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【マレーシア】ロックダウン延長に危機感[経済](2021/06/29)

マレーシアで新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が延長された上、その期限が明言されなかったことに、産業界では危機感が高まっている。従業員の出社が10%までに制限されている自動車業界からは「(ロックダウンに伴う)生産停止は1カ月半が限界だ」との声も聞かれる。

ムヒディン首相は27日、コロナ禍からの復興の道のりを4段階で示した「国家回復計画」で、操業可能な業種を拡大する第2期への移行に必要な条件が整っていないとして、28日を期限としていたロックダウンを延長した。第2期への移行に当たっては、新規感染者数や集中治療室(ICU)の病床使用率、新型コロナワクチンの接種率の基準を満たす必要がある。

今月1日から全土で実施されているロックダウンは当初、今月14日までの予定だったが、2週間延長されていた。ムヒディン首相は今回、2度目の延長に当たって明確な期限を設定せず、ロックダウンの解除は第2期への移行が前提になるとして、「おそらくは7月半ばくらいになるだろう」とのみ話した。

イスマイル・サブリ・ヤアコブ上級相(治安担当)兼国防相は27日、国家回復計画における各段階での規制内容を改めて示した。現行の第1期では原則、従来の感染防止のための標準作業手順書(SOP)が適用されるが、飲食店やレストランが営業できる時間は午前8時~午後8時から午前6時~午後10時に拡大された。

第2期では、製造業では自動車、鉄鋼、セラミック、セメント、輸出用家具、ゴムの6業種で操業規制を緩和するほか、書籍・文房具店、電気製品店、理髪店(散髪サービスのみ)などの営業を認めるとした。ただ具体的な規制緩和の内容は明らかにされていない。

■先行き不透明感の高まり

ロックダウン中は出社人数を1割に制限され、生産停止を強いられている自動車メーカーからは今回の延長に悲鳴が上がっている。ある日系メーカーの幹部は28日、NNAに対し、「生産停止は1カ月半が限界だ」と打ち明けた。

自動車業界では完成車の組み立て生産に当たり、生産月の5カ月前には部品の発注を終えるため、操業再開の時期が読めないことで、海外から調達する部品が港湾や倉庫に積み上がるリスクもあるという。生産を停止した6月分の部品については倉庫に保管できたものの、「今後、生産元に対し、出荷停止の要請を検討していくことになる」(同幹部)。ただ生産元での保管料は発注した側の負担となるため、コスト増の懸念もある。

また具体的な新規感染者数の低下などが規制緩和の要件となったことについて、同幹部は「先行きの不透明感が急激に高まった」と顔をしかめる。ロックダウンが長期化すれば消費者心理にも影響するとみて、購買意欲の減退も危惧している。

ただ、先に新車の売上税減免措置の期限が6月末から年末まで延長されたのは明るい材料で、「操業再開が可能になった時点で最大限の生産を行う」(同幹部)考えだ。

■「最善策でない可能性」

マレーシア製造業者連盟(FMM)は27日、「3つの指標が全て基準に到達するまで、現行の措置を無期限に続けるという政府の方針に絶望した」との声明を出した。

同連盟は、ロックダウン中に操業が認められている企業でも、取引先が操業できないことで操業停止に追い込まれ、結果として、顧客が発注先をマレーシア以外の企業に切り替えるケースも出ていると指摘。「東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の主要な製造拠点であるマレーシアの競争力が大きく損なわれる恐れがある」と危機感を募らせる。

その上で、約1カ月にわたってロックダウンを続けても新規感染者が大きく減少していないとして、「(ロックダウンは)最善の解決策ではない可能性がある」と主張している。

■ジェトロも長期化を懸念

日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所の小野沢麻衣所長も28日、NNAに対し、期限が明示されずにロックダウン(都市封鎖)が延長されたことについて、「企業はこれまで以上に事業の見通しが立てづらくなった」と懸念を示した。ロックダウンが長期化すれば、サプライチェーン(調達・供給網)全体の混乱が深刻化するとみているという。

影響はマレーシア国内にとどまらない。東南アジア各国の生産現場でも「マレーシアからの部品調達がままならず、他国への代替発注に切り替えたという声もある」(小野沢氏)。別の国に奪われた受注を再び取り戻すことは難しく、マレーシアに拠点を置く企業、ひいてはマレーシア市場自体の信頼性が揺らぐことにもなりかねない。

こうしたことから、ジェトロではマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)と連携し、経済活動の正常化に向けた対応をマレーシア政府に適宜要望していく考えだ。

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