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【韓国】「民間外交の継続を」、高杉氏に聞く[経済](2019/07/15)

日本政府による韓国向け輸出規制の強化は、日韓の経済人に大きな衝撃を与えた。政治や外交上の対立が初めて両国のサプライチェーンに影響を与える事態に発展しかねないためだ。韓国側の反発は強く、膠着(こうちゃく)状況は長期化しそうだ。韓国富士ゼロックスで会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、在韓19年の高杉暢也氏に現在の日韓関係について聞いた。

「今こそ民間外交が大切」と語る高杉氏

「今こそ民間外交が大切」と語る高杉氏

――今回の韓国への輸出規制について。

徴用工訴訟問題や韓国海軍による自衛隊機へのレーダー照射など、およそ友好国とは言い難い態度を取る文在寅(ムン・ジェイン)政権に対する「懲らしめ施策」としては理解できる。ただ、経済人として、世界経済や日韓経済協力・発展などグローバルな観点から見た場合、半導体材料の輸出規制が「戦略」として有効なのかは疑問だ。韓国に対する輸出規制がブーメランのように日本に跳ね返ってくる恐れがあるためだ。

■日本のプレゼンス低下も

輸出規制強化による懸念は4つある。何よりも、日本の国際的な信用度が下がってしまうのではないかという懸念だ。日本は先日、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の議長国として「自由貿易の重要性」を確認したばかり。今回の措置は、日本の世界でのプレゼンスを危うくしかねない。

2つ目は、世界のサプライチェーンへの影響だ。韓国は半導体メモリーの世界シェアトップ。韓国への輸出に対する事務手続きに時間がかかれば、リードタイム(受注から納品までの期間)も長くなる。さらに、半導体材料の供給に支障を来すようになった場合、事態は日韓2国間だけの問題にとどまらなくなる。

3つ目は、日本企業に対する視点が欠けているのではないかという疑問だ。半導体材料を取り扱う日本企業にとって韓国は大口顧客。輸出を制限されてしまうということは、当然、日本企業にも損失が生じる恐れがある。

最後は、たとえ輸出規制による実害がなかったとしても、韓国企業が国産化や材料の調達先の多様化に力を入れてしまう点だ。リスクマネジメントの観点からも十分あり得る。それは、日本企業の競争力を下げてしまうことを意味する。

――韓国側の反発は強い。報復の連鎖に発展しかねない。

韓国のここ30年間の急激な変化に気づいていない日本人が多い。例えば、1人当たりの国民総所得(GNI)では韓国は昨年3万米ドル(約324万7,000円)を突破し、日本との格差が大きく縮まった。対日コンプレックスも、明らかに日本の「格下」だった頃と比べて大きく変化している。

ところが、依然として「韓国は相変わらず貧しい国」という先入観から抜けない日本人が多い。今回の措置も「どうだ、大変だろう」という「上から目線」から出たものであるとすれば、反発は当然予想されたものだ。

■「たかが祭り、されど祭り」

――両国の政治・外交が難しくなればなるほど、市民による草の根交流活動などの民間外交の役割は重要になる。

2005年から日韓の伝統文化などを通じて市民の交流を深める「日韓交流おまつり」を推進している。今年で15回目を迎えるが、「祭り」という気軽さからか、思わぬところで、日韓関係改善で一役買っている。

14年に、「日韓おまつり」の会場にひょっこりと姿を現した当時の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が別所浩郎駐韓前大使と会話を交わすという予想外のハプニングがあった。すると、尹前外相は翌15年9月末、「日韓おまつり」で公式あいさつしてくれた。そして同年11月に、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領が安倍晋三首相との首脳会談に初めて応じ、その年の暮の慰安婦問題日韓合意に至った。「日韓交流おまつり」が日韓の関係修復の流れを作ったと思っている。 まさに「たかが祭り、されど祭り」であるといえる。

――日系駐在員に一言。

今日の世界情勢、特に足元のアジアに目を向けると民主主義、市場経済主義といった価値観を共有する日韓が手を携え、協力していかないと台頭する覇権国家・中国に飲み込まれてしまうリスクがある。今の文政権の親北的、道徳的正義政策は受け入れがたいものがあるのは事実だが、韓国で経営に携わる駐在員の皆さんには現地の経済人や市民と理解し合い、協力し合って良き「パートナー」となれるよう活動して頂きたい。(聞き手=坂部哲生)

<プロフィル>

高杉暢也(たかすぎ・のぶや)

韓国富士ゼロックス元会長兼CEO。現在は、日本の(財)アジア・ユーラシア総合研究所の評議員。1966年早大(一商)卒業後、富士ゼロックスに入社。カナダ、米国での研修・駐在後、本社で経理、企画、営業、コーポレイトオフィサーを経験。98年のアジア通貨危機時に会社再建のため韓国に赴任し、最優秀外国企業として大統領産業褒章など各種の賞を受賞した。

社業の傍ら、ソウルジャパンクラブ(SJC)理事長や大統領経済諮問委員、ソウル市外国人投資諮問委員、金&張法律事務所常任顧問などを歴任。2005年から「日韓交流おまつり」を推進している。09年にソウル市名誉市民称号授与。15年に岸田外務大臣賞を受賞。19年の駐在を経て17年6月に帰国。著書に、19年間の駐韓生活を回顧した『「隣の国はパートナー」になれるか』がある。

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