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【カンボジア】南部で進む中国系の観光開発[観光](2021/06/03)

カンボジア南部のシアヌークビル州で、中国系企業による観光開発が活発化している。不動産業界の関係者の間では、新型コロナウイルスの感染収束後に同州を訪れる中国人が増加し、高級ホテルの需要が供給を大きく上回るとの見方が強い。カンボジアを代表するリゾート地で、中国勢の存在感が大幅に高まりそうだ。【安成志津香】

シアヌークビル沿岸では、中国系企業による観光開発が相次いでいる=2020年11月(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー提供)

シアヌークビル沿岸では、中国系企業による観光開発が相次いでいる=2020年11月(シアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシー提供)

「向こう5年で高級ホテルの供給は大幅に足りなくなるだろう」。こう話すのは、現地の不動産仲介業者、ビヨンド・リアルティーのオーナー、バスタ・ビニジ氏だ。かつて中国人旅行者が押し寄せたシアヌークビルでは、新型コロナの感染拡大後に旅行者が激減。街中には空き物件が目立ち、以前のように中国人でごった返す光景は見られなくなった。だがビニジ氏は、「コロナの感染状況が収束し、中国・カンボジアの両国でワクチン接種が広まれば、中国人旅行者はカンボジアに戻ってくるだろう」と予測する。

ビニジ氏の予想を裏付けるように、現地では大型の観光開発計画が相次いでいる。地元メディアによると、中国系の不動産開発業者プリンス・リアルエステート・グループ(太子地産集団)は、シアヌークビルの沿岸部で大規模な観光複合施設「リアムシティー」を開発しようとしている。

シアヌークビル国際空港から車で約10分の埋立地に、ホテルやリゾート施設、コンドミニアム(分譲マンション)、一般住宅、商業施設、飲食店などを整備する計画。開発面積は834ヘクタール。2020年2月時点の計画では、23年に完工する予定だ。

中国系企業によるホテルの開発計画の発表も相次いでいる。投資認可当局のカンボジア開発評議会(CDC)によると、シン・ダ・シー・ジェ・インターナショナル・ホテルは、3億3,150万米ドル(約363億6,000万円)を投じて5つ星ホテル(1,500室)を建てる予定。シガンV・コンチネント・インターナショナル・インベストメントは2億2,600万米ドル、ハイガン・グランド・ホテルは1億5,300万米ドルを投じ、5つ星ホテルを建設する。客室数はそれぞれ1,111室、900室。着工時期などの詳細は明らかになっていない。

■香港やマカオに匹敵する地に?

「シアヌークビルは将来、香港やマカオと比べても遜色ない場所となる」。19年にグループ会社を通じて5つ星ホテルを開業した、中国系のカジノ運営会社センチュリー・エンターテインメント(世紀娯楽)のオーナー、マン・ソン氏は、ホテルの開業式典でそう意気込んだ。同社にとどまらず、開発業者からはシアヌークビルへの投資に掛ける期待が垣間見える。

そもそも、なぜシアヌークビルが中国企業に人気の投資先なのか。

シアヌークビルは、首都プノンペンから南西に200キロほどの場所にある、タイ湾に面した港湾都市だ。08年に開設された中国系のシアヌークビル経済特区(SEZ)は、カンボジアのSEZの中でも最大規模。中国系企業を中心に140社以上が入居している。中国政府からは、巨大経済圏構想「一帯一路」のモデル事業に認定されている。

カンボジアと密月関係にある中国からの投資は拡大傾向にあるが、16年に習近平国家主席が就任後初めてカンボジアを訪れると、両国の関係は一層深まり、投資も急増した。中でもシアヌークビルでは、SEZに製造業が進出しただけでなく、海に面したリゾート地でホテルやカジノなどの観光への投資が加速した。地元紙によると、20年6月までの4年間で70億米ドルを超えた同州の建設投資のほとんどは、中国企業によるものだった。

■コロナ後、旅行者は回復傾向

カンボジアでは当時、中国で禁止されているオンラインギャンブルに対する規制が緩かったことから、特に中国からカジノ関係者の出稼ぎが増加。内務省移民総局によると、19年はカジノで働く中国人を中心に、長期滞在する外国人が激増した。同局が発行した約45万人分の長期滞在ビザ(査証)のうち、中国人が7割を占めたほどだ。

その後、オンラインギャンブルを通じたマネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪リスクが拡大したことを受け、19年8月に政府がオンラインギャンブルの事業ライセンス発行中止を発表すると、中国人の長期滞在者数は激減。地元紙によると、19年末までに20万人以上が出国した。シアヌークビルの住民は「外出すれば必ず中国人がいて騒がしかったのに、町がすっかり静まりかえった」と振り返る。

さらに20年に入ってからは、新型コロナに伴う入国規制により、中国人旅行者は減少。同年1月の12万3,550人から、4月には3,031人にまで減った。その後は、両国を結ぶ航空便の再開に伴い、旅行者数は回復傾向にある。9~10月にはともに1万人台にまで戻った。

いまだ新型コロナの影響が残る中でも、業界関係者は、シアヌークビルの不動産市場の見通しを楽観視しているようだ。ビヨンド・リアルティーのビニジ氏はその理由について、「シアヌークビルの物件の高い資産売却益、今後見込まれる高度経済成長、不動産投資に関する規制の緩さが、引き続き中国からの投資を引きつけるだろう」と話す。

■日系企業に参入余地はあるのか

中国系の観光開発が相次ぐ中で、日本式のリゾート施設を建設しようとする構想もある。シアヌークビル州プレイノブ地区の地元有力者が、369ヘクタールの土地に森林リゾートを開発する計画を進めている。この事業を担当するシアヌークビル・ビジネス・コンサルタンシーの服部寛・代表取締役によると、日系ホテルの誘致や、ゴルフ場を含めた遊戯施設などの大型リゾート開発が検討されており、デベロッパーを模索している段階という。

服部氏は、「シアヌークビルは中国企業の進出が目立ち、日本企業の出番はもうないのではないかという見方が日本では広がっているが、日本式の『おもてなし』を提供するリゾート施設はまだカンボジアにはなく、きっと需要が見込まれる」と指摘する。

シアヌークビルでは、中国人が増えたことで犯罪が増加し、治安が悪化したとの声が住民の間から上がっている。一方でカンボジアには、全体的に親日感情を持つ人が多い。

現地の関係者は、「シアヌークビルで日本企業の影は薄い」としながら、「日本政府が長年支援してきた国内最大の港、シアヌークビル港が、カンボジアでの日本の存在感を死守する象徴となっている」との見方も示す。

中国企業の独壇場のように見えるシアヌークビルだが、日本企業にもまだ参入の余地はありそうだ。

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