新年度・新元号のスタートとともに変わる、日本の社会経済と私たちの暮らし
今年2019年の春は、「新しい日本」への期待がふくらむ特別な季節となりました。
新年度が始まった4月1日には新元号が公表され、続く9日には20年ぶりとなる紙幣刷新の発表……。そして、4月30日で平成は31年の歴史に幕を閉じ、5月1日の改元で、時代は令和へと受け継がれました。
新年度・新元号のスタートとともに、私たちの暮らしにかかわる制度なども大きく変わり、世の中はすでに新しい時代に向けて動き始めています。
そこで今回は、4月に施行された「働き方改革関連法」のポイントをはじめ、今春の注目トピック「食品・サービス料の値上げ」「大手企業の統合・社名変更」「元号表記の見直し」など、身近な社会経済の新たな動きをまとめて見ていきたいと思います。
3つの主軸から成る「働き方改革関連法」とは?
2018年6月に成立した「働き方改革関連法案」が、ついに2019年4月1日をもって施行され、日本の雇用環境は大きな転機を迎えました。安倍政権が掲げる働き方改革の推進を目的として、労働関係法を改正・再整備した働き方改革関連法は、「残業時間の罰則付き上限規制」「同一労働・同一賃金の原則」「高度プロフェッショナル制度」の3つが柱となっています。
では、その詳しい内容を項目ごとに見ていきましょう。
【残業時間の罰則付き上限規制】
法定労働時間の基本原則は「1週40時間・1日8時間」とされていますが、これまでは労使間で合意さえすれば、事実上、青天井の残業が可能でした。そこで今回の改正法では、労働者の過労死防止やメンタルヘルスなどの観点から、以下のように上限規制のルールを設けて義務化しました。
◎残業の上限は、原則的に月45時間・年360時間とする
◎繁忙期など特別な事情がある場合も、月100時間・年720時間を上限とする
◎複数月平均で、残業が月80時間を上回ることは許されない
これらのルールが守れなかった場合、「6ヵ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」という刑事罰が新たに定められ、上限規制への実効性を担保しています。
【同一労働・同一賃金の原則】
同一労働・同一賃金とは、同じ仕事に就いている労働者は、正規雇用(無期雇用、フルタイム)・非正規雇用(有期雇用、パートタイム、派遣)を問わず、同一の賃金を支給するという考え方です。
正規・非正規の不合理な格差を解消するとともに、多様な働き方が選択できる社会を目指して、この考え方を原則とすることが法文化されました。こちらは2020年4月1日から適用され(中小企業は2021年4月1日から)、各企業はそれまでに対応の検討・準備が求められます。
【高度プロフェッショナル制度】
高度な知識を有する専門業種の労働者を対象に、賃金を時間ではなく成果で評価する制度で、働き方の柔軟性や生産性の向上を目的としています。雇用者は本人との合意の上で、その労働者への割増賃金(時間外・休日・深夜)の支払い義務が免除され、労働時間の規制から外すことも認められます。
対象となる業種・適用条件は以下の通りです。
◎対象業種/金融商品の開発業務、金融商品ディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタント業務(事業の企画運営に関する高度な支援業務)、研究開発業務
◎適用条件/年収1075万円以上の労働者
外国人材の活用に門戸を開く「特定技能」もスタート
同じく4月1日から、改正出入国管理法に基づく新たな在留資格「特定技能(特定技能ビザ)」もスタートしました。人材不足が深刻な業種を対象に、一定の技能と日本語能力のある外国人の長期就労(5年間または無期限)を認める制度で、政府は今後5年間で約34万人の受け入れを見込んでいます。
現時点で対象となっているのは、以下の14業種です。
(1)建設業 (2)造船・舶用工業 (3)自動車整備業 (4)航空業 (5)宿泊業
(6)介護 (7)ビルクリーニング (8)農業 (9)漁業 (10)飲食料品製造業
(11)外食業 (12)素形材産業 (13)産業機械製造業 (14)電気電子情報関連産業
受け入れの対象となる業種は、出入国管理法ではなく法務省令で定められます。 したがって、上記以外の業種でも今後「深刻な人手不足である」と認められれば、法改正を経ずに順次追加できるため、将来的には幅広い業種・業界に拡大していく可能性があります。
食料品を中心とした「春の値上げラッシュ」の背景には……
ここ最近、ひんぱんに耳にする値上げの話題。とくに今年4月は、主要メーカーの乳製品や調味料、冷凍食品をはじめ、飲食チェーンの定番メニューや各種サービスなど、食料品を中心に3~10%程度の値上げが相次ぎました(図表参照)。
今回の値上げの理由として、各メーカーは物流費や人件費の高騰を上げており、包装資材などのコスト負担も一因となっているようです。また、今年は10月に消費税増税が予定されていることから、増税後の消費の冷え込みと値上げによる買い控えが重ならないよう、春に値上げが集中したとみられています。
生活に欠かせない食品やサービスは、やはり値上げしてほしくないのが本音ですが、日本の社会経済の現状から考えると致し方ないのかもしれません。私たち消費者も「値上がりは許せない!」と叫ぶ前に、安心安全な食品・サービスを安定提供し続ける各メーカーの企業努力に、あらためて理解を示す必要があるのではないでしょうか。
この春に注目を集めた大手企業の経営統合・社名変更
新年度のタイミングに合わせて、大手企業の経営統合・社名変更も相次ぎました。
4月1日には、石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油がついに経営統合。両社は2015年に統合へ向けて基本合意したものの、出光創業家の反対で決着が長びいていました。統合後の社名は「出光興産」となり、社長には出光の木藤俊一氏が就任。単純合算の売上高は5兆8000億円に達し、売上高10兆円のJXTGホールディングスに次ぐ業界2位の規模となります。
また、金属大手の新日鉄住金は、4月1日に社名を「日本(にっぽん)製鉄」に変更。社名変更は旧新日本製鉄と旧住友金属工業が合併し、新日鉄住金が発足した2012年10月以来となります。同社は今年に入って国内4位の日新製鋼と、特殊鋼メーカーの山陽特殊製鋼を子会社化したことも踏まえ、あえて「住金」の名を外し、日本発祥の製鉄会社にふさわしい包括的な商号への変更に踏み切ったとしています。
同じく、4月1日には三井生命保険が「大樹(たいじゅ)生命保険」に社名変更し、90年以上にわたって掲げた「三井」の名称がついに外されました。2015年、三井生命保険は業界最大手の日本生命保険の傘下に入り、日生が三井生命の株式の8割以上を握る状況が続く中、これを機に財閥の冠を脱いだとみられています。
一部自治体の公文書や運転免許証で元号・西暦を併記
日本の官公庁や公的機関では、公文書に元号(和暦)を使うのが通例となっています。ただ、元号表記は外国人にわかりにくく、「元号 ⇔ 西暦」「旧元号 ⇔ 新元号」の読み間違い・計算違いも生じやすいため、西暦に統一すべきという声も多いようです。
たしかに、明治・大正・昭和・平成の各年が西暦何年になるのか、計算しないで変換するのはちょっと難しいですよね。ちなみに、筆者の免許証には「平成35年●月●日まで有効」と記載されており、令和に入った今となっては、それがいつなのか、何年後なのか……もう訳がわかりません(笑)。
こうしたことから、今回の改元を機に、自治体などで元号表記を見直す動きが広まっているようです。公文書の日付に元号を使用するかどうかは、各自治体・省庁の判断に委ねられており、すでに山口県や福山市などの5市は、公文書に元号と西暦を併記。「わかりやすさを重視する」という観点から、今後も全国の自治体や公的機関で西暦表記・併記が増えていくと予想されます。
さらに今回、運転免許証の有効期限の記載も見直されました。東京都を直管する警視庁では、すでに今年3月15日から西暦と元号を併記した免許証の交付を開始。今後は「●●●●年(令和●年)●月●日まで有効」と表記され、システムを改修した道府県の警察から順次変更されるとのことです。
── 以上、新年度・改元とともに変わった、身近な社会経済の動きをまとめて見てきました。食料品などの値上げは、やはり頭の痛い問題ですが、働き方改革や外国人労働者の受け入れ、元号表記の見直しについては、今後も大きく注目していきたいですよね。
そして、日本中が祝賀ムードに沸いた10連休も終わり、いよいよ新時代の日本社会が本格的に始動しました。果たして令和はどんな時代になるのでしょうか。その名の意味が示すように「人々が美しく心寄せ合う中で文化が生まれ育つ」……そんな世の中になってほしいと願うばかりです。
※参考資料・HP/厚生労働省、法務省、厚生労働省、日本経済新聞、朝日新聞、
≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
20年以上にわたり、企業・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌・各種サイトなどの記事を執筆。長年の取材・ライティング経験から、金融・教育・社会経済・医療介護・グルメ・カルチャー・ファッション関連まで、幅広くオールマイティに対応。 好きな言葉は「ありがとう」。