を迎える東京五輪・パラリンピックでは、多くの中国人旅行者を呼び込みたいとも考えているはずだ。このような姿勢は、あまりにも目先の利益しか見えていない――。范教授は手厳しくこう指摘する。

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