【マレーシア】全土に緊急事態宣言、政治闘争の一環か[政治](2021/01/13)

マレーシアのムヒディン首相は12日、テレビ演説を行い、全土を対象とする緊急事態宣言をアブドラ国王が発令したと発表した。新型コロナウイルス感染症の収束が見通せないことから、前日に国王に発令を進言し、承認された。期限は8月1日までで、状況が改善すれば早期終了する。ただ政府は、前日に新型コロナ対策として活動制限令を厳格化すると発表したばかりで、緊急事態宣言は政治闘争の一環との見方が強い。

ムヒディン首相は演説で、緊急事態宣言で連邦議会および州議会は停止し、政府や野党議員、医療専門家からなる独立委員会が国王に助言すると明らかにした。一方で、「今回の宣言は政治的クーデターではない」と強調。夜間外出禁止令などは出さず、行政は引き続き機能し、活動制限令の標準作業手順書(SOP)に従って経済活動は継続すると説明した。

ただ、今後必要に応じて一定の経済活動の制限を含む緊急対応を行ったり、法律に違反した個人への罰則を強化したりする可能性があることも示した。

マレーシア憲法では、国王が「治安、経済生活や社会秩序を脅かす深刻な緊急事態が存在する」と判断すれば、緊急事態宣言を出せる。同宣言下では、国王は議会を通さずに法律と同じ効力の「緊急事態勅令」を発令できる。形式上は国王の命令だが、実質的には内閣の判断により、議会の承認を得ることなく法律を施行できるようになる。

マレーシアで全土を対象とした緊急事態宣言が出されるのは、1969年の暴動時以来となる。ムヒディン氏は昨年10月にも、新型コロナの流行や選挙の回避を理由に、アブドラ国王に全土の緊急事態宣言を発令するよう進言したが、国王は現行の施策で十分としてこれを退けた経緯がある。その後も新型コロナの感染拡大が続き、国王は昨年11~12月にかけてサバ州東部バトゥサピ、ブガヤおよびペラ州ゲリクの3地区に緊急事態宣言を発令し、議員死去に伴う補欠選挙を延期した。

■引き金は下院支持の過半数割れか

マレーシア政府は、昨年3月から新型コロナ対策の活動制限令を発令し、外国人の入国や経済、社会活動を制限している。首都圏などではきょう13日から2週間、同令を厳格化し、企業活動や外出を制限する。

それに加えての緊急事態宣言発令は、政治闘争による政局の流動化を防ぐ狙いがあったとの見方が強い。国政与党連合内で最大議席数を占める統一マレー国民組織(UMNO)と、ムヒディン首相率いるマレーシア統一プリブミ党(PPBM)の間の溝が深まり、UMNOが年明け以降、ムヒディン政権への揺さぶりを強めているためだ。

日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の中村正志氏は12日、NNAに対し、UMNO最高評議会のメンバーであるアーマド・ジャズラン・ヤークブ下院議員が、今月9日にムヒディン氏への不支持を表明したことが、首相が緊急事態宣言を進言する引き金になったとの見方を示した。

元々、連邦議会下院(定数222)でのムヒディン首相への支持はかろうじて過半数を維持していたが、アーマド氏の不支持表明で過半数割れが明確となったためだ。

シンガポール国際問題研究所(SIIA)のオー・エイサン上級研究員は、「政治的動機以外に、現時点で緊急事態宣言が必要だとは思えない」とコメント。「新型コロナの流行抑制のためには、活動制限令以上のことはできない」と話した。

■一時停戦も、与党内にくすぶる火種

マラヤ大学(UM)社会文化学部のアワン・アズマン准教授は、「緊急事態宣言によって、UMNOは『チェックメイト』となった」と指摘した。UMNOは与党内で主導権を取り戻すため、今年3月までの解散総選挙実施を求めていた。しかし、緊急事態宣言による議会の停止と選挙の延期によって、表だった政治活動はできなくなり、ムヒディン首相は倒閣の危機を脱したとの見方だ。

しかし、緊急事態宣言は長期的に継続できるものではなく、あくまで「一時停戦」でしかない。

中村氏は「まだムヒディン氏の勝利とみるのは時期尚早」との考えだ。ムヒディン氏が完全に勝利を収めるには、「次期総選挙での選挙協力でUMNOから十分な数の選挙区を譲るよう認めさせる」「総選挙後もムヒディン氏が続投する、もしくはマレーシア統一プリブミ党から後継を出す」の2点が必要だと指摘。コロナ禍が収束すれば、再び両党の対立が表面化するとの見通しを示した。

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