乗車前なのに運賃確定。既存概念を覆すタクシーが本格導入!
終電車を逃して、やむなく自宅までタクシーに乗り、思わぬ出費を強いられた……。
目的地に到着するまでいくらになるのかわからない心配から、外の風景を眺めるどころか、着実に増えていくメーターの数字をずっとみつめていた……。
誰しも一度はそんな経験があるだろうが、タクシー運賃のしくみが大きな転換期にある。それは、アプリを使った配車システムで、事前に料金を決めてから乗車するシステムのこと。すでにアプリを使った配車システムは国外で大流行となっていて、日本国内でも早くも年内に稼働する見込み、といわれている。
いったいどんなしくみで、私たちの生活にどのような影響をもたらすか、早速、調べてみた。
乗車前に運賃が確定するサービスが、全国で解禁!
50年以上も続いてきたタクシーの運賃システムが、いよいよ変わりそうだ。
国土交通省は、タクシー運賃のルールを改定し、乗車前に運賃を確定するサービスを全国で解禁する。
現在のタクシー運賃は基本は距離計算だが、渋滞などで時速10キロ以下になると、かかった時間が加算される。利用者は、初めて行くところでは到着するまでいくらかからのかわからないし、また知っている目的地でも交通事情によって想定を上まわる料金を支払うこともありえる。
これはタクシー運賃の常識として行われてきた慣習だが、昭和の高度経済成長期ならともかく、現代のような厳しい経済状況のなかで、こうした、いってみればドンブリ勘定のようなシステムが続いているほうがおかしいといっていいのかもしれない。結果としてこの20年ほどの間に、タクシーの利用客は40%も落ち込んでしまっている。とくに、20~30代の若年層で、タクシーを利用する人が減っている。
新しいサービスでは、あらかじめ各タクシー会社が距離と時間を併用した運賃の計算システムを導入し、配車アプリをつくっておく。利用者はスマートフォンを利用して、配車アプリ上で予約することになる。タクシーを使いたい人が、アプリに乗車予定地と目的地を入力すると、自動計算で運賃が画面に表示され、利用者はその運賃で予約し、決済して乗車するというしくみだ。
訪日客、若者層へのタクシーの浸透を目指す国交省
先で説明した通り、図のようなしくみで利用者は従来通りの距離や時間に応じたメーター運賃を選ぶこともできる。また、利用者の都合で経路を変更した場合は、途中からメーター運賃に切り替わる。さらに、天候やイベントなどによる大規模な交通規制が発生した場合は、サービスが利用できなくなる可能性もある。
国土交通省が今回の運賃事前確定システムを導入した背景には、今後東京五輪や大阪万博などで外国からの訪日客が格段に増えることが見込まれ、彼らがタクシーを利用するときに運賃への不信感などをもたれないようにしたいという意図がある。
また、もっと大きな目的は、前述したような深刻なタクシーの利用者離れを、もう一度とりもどしたいと願う業界団体と行政との一致した思惑によるものだ。
配車アプリを利用した新サービスが、若年層に訴求?
国土交通省は新システム導入にあたって、東京23区と武蔵野市、三鷹市などで事前に大がかりな実証実験をすでに行っている。協力してもらった料金事前確定の利用回数は7879回、予測値として事前に入力していた乗車地から目的地までの確定運賃と、実際のメーターでの運賃総額の乖離率はわずか0.6%で、事前確定運賃はおおむね適切に予測がなされていたことになる。
この実証実験に際したアンケート調査によれば、約70%の利用者が「また利用したい」と回答しており、もっとも多かった理由は「値段が決まっているので安心」となっている。
さらに、利用者の特徴を見ると、それまでほとんどタクシーを使ったことがなかったり、または月に1~2回程度だった人が、積極的に利用している傾向があり、同時に20~30代で利用している人が全体の約45%に上っていることが分かった。
これは、配車アプリを利用した新サービスが、若年層を中心とした新しい顧客へ訴求する可能性があることを示している。
タクシー業界“復活”への、起爆剤となるか!?
今回の国交省の決定を、多くのタクシー会社が歓迎している。先に示したように、従来のメーターでの料金とほとんど乖離がないばかりでなく、その一方で利用者の増加が見込めることになるうえ、料金が不透明なことで利用を控えていた人々が、安心感をもって使えることになるといったメリットからだ。
また、運転者が道を知らなかったことで遠回りになってしまったとか、寝ている間にメーターが上がって想定外の料金を取られた、などといったタクシーと客とのトラブルも軽減される可能性がある。
さらに、タクシー会社が期待しているのは、新システム導入により配車アプリの普及が進むことだ。今は、タクシーに乗る客を獲得する方法は、おもに「流し営業」と呼ばれる方法で、ドライバーが運転しながら目視で乗客を探すというスタイル。これだと、長年の経験やスキルが必要なため、稼げるドライバーとそうでないドライバーに大きな差が出てしまう。
タクシーの配車アプリが普及すれば、タクシーは「流し営業」の必要性が従来よりも減り、経験の浅いドライバーでも稼げるようになる可能性がある。また、街中を流す不必要な空車タクシーが減ることが想定される。
つまり、タクシー会社としては売り上げが上がって、なおかつ事業効率が上がると期待しているというわけだ。
── 本来、どんな商品やサービスでも、購入する前や利用する前に、料金が示されているのが当然だ。
タクシーが長年にわたって到着時の後払いで済まされてきたのは、当局(国交省)による許認可制度で業界が守られてきていたから、という側面がある。消費者意識が高まった現代では、そうした行政からの庇護を受けた経営では立ち行かなくなっている。
利用者は費用対効果を厳しく見極めており、また無駄な時間を費やしたくないという意識も強くなっている。タクシーに乗ればどのくらいの時間がかかり、またいくらお金を使うことになるのかきちんと把握することは、そのまま消費活動の効率化に影響を与える。今や時間もまたお金なのである。
消費者の意識が様変わりし、新たな時代に突入していることを、タクシー業界もまた看過できないだろう。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、昨春退職。現在はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛けている。