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【日本】【外国企業の日本戦略】「中欧班列」と車部品で商機[運輸](2018/09/14)

「中国国内の自動車関連製品の輸送で培ったサービス、規模、開発・提案能力、価格競争力の実績を、日本企業も活用してほしい」。中国の民間完成車輸送大手、北京長久物流(長久物流)を傘下に抱える長久集団(長久グループ)の日本代表、夏紀氏はこう話す。中国―欧州のコンテナ鉄道輸送「中欧班列」を、日本まで海上輸送で延長するサービスを7月から開始。自動車産業の集積が進みつつある東欧への部品輸送などに、日本企業が利用することを狙う。【遠藤堂太】

スウェーデンブランドのボルボ車が中国から欧州へ「中欧班列」で輸出される=黒竜江省・大慶(長久物流提供)

スウェーデンブランドのボルボ車が中国から欧州へ「中欧班列」で輸出される=黒竜江省・大慶(長久物流提供)

長久物流は、中欧班列を運行するプラットフォーマーと呼ばれる鉄道会社の一つ、哈欧班列(本社=黒竜江省ハルビン)を子会社としている。だが、海上輸送費との差額分を負担する政府補助金が、西安(陝西省)発で手厚いことに注目。ハルビン発着のほか、内陸部である西安の輸送業者と提携して西安発着の中欧班列をボルボなど外資メーカーに売り込んでいる。

中国各地から西安を経由して、欧州までは1FEU(40フィートコンテナ換算)当たり3,000米ドル(約33万円)台から提供できると夏氏は話す。中欧班列は一般に約4,000~7,000米ドルとも言われるので格安だ。業者による価格交渉力の違いが如実に出る。

■日中欧の鉄道複合輸送は4200ドル

中国の経済圏構想「一帯一路」の目玉事業である中欧班列は、中国―欧州主要都市間の約1万キロを2週間前後で結ぶ。昨年は計3,673本を運行したが、中国発の需要が多い。長久物流は西安発の中欧班列を利用する、日本から欧州への複合輸送サービスも7月に開始した。空路よりも安く、海上輸送よりも速いという第3の輸送モードだ。

長久物流は日本から青島(山東省)まで中国海運大手、中遠海運(COSCO)のコンテナ船を利用、青島港からは鉄道で西安を経由しドイツのデュイスブルクまたはハンブルクへ1FEUで4,200米ドルの料金を提示する。この価格は、日本の港から欧州の港までの海上輸送費に相当し、通関費用や日本での港湾ハンドリング手数料は含まれない(中国国内は含まれる)。所要日数は28日間だ。日本通運も同様のサービスを今年5月に開始しているが、大連港(遼寧省)から満州里(内モンゴル自治区)・シベリア鉄道を経由するルートだ。

ただ、海上輸送では日本―欧州主要港は30~35日間、2,000米ドル前後だとされる。海上輸送や航空輸送が緊急事態で使えないなどBCP(事業継続計画)としての利用以外は現段階でメリットは大きくなく、同社の実績は現段階ではゼロ。

夏氏が期待しているのは、自動車産業が集積しつつあるハンガリー、ポーランドといった欧州主要港から離れた東欧への部品などの輸送だ。「所要日数とコストで海上輸送に勝てる自信がある」と夏氏。

■欧州・韓国企業も利用

既に欧州系や韓国系企業は鉄道利用を加速している。

独フォルクスワーゲン(VW)グループは今年6月、傘下のアウディ、シュコダを含めドイツから中国・長春へのエンジン部品などの輸送を海運から中欧班列に切り替えた。6月の輸送実績は85FEUだ。長久物流はVWの変速機(トランスミッション)を中国から欧州へと輸送した実績を持つ。中国―欧州ではサプライチェーンが構築されつつある。スウェーデンのボルボも、中国から欧州へは昨年6月、欧州から中国へは今年7月、中欧班列による完成車輸送を始めた。

このほか、長久グループ出資の企業が、韓国のサムスン電子による複合輸送の一部を担当。韓国やベトナムから中国まで海上輸送、港から欧州へは中欧班列を利用する。

■ポーランド国境の貨物滞留は解消

鉄道の軌道幅の違いによるコンテナ積み替えが行われるベラルーシ・ポーランド国境で、貨物の滞留が発生、中欧班列の運行で遅延が発生した。コンテナ急増に対応できないインフラ不足が原因だ。しかし、夏氏は、ドイツなどに運ばれた貨車用台車が積み替え地に回送されない問題を指摘した。回送されないのは、欧州発の便数が少ないからだ。長久物流はリトアニア経由の迂回(うかい)ルートも同国当局やボルボとも検討したが、現在は施設拡充などによって、遅延は解消。迂回ルートは使われなかったという。

長久グループの日本代表の夏紀氏。日本で収益が見込まれれば現地法人を設立する=東京・渋谷(NNA撮影)

長久グループの日本代表の夏紀氏。日本で収益が見込まれれば現地法人を設立する=東京・渋谷(NNA撮影)

中欧班列は、取扱量を競っている各地方政府の補助金拠出がある。夏氏は「需要を喚起するためにも最初は補助金に頼らざるを得ない。しかし、需要が拡大し定期運行の頻度が上がれば輸送コストは下がり、補助金が減免されても利用客が離れない運賃設定は可能だ」と話す。既に大連では補助金がほとんど付かなくなったという。

■日本の完成車工場、通い箱を利用

長久のグループとしての強みは輸送用のラック、トレー、通い箱などのほか、冷蔵車や自動車を運搬するキャリアカーなどが生産できること。中国に3工場あり、ボルボ車(40フィートコンテナにセダン「S90」3台積載可能)輸送のラックも自社生産だ。

ブレーキ部品の通い箱(空箱)を中国に向け積み込む様子。樹脂製インナー緩衝材も返却するため畳まない箱(左)もある=山口県内の倉庫(長久物流提供)

ブレーキ部品の通い箱(空箱)を中国に向け積み込む様子。樹脂製インナー緩衝材も返却するため畳まない箱(左)もある=山口県内の倉庫(長久物流提供)

夏氏によると、独自動車部品大手コンチネンタルが江蘇省常熟市で生産するブレーキ部品などが三菱自動車やスバル、マツダの日本の工場へ輸出されている。日系フォワーダー(貨物利用運送事業者)が段ボール箱を使って輸送しているが、長久が提案した繰り返し使える通い箱に切り替え中だ。長久が空き箱の中国への返却責任を負う。コンチネンタル常熟工場近くに倉庫を整備、返却された箱とインナー緩衝材の確認、清掃などを経て、コンチネンタルの工場に搬入する。現場確認、打ち合せなど日本側・中国側と連絡を取りながら、通い箱利用を進めている。

中国では昨年、段ボール価格が1年余りの間に2倍にまで急騰したことや大量の段ボールが日本で焼却されていることから日本の完成車メーカーが切り替えに応じた。日本から中国の海上輸送コストが安いことも追い風になった。

長久の提案が日本の完成車メーカーに採用されたことについて夏氏は、「提案、設計、試作品の提供、量産までのスピーディーな対応が可能なトータルサービスが認められた」と話す。

こうした通い箱の利用だけでも収益性は高いという。日中間輸送で長久物流がフォワーディング(海上・航空輸出入業務)に参入する計画はない。しかし夏氏は、「日本のフォワーダーとの協力関係を強化し、将来は日本または中国で合弁会社を設立したい」と意欲を見せる。

<メモ>

■長久集団(長久グループ)

1992年設立。従業員数1万5,000人。昨年の売上高は400億人民元(約6,500億円)。グループ企業141社。グループは物流、金融、車販売と特装車の4事業で構成される。物流はメイン事業。長久物流の昨年の自動車輸送実績は約300万台と、中国全土の販売台数の1割強に相当する。キャリアカー3,000台を保有。同社資料によると純民間の自動車輸送企業としては中国最大手で、奇瑞汽車、第一汽車などの大手も利用している。欧州でも既にベルギー・ゼーブルージュなどに大規模物流拠点を整備。

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