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【日本】【重慶バンコク】東南アと欧州つなぐハブ[運輸](2018/08/31)

中国内陸部の重慶からラオスを経てタイ首都バンコクまでの2,800キロメートルを鉄道と路線バスで南下した。中国が開発を進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一環で、雲南省昆明からラオス首都ビエンチャンまで約1,000キロの鉄道が2021年末に完成する。昆明から800キロ先の重慶には、パソコン、二輪車、自動車生産で市(行政単位)としては世界トップ級の産業集積がある。この重慶とラオス、さらにタイが鉄道で結ばれるとどんな変化が予想されるのか。鉄道工事の進ちょく状況などとともに5回にわたり報告する。1回目は中国と欧州を結ぶ鉄道コンテナ輸送「中欧班列」で注目が集まる重慶の物流事情を取り上げる。【文・写真=遠藤堂太】

嘉陵ホンダの工場では、鉄道(中欧班列)で欧州へ輸出される汎用エンジンの積み込み作業が行われていた=重慶

嘉陵ホンダの工場では、鉄道(中欧班列)で欧州へ輸出される汎用エンジンの積み込み作業が行われていた=重慶

汎用(はんよう)エンジンを生産する嘉陵―本田発動機(嘉陵ホンダ)重慶工場では、男女の作業員が手際よくフォークリフトで貨物を40フィートコンテナに積み込んでいた。36箱(1,080台)をベルギーのヘントにあるホンダの欧州物流拠点へ出荷する作業だ。嘉陵ホンダや日本通運の担当者が出荷前の最終確認を行い、コンテナが金属鍵(シール)で封印された。翌日夜発の国際貨物列車「中欧班列」に載せる。新疆ウイグル自治区国境の阿拉山口からカザフスタンなどを経由する西ルートで独デュイスブルクまで約1万1,000キロを17日間かけて走る。到着後はベルギーまでトラックで陸送。ドアTOドアでは計22日間だ。途中の通過国でコンテナを開けられることはない。

「欧州向け輸出のうち、緊急案件は鉄道利用がメインとなりつつある」。嘉陵ホンダの営業・物流部長の福島豊文氏はこう話し、中欧班列に期待を込める。

汎用エンジンは、ホンダあるいはOEM(相手先ブランド生産)で草刈り機や耕運機などに使用される。「欧州の春から夏、天気が良い日が続くと注文が増える。鉄道輸送によってタイムリーなデリバリーが可能となり、物流在庫も減らせる」と福島氏はメリットを強調する。

運賃と所要日数はどうなのか。

上海からは長江経由で2,400キロ(所要約2週間)。三峡ダムをう回する閘門式運河の改修工事で遅延も発生している=重慶・果園港

上海からは長江経由で2,400キロ(所要約2週間)。三峡ダムをう回する閘門式運河の改修工事で遅延も発生している=重慶・果園港

重慶港から長江を下り上海積み替えでベルギー・アントワープ港への船舶利用はドアTOドアで55~60日間かかる。「鉄道の所要日数は約3分の1だが、コストは2倍以上なのがネックだ」と福島氏は指摘する。それでも今年は既にピーク月には40フィートコンテナで10~15本、中欧班列を使い輸出した。汎用エンジンを年間約150万台生産する嘉陵ホンダだが、そのうち欧州は47万台を輸出する重要な市場だ。

嘉陵ホンダは中欧班列の利用で、グローバルリソースを持つ日通をパートナーとして選んだ。コンテナターミナルまでのトラック輸送や通関手続き、欧州でのハンドリングなどを一括して管轄できるからだ。

日通と嘉陵ホンダは現在、重慶から東南アジアへの輸送に鉄道と海上輸送を使う新ルート「南向通道」の試験運用も行っている。広西チワン族自治区のベトナム国境に近い北部湾・欽州港まで鉄道、そこからはシンガポールなどを海上輸送で結ぶ。重慶―上海は水運で2週間だが、鉄道なら重慶から2日で欽州港までアクセスできる。東南アジアや日本へは長江ルートよりも1週間以上短くなる。

「一帯一路のおかげで、ビジネスチャンスが広がっていることを実感している」と福島氏。日本企業の重慶進出が増え、欧州や東南アジアへの輸送コストがさらに下がることに期待する。

■内陸のハンディ、「沿海化」で克服

中欧班列の重慶発は1年前には毎日ほぼ1便しかなかったが、現在は3便運行の日もあるほど増便された。

日通によると重慶からは主にパソコンなどの電子製品を欧州へ運ぶ。帰り荷は自動車部品や電子商取引(EC)サイトで購入された消費財(紙おむつ、ワイン)、日用雑貨、高級車などだ。

台湾系フォックスコンも電子製品の輸出に「中欧班列」を利用している=重慶・同社工場付近

台湾系フォックスコンも電子製品の輸出に「中欧班列」を利用している=重慶・同社工場付近

ただ、重慶を含め、中欧班列の利用は欧米やパソコン製造の台湾系企業が先行している。

重慶に生産拠点を持つ米自動車フォード合弁の長安フォード。米国以外のフォードの完成車工場としては世界最大規模だ。そのフォードは基幹部品をドイツから重慶まで中欧班列を使い輸入している。一方で、今年6月には初めて完成車の輸出を開始した。フォードが生産撤退したフィリピン向けだ。

法政大学経営学部の李瑞雪教授は、「中欧班列がもたらす変化は、重慶や武漢、成都など内陸主要都市が沿海化し内陸のハンディキャップが解消されることだ。海洋世界と内陸世界が結ばれる新たな地域統合のモデルになるのではないか」と指摘する。中国と沿線国間の心理的な距離感が縮まる効果も大きいという。

李教授によると、昨年の中国・欧州貿易額約6,000億米ドル(約67兆円)、貿易量1,400万TEU(1TEU=20フィートコンテナ)のうち、中欧班列の輸送分担率は金額ベースで3%、数量ベースで2%にすぎないため、伸びしろが大きいという。

■完成車を欧州へ輸出

自動車に関しては、ユーラシア大陸の東西を結ぶ大きなスケールのサプライチェーンも構築されつつある。重慶から離れた話になるが、吉林省長春に生産拠点がある独フォルクスワーゲン(VW)グループは今年6月、ドイツからの基幹部品輸入を海運から中欧班列に切り替えた。地場完成車輸送大手の長久物流の担当者によると、6月は40フィートコンテナ85本分がドイツから中国へ輸送された。

一方で中国から完成車を欧州へ輸出する流れもある。スウェーデンのボルボは昨年6月、黒竜江省大慶で生産した完成車を鉄道で欧州へ輸出し始めた。そのペースは月平均1,000台以上だ。

欧州連合(EU)の自動車生産が、欧州の主要コンテナ港から離れている東欧にシフトしていることは今後、中欧班列利用の追い風になるかもしれない。チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー4カ国の自動車生産は合計約360万台にも達する。

中国は、EUや沿線のカザフスタンなどとは自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を結んでいない。しかし、中欧班列によって「経済統合」とまではいかないが連携は着実に進んでいる。環太平洋連携協定(TPP)やEPAといった制度的な枠組みを重視して統合を果たそう、とする日本とは異なるアプローチを中国は歩んでいる。

■ベトナムにもつなぐ

中欧班列は複数の「プラットフォーマー」と呼ばれる地場企業が運行する。重慶ベースの渝新欧物流は今年5月、重慶―ベトナム・ハノイの試験運行を開始した。日通にも「ハノイから重慶、さらには欧州へ鉄道で運びたい」という問い合わせが既に複数あるという。ハノイ郊外ザーラムやハロン湾までは、ベトナム戦争時に中国が支援物資を当時の北ベトナムに輸送していたため中国車両(線路幅1,435ミリの標準軌)が乗り入れできる。

外国から重慶への輸送手段は鉄道や航空だけではない。中東産原油をマラッカ海峡を経由せず、ミャンマー・チャオピューで下ろし、パイプラインで雲南省を経由して輸送するルートも昨年開通。パイプラインに並行して鉄道を建設する計画もある。一帯一路によって周辺国が中国の巨大な経済圏に吸い込まれていくかのようだ。

一帯一路については、中国の「覇権主義」とする論調もある。しかし、明確な枠組みや定義はない。アジアから中東、欧州にアクセスするインフラを提供していると考え、日本企業は柔軟に利用する戦略を検討しても良さそうだ。(隔日掲載)

<メモ>

■中欧班列

中国と欧州主要都市間を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」は2011年3月に運行開始。主に3ルートがある。記念すべき第1便は重慶発だった。1編成当たり40フィートコンテナを最大50本積載できる。昨年は中国・欧州発合計で3,673本を運行。

課題とされるのは、中国から欧州への貨物は多いが帰り荷が少ない「片荷」だ。積み替え地点で貨物が滞留する問題もある。中国と欧州主要国は同一の標準軌だが、途中のロシアなどは広軌のため積み替えが必要。

各地方政府は中欧班列の取扱量を競っており、渝新欧物流のようなプラットフォーマーやメーカーに補助金を支払って、海上輸送費との差額を補塡しているがケースバイケースのようだ。補助金は今後、減額される見込み。現段階では西安発の補助金が手厚いようだ。

■中欧班列の価格(重慶から独ハンブルク)

李教授が今年7月にヒアリングした40フィートコンテナの輸送モード別運賃(両国のヤード間のみ、通関手続きや工場までの輸送費含めず)は以下の通り。補助金による減額分も含まれる。

・長江水運(上海港)+海上=2,455米ドル

・鉄道(寧波港)+海上=3,000米ドル

・鉄道(中欧班列)=4,060米ドル

・航空=2万~3万米ドル

■重慶市

中国にある4直轄市(北京・上海・天津・重慶)で唯一の内陸都市。四川省から1997年に分離した。

■嘉陵ホンダ

かつては臨時首都が置かれ国防の重要拠点だった重慶。計画経済時代は鉄鋼業と軍需産業で知られていた。90年代前後、国営の兵器工場は相次ぎ車両工場に転換した。民需転換、いわゆる「軍転民」だ。こうした中、ホンダは80年代から、二輪車生産で重慶に本社のある嘉陵に技術協力していたが、両社合弁の嘉陵ホンダを93年1月に設立。2005年から汎用エンジンや発電機生産に特化した。福州に分工場がある。ホンダは中国で現在、別の2つの合弁会社(新大洲ホンダ、五羊ホンダ)で二輪車を製造している。

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