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デジタル全盛時代に大ヒット! 富士フィルム「チェキ」の魅力とブームの背景

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つい20年ほど前まで、写真といえばカメラにフィルムを入れて撮影した後、ラボで現像・プリントするまで「ちゃんと写っているだろうか」と不安だったものだが……。2000年代に入って、写真はフィルム不要のデジタル化が一気に進み、いまやスマホでもキレイな写真が簡単&手軽に撮れる時代となった。

そうした中、いま若者の間で大ヒットしている「アナログ式」のカメラがある。
富士フィルムが1998年に発売したインスタントスタントカメラ「チェキ」だ。一時は深刻な販売不振に陥ったものの、2018年度には販売台数が過去最高となる1003万台を記録。デジタル全盛のカメラ市場にあって、空前のブームを巻き起こしたチェキの魅力とは何なのか、その復活劇と人気の背景に迫る。

20年間の販売累計の4分の1を、たった1年間で売った!

富士フィルムの「チェキ」は、シャッターを押すと「パシャ、ウィーン……」という機械音とともに白いフィルムが出てきて、撮影した画像がジワジワと浮かび上がってくる。

そんなインスタントカメラのレトロ感が、デジタルネイティブ世代の心を捉えた。
2018年度(2018年4月~2019年3月)のチェキの販売台数は1002万台に達し、1998年の発売開始から20年目にして、ついに1000万台の大台を突破。20年間の販売累計は約4400万台となり、その4分の1近くを昨年度の1年間で売った計算になる。
販売先の9割は海外で、欧米・中国を中心にインドやアジアの新興国でも販売台数が急激に伸びているという。

SNS時代の新たなトレンド&コミュニケーションツールに

では、スマホ撮影が主流の時代、撮り直しもできないアナログのカメラが人気を呼んでいるのはなぜか。その背景について、富士フイルム・イメージング事業部の高井隆一郎マネージャーは「スマホやSNSで写真をやり取りするのが当たり前の世代にとって、シャッターを押してフィルムが出てくることが、逆に新しい体験となっている」と話す。
そうした新鮮味が受け、チェキで撮った写真をさらにスマホで撮影し、インスタグラムなどのSNSにアップするという新たな流行も生まれている。

また、チェキは撮影してすぐに写真が出てくるので、旅行やイベントなどでその瞬間の思いを写真に書き込み、画像&メッセージとして残すコミュニケーションツールにも使える。アナログ写真ならではの温かい質感と、少しずつ浮かび上がる深い色彩が、一瞬一瞬の思い出づくりに特別感を与えてくれる。

以前、筆者の友人の結婚式でも、ゲストの受け付けにチェキを活用していたが(チェキでゲストの顔写真を撮って、余白に新郎新婦へのメッセージを書いて贈る)、なかなか面白いアイデアだと思う。こうした使用シーンを想定し、最近はスマホで撮影した画像データを、チェキにWi-Fi経由で送れる機種も登場している。

チェキブームの第1の波・第2の波・第3の波

現在のチェキブームは「サードウェーブ(第3の波)」といわれている。
最初の波は発売直後の20年ほど前。当時はデジタルカメラが本格普及する前で、撮影してすぐに写真が見られるインスタントカメラ自体に価値があった。インスタントカメラの元祖といわれる、米・ポラロイド社の「ポラロイドカメラ」もそのひとつで、筆者も20年以上前に愛用していた記憶がある。
そんな時代のニーズを受け、チェキも販売台数を堅調に伸ばし、2002年度は100万台の売り上げを達成。しかし、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及とともに需要が落ち込み、2004年~2006年度の販売台数は年間10万台と10分の1にまで激減。
同じく、カメラのデジタル化が世界的に加速したことで、半世紀以上にわたってインスタントカメラ市場をけん引してきたポラロイド社も、経営不振で2008年に破たんしている。

それでも、富士フィルムはチェキの可能性を求めて生産を続けた。
その後、2007年に韓国の恋愛ドラマでチェキが使われたのがきっかけとなり、事態は一気に好転。チェキが恋人や仲間と思い出づくりをするアイテムとして話題を呼び、韓国の販売会社に問い合わせが殺到したのだ。これを受けて日本・韓国などのアジアを中心にセカンドブームが巻き起こり、2011年度には127万台にまで販売台数を伸ばした。

そして2018年5月、富士フィルムはチェキのプロモーションに、チェキファンとして知られるアメリカの女性歌手テイラー・スイフトさんを起用。彼女はインスタグラムで約1億1400万フォロワーを持つインフルエンサーで、チェキで撮影した写真も数多くアップしている。
「プライベートでもチェキを愛用するテイラーを起用したことで、宣伝ではない自然なプロモーションになった(高井マネージャー)」── そうしたテイラー効果も加わって、2018年度の販売台数は当初の目標(900万台)を超える1002万台に達し、過去最大のサードウェーブが押し寄せた。

多彩な機種展開と独自の技術力で市場を席巻

1000万台超の記録を打ち出したサードウェーブには、新たなターゲットに向けたデザインや機能性も寄与している。
チェキのコアターゲットは10~20代の女性が中心で、ピンク系のガーリーなデザインの機種が多かったが、ここ近年はスタイリッシュなイメージの大人チェキ「mini 90」シリーズや、フィルム出力前に画像を確認・編集できる高性能機種なども続々投入。男性や中高年層にも受け入れやすいデザインと多彩な機能で、ジワジワとファン層を拡大している。

チェキ本体の価格は8000円~3万円程度と比較的手ごろなうえ、ラインナップが増え続けているので新機種を買い足すファンも多い。また、チェキには専用のインスタントフィルムが必要となるため(10枚・1000円前後で販売)、継続的な副収益が見込めるのも強みだ。

とくに、フィルム自体が写真になるチェキ用のインスタントフィルムには、同社がフィルム事業で長年培ってきた独自の現像・プリント技術が詰まっており、その生産ノウハウは秘中の秘とされる。もちろん、他社には容易に真似ができないため、模造品も流通していない。
まさにチェキのフィルムは、富士フィルム本来の技術力の結晶といっても過言ではないだろう。

祖業を継ぐチェキに込められた想いと技術の粋

富士フィルムが発表した2019年3月期決算では、デジカメとレンズを除く写真関連事業部門の売上高は前年比1%増の3869億円。そのうち3分の1がチェキ関連とみられ、同部門の重要な収益源のひとつとなっている。
とはいえ、親会社の富士フイルムホールディングスは、ヘルスケア・医療関連をはじめとする事業の多角化を推進しており、チェキは売上高2兆円を超える巨大企業の主役にはなりえない。

ちなみに同社は、85年続いたモノクロフィルムの生産から昨年撤退している。フィルム事業ではカラーフィルムがかろうじて残っているものの、フィルムが必需とされなくなったデジタルの時代、今後の成長は期待できない。
そうした中、チェキはフィルム事業で生き残る唯一の売れ筋製品であり、祖業で培った技術力をアピールできる貴重な存在でもある。たとえ主役にはなれなくても、独自のアナログ技術を進化させ、新たな価値を生み出すために、チェキは富士フィルムの誇りを受け継ぐ重要なミッションを担っているのだ。

富士フィルムの会長兼CEOを務める古森重隆氏は、フィルム事業のビジョンについてこう語っている。
「写真は人生の瞬間を切り取ったモニュメント。人間にとって大事な写真文化を守り、フィルムやプリントという“形あるもの”として後世に残す価値はある」── そんな写真に対する想いと使命感、技術の粋がチェキには込められている。

※参考/富士フィルムHP、日本経済新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫  
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。

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