【ミャンマー】ヤンゴンの6郡区で戒厳令[政治](2021/03/16)
クーデターにより全権を掌握したミャンマー国軍は14日夜から15日午前にかけ、最大都市ヤンゴンの6郡区で戒厳令を発令した。対象郡区では、軍が既存法の枠を超えた取り締まりをできるようになる。また、15日午前からは全土で携帯電話によるインターネットサービスが日中も遮断された。非人道的に権利を奪う弾圧が、より強められながら続いている。
戒厳令が発令されたのは、ヤンゴンのラインタヤ、シュエピタ、北オッカラパ、北ダゴン、南ダゴン、ダゴンセイッカンの6郡区。国軍系テレビの報道によれば、対象郡区では国軍の地域司令官に行政、司法権限が委譲される。これまでは警察が治安部隊の前面に立ってきたが、軍が名実ともに取り締まりを担う。
ヤンゴンのラインタヤ、シュエピタ郡区では戒厳令が発令される前の14日昼、中国系を含む工場5カ所以上が襲撃により建物を破壊されたり、放火されたりした。同事件を受け、在ミャンマー中国大使館は同日中に「法に従い犯罪者を処分するよう求める」と、警備の強化を要請。翌15日には、中国の外務省も、趙立堅副報道局長が「襲撃は非常に悪質だ」と非難、ミャンマー当局の有効な措置と中国企業の保護を求めた。
襲撃犯が反発を強めた市民か、国軍側の関係者かは分からないままだが、捜査を担当するのは国軍側に有利な結果が導かれる恐れがある。15日付の国営メディアは、デモ隊が襲撃を行ったと報じた。
ヤンゴンで戒厳令下に置かれた6郡区には、縫製や食品、日用品などの工場が多い。特に集積が大きいのが、ラインタヤとシュエピタの両郡区だ。地元メディアの関係者には、国軍側が対象区域にある中国企業などの生産施設の警備を名目に弾圧しているとの見方もある。
■戒厳令下の住民に恐怖
ラインタヤ郡区では戒厳令にもかかわらず、15日も一部の市民が抗議デモを実施し、約50台の国軍車両が、同郡区とヤンゴン市街地を結ぶ橋を列をつくって渡り、制圧に向かった。会員制交流サイト(SNS)に投稿された現地で撮影の動画からは、陸橋の下に住民が築いたバリケードが燃やされる様子が確認された。
国民民主連盟(NLD)の議員らでつくる「ミャンマー連邦議会代表委員会(CRPH)」は14日、「個人や地域団体などが命や人権を守る、自衛のための行動は犯罪行為に当たらない」と主張する声明を出しており、衝突が激化する恐れもある。
同郡区に工場がある日系企業の現地会社は、工場の稼働を全面停止し、従業員を自宅待機とした。また、シュエピタ郡区の別の縫製工場は、普段は屋内に設置している消火器を、万が一の放火に備えて建物の外側に置くなどの対応を取った。
北ダゴン郡区では、朝から開いていた生鮮市場を含む全ての店舗が正午までに閉鎖。乗用車やバイクは行き交っているが、通常見られる人波は途絶えた。同郡区に夫、子ども3人と住む30代の女性会社員は「前日までは連日デモが続いていたが、もう誰も出ていない。軍がこれまで以上に取り締まりを行えるようになったことの恐怖感は大きい」と話した。
一般市民が交信の手段とする携帯電話のインターネットサービスも、15日午前中から停止された。これまでは午前1~9時までのみとしていたが、日中も使用できなくなる。世帯などで契約するWi―Fi(ワイファイ)のネットワークだけがつながっている。
国軍は14日、ヤンゴンを含む全土でデモ隊の弾圧を強化。地元メディアは、クーデター後、1日で最多となる39人が死亡したと伝えているが、ラインタヤだけで30人以上が亡くなったとの情報もあり、実際の死者はさらに多い可能性がある。
ミャンマーの市民団体である政治犯支援協会(AAPP)の声明では、2月1日のクーデター発生後に国軍や警察の武力行使により亡くなった人の数は、14日朝までに全国で126人に達した。
SNSには、銃弾を受けて血まみれになったまま、仲間に抱えられたり、三輪人力車(トライショー)で運ばれたりする犠牲者の姿があふれた。夜間にかけては、複数の場所でデモ隊のバリケードに火が放たれ、タイヤなどが燃える黒い煙の中を逃げ惑う多くの人が見られた。
15日も全国でデモが続き、地元メディア報道によると、午後4時時点までに、マンダレーで3人、中部マグウェー管区で2人が死亡した。