消費増税で押し寄せるキャッシュレス化。銀行の立ち位置はどうなる?

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「スイスイ行けるICカード」と名打たれた「Suica」が発売されたのは2008年の頃。ICカードの普及を機に、きっぷを購入する人の数が激減しました。

同様に、外出先で急に現金が必要になったのでコンビニのATMへ駆け込む人の数も、ここ最近は減少傾向にあり、現金を持ち歩かず、支払い時はカードやスマホアプリで……といった具合に、私たちのお金事情も大きく様変わりしつつあります。
ところで、みなさんが最後に銀行の窓口に行ったのは、いつのことでしょうか? 

お気づきの通り、銀行の窓口併設店舗数の移転・統合が加速し、店舗の数が大きく減少しています。その一環として、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は2019年前半にATMを相互開放しており、将来的にすべてのATMの開放を検討していると発表。この変化は、ネットバンキング等を活用する人が増えたことでATMの稼働率が落ちたことと、相互開放による固定費削減がその背景にあるようです。
そこで今回は、大きく変容する銀行をとりまく“いま”をご紹介しましょう。

統廃合による次世代型店舗。進む人員削減

今春、みずほフィナンシャルグループ(FG)が公表した巨額の下方修正が、紙上に大きく掲載されたことを覚えているでしょうか。その報道の内容は、〈2019年3月期に約6800億円の巨額損失を計上し、当初見込みより9割近くも低い800億円の純利益に落ちこむ〉というもの。
緊急会見に臨んだ坂井辰史みずほFG社長は、会見の席上で「広範な店舗ネットワークに膨大な固定費をかけ、預金の運用益で収益を上げていくことは困難になった」と発言。

ご承知の通り、少し前まで駅前の一等地や、街の要所に銀行の窓口支店があることは日常の風景でした。しかし、銀行側に立てば店舗を抱えれば抱えるほど「行員の人件費」「家屋賃貸費用もしくは地代」がかかることになります。
いまでも多くの銀行の店舗が駅前に立ち並んでいますが、マイナス金利や、コンビニATMを活用する人、現金を持ち歩かない人の急増によって、銀行業界の懐事情はかなり厳しいものになっていることは周知の通り。

そうした変化の中で三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の大手都市銀行は、いずれも大幅な店舗統廃合を発表。統廃合後の新店舗は少数行員で運営する「次世代型」へ移行し、帳票処理などの事務業務はさらなるIT化が推し進められることになるとされています。そして、これはつまり、大幅な行員削減を意味することにもなります。

平成の30年間に破綻した銀行の数は180超!

思い起こせば、銀行員は就活生にとって憧れの企業であり、「銀行はつぶれない」「行員は安定した仕事」「行員は高給取り」という通念が当たり前の時代が長く続きました。そうした時代に、就活生の志望企業の上位に並んでいたのは、誰もが知る大手銀行の行名でした。しかし、バブル崩壊間際に起きた連鎖的な銀行破綻によって、そうした通念は音を立てて崩れ去ることになります。

1997年11月には、北海道拓殖銀行が破綻し、四大証券の一角であった山一證券も自主廃業に追い込まれます。翌年の1998年11月には日本長期信用銀行が破綻し、翌12月、日本債券信用銀行が続いて破綻。外資系ファンド等に譲渡されることになった連鎖的破綻は「日本経済最大の危機」といわれ、その当時の紙上には「金融恐慌」の文字が躍っていました。
さらに、こうした大トピックスのみならず、平成の30年間に破綻した銀行の数は、信用金庫と信用組合も含めて180を超える数にまで膨れ上がることになります。

一方、公的資金によって生き残ることができた銀行も、地価急落による巨額の不良債権、デフレ、金融ビッグバン等など負の遺産処理に翻弄され、都市銀、地銀を問わず再編・合併・統合を強いられ、大手銀行の数は23行から5陣営に集約。

銀行業界に起きた出来事をこうして見ていくと、銀行は憧れの企業といった通念が、令和の時代の今ではもはや遺物でしかないようです。そして、そこにさらに拍車をかけたのが、消費税アップに伴うキャッシュレス化の大波です。

悲願を達成したみずほ銀行

ここからはみずほ銀行を取り上げて、大手都市銀行の“いま”をみつめていくことにします。

みずほ銀行の新システムへ移行に伴い、定期的にオンラインサービスを臨時休止していたことはみなさんご承知の通りです。ATMを使って入出金ができない週末がくるたび、みずほ銀行に口座を開設している人は大きな不便を強いられましたが、度重なる臨時休止を行ったうえで、新たな勘定系システムへの移行作業は「2019年7月切替完了」と正式発表。
この“切替完了”は、“17年越し、20年越しの悲願”ともいわれ、RPGのような壮大な体制構築といえるものだったのです。

というのも、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が銀行再編によって統合したみずほ銀行では、統合後もそれぞれの銀行が個別に使用していた富士通、IBM、日立のシステムを使用する状態がずっと続いていました。

みずほ銀行といえば店頭の広告に記された「Oneみずほ」の旗印が思い浮かびますが、「Oneみずほ」とは裏腹に、窓口の外側にいる客からは見えないバックヤードでは、前身の富士銀行出身の行員と、第一勧業銀行の出身の行員が使用していたシステムが異なっていたため、同じ銀行の行員でありながら、長らく異動や事務処理が縦に分断されていた期間が続いていたとされています。
こうした状況を見かねてシステム統合に踏み切ったものの、顧客の全資産情報の総量は膨大であり、かつデリケートな側面が強い点から、現場は予想以上に混乱した……との報道が、一部メディアで報じられていました。

そうした背景を知ると、大規模なシステム障害が発生し、ATMの機能がダウンしたことが一度の話ではなく、金融庁の「立ち入り検査」「業務改善命令」を受けたことにも、少し納得がいくかもしれません。

「行員の副業を認める新制度」まで発表

しかしながら、システムへの移行(統合)が今年7月にようやく完了したことでホッと一息つけるかと思いきや、折しも10%へと消費税の課税比率がアップ。
わかりにくい軽減税率、年配者には縁遠いキャッシュレスといったキーワードが横溢する中、変化の全体像がぼやけてしまった感は否めませんが、確実に世の中は大きく様変わりしています。
つまりは消費税率アップによって、皮肉にもみずほ銀行の新システムの真価が時代の変化に見合ったものであるかどうか……が、試されることになったのです。

当然ながら、みずほ銀行もそうした“大きな波”については熟知しており、新システムへの移行(統合)完了に伴うみずほFGの会見では、「利便性の高い次世代金融サービスの提供はもとより、LINEとの新銀行設立や、大手財閥との資本提携などの戦略」を表明。さらには働き方改革の一環として「行員の副業を認める制度」まで発表するにいたります。

40代以上の世代であれば、大手都市銀行の行員が副業をしている世の中など考えられなかったことでしょう。
しかしこの新制度は、「銀行の業績や今後の変化次第で、行員はいつ馘首(かくしゅ=くびを切ること。)されるかわからないから、そうした時に備えて今から副業で収入を得る手立てをみつけておきなさい」という、銀行が行員に突きつけた暗黙の示唆と受け取ることもできるのではないでしょうか。

キャッシュレス化を推進する、大水車的存在として

今後、キャッシュレスが当たり前になったとき、キャッシュレスに伴う支払い手段に銀行はどのように変わっていくのでしょうか。

まず、引き落とし決済が増大することで現金取扱業務の割合が激減することは間違いないでしょう。
それだけにATMにかかる固定費や、店舗運営にかかる人件費も大幅に縮小されることになります。こうした変化によって、銀行はますますシステムに膨大な投資をする“システム装置産業”になる可能性が高くなることになります。

ここで他国の状況を例にとってみましょう。米国では意外と日常的な決済行動は保守的な傾向にあり、全体の約30%が現金、次いでデビットカード(約25%)、クレジットカード(約21%)がおおかたを占め、デジタル決済は10%に満たないという報告もあります。

口座をもっている私たちにしてみれば、これからATMに駆け込んで現金を引き出すことは少なくなるでしょうし、キャッシュレス化の変化は、銀行にとって営業店やATMのあり方、そしてビジネスモデルを再考する契機になることは間違いないでしょう。
その点においては、銀行が本来有している安心・安全な方法でのデータ処理、データ保護、支払処理等について強みを発揮できることは間違いないといえますし、窓口を中心とした顧客接客によるサービスの提供から、プラットフォーマーのポジションに立ち位置を変容させ、キャッシュレス化を推進する大水車になることも可能ではないでしょうか。

現金派とキャッシュレス派に二分される中国

一方、すでにキャッシュレス比率が約90%におよぶ韓国や、急速なオンライン決済が急拡大する中国では、銀行のATMで現金を引き出す人の姿はあまりみかけなくなっているとともに、窓口業務を担当していた行員数は激減。中国の四大国有銀行(工商銀行、農業銀行、建設銀行、中国銀行)の18年6月時点の数字によると、四大国有銀行総計で約3万人以上の人員が削減された報告もあります。

ただし、中国のこの数字は沿岸部の都市部に限った話のようで、中央の農村部では依然として現金主義の人が多く、都市部でATMの数は減少しているものの、農村部では同じ傾向はみられない、とのこと。この現象は、日本にも相通じるものといえるでしょう。

── いずれにせよ、いま話題の「ロボット化」「IT化」が、主たる銀行業務にとりかわる日も近いでしょうし、行員数、ATMの数、店舗の数はいまより少なくなることは間違いないようです。
消費税アップという転換点のいま、外的変化のさなかで銀行が自らの「立ち位置」をいかに示していくか……。その動向に注視したいものです。

≪記事作成ライター:岩城枝美≫ 
東京在住。大手情報サービス企業を退社後フリーランスに。20年にわたりあらゆるジャンルの取材・執筆、コピーディレクションに携わる。

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