【香港】ネット商談で食の輸出を支援[金融](2021/01/20)
信金中央金庫は18日、日本全国に広がる信用金庫取引先の食品メーカーと香港など3カ国・地域の現地バイヤーを結ぶオンライン商談会をまず香港で始めた。新型コロナウイルス禍で国内外の往来が制限される中、信金業界のネットワークを生かし、取引先企業の海外進出や販路拡大を後押しするのが狙いだ。海外の駐在員拠点で協力し、複数国・地域をまたいでこの種のオンライン商談会を行うのは信金中金として初めて。
「しんきんアジア食品オンライン商談会」は、信金中金が現地駐在員を置く香港、中国・上海、タイ・バンコクで、各現地バイヤーと信金取引先企業との食品関連の商談を随時仲介する取り組み。取引先企業は、1回の申し込みで3カ国・地域のバイヤーとの商談を申し込める。各バイヤーが日本国内に有する輸出商社・協力会社を通じて国内での商品受け渡しや決済が可能となるようにし、主要取引先企業となっている地方中小企業の海外進出のハードルを下げた。参加費用などの負担も極力軽減するよう努めたという。
信金中金香港駐在員事務所の山口正雄所長は、新型コロナ禍で出張を伴う海外の展示会への出展や現地バイヤーとの対面面談が困難となったことに加え、「香港を含む海外では、巣ごもり消費に加え、渡航できないゆえに生じた『日本ロス』により、日本食需要が一層高まっている」と開催の背景を説明した。
今回の商談会は「事前マッチング型」を掲げており、信金中金の駐在員が現地の嗜好(しこう)や許認可、規制などに関する情報を信金取引先の食品メーカー(サプライヤー)に事前に提供。それを踏まえて応募があった81社の計268商品について現地バイヤーに提案し、その後、バイヤーが書類選考で商談相手を絞り込んだ。これにより、高い成約率を目指したという。
最終的にバイヤー9社(香港5社、上海1社、バンコク3社)、日本の食品メーカー48社(うち香港バイヤーとの商談が設定されたのは31社)での商談の実施が決まった。予定する商談件数は計104件(重複含む)で、このうち香港は54件(同)と過半数を占めた。扱う商品数も全131品目のうち香港が84品目と最多となった。香港でまだ流通しておらず「(市民が)見たことがないもの」や巣ごもり需要の効果でスイーツやパンケーキミックスなどにも人気が集まったという。
山口所長は香港の食品市場について、◇輸入規制が他国・地域に比べ厳しくない◇関税がかからない◇高い所得層を持ち需要という裏付けがある――ことなどを挙げ、入り口が大きくかつ参入ハードルが低いとした上で、「食品の海外輸出をしたことがない人にとっても手掛けやすい、一番最初に取り組みやすいマーケットだと見ている」と述べた。香港での取引が中国本土への輸出につながる可能性があるとも指摘した。昨年6月末の香港国家安全維持法(国安法)施行後、香港の先行きを懸念する声があることに関しては、ネガティブなイメージはあるものの、香港のバイヤーからも引き合いが多く、日本からも予想を上回る応募があったとし、「食品の消費市場としてはますます期待が持てるのではないか」と語った。
■インバウンド消え新たな商機模索
18日は午前から香港島中心部にある信金中金香港駐在員事務所でオンライン商談会をスタート。初日は午前と午後合わせて9件の商談を行った。ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使い、約30分ずつ商談を進めた(通訳を介す時は45分ほど)。信金中金の駐在員と日本にいる信金の職員が同席し、フォローに当たった。信金中金は事前に商品サンプルを日本から各バイヤーに届け、試食してもらった上で商談に臨んでいる。
同日午後の部に参加した京都府のある菓子メーカーの女性担当者は応募理由について「新型コロナの感染拡大に伴うインバウンド(訪日外国人客)需要の減退が業績に与える影響が大きかった」と指摘。和をイメージしたキャンディーやアクセサリーの販売を手掛ける同社は、コロナ流行前まで東京と京都の観光地で外国人客向けを主体に展開していた。一方で海外での販売実績はなかったため、「外国人が来ないなら、海外に打って出る良い機会と考えた」と説明した。香港のバイヤーとの商談の機会もこれまでなかったといい、「前向きな商談ができた」と満足した様子だった。
信金中金は全国にある254信金の中央機関。香港駐在員事務所は海外5拠点のうちの一つで、1994年に開設した。現在は、香港のほか、中国広東省と台湾、フィリピンを管轄し、香港では地場銀行最大手、東亜銀行(BEA)と業務提携関係にある。普段は主に日本の信金取引先の海外進出と海外販路開拓を支援している。
信金中金は香港に続き、2月2日から上海で、3月以降にバンコクでオンライン商談会を開催する予定。今後も同商談会を継続していく方針という。