【ミャンマー】与党優勢で８日総選挙、市内で最後のお願い［政治］（2020/11/07）

アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が率いる国民民主連盟（ＮＬＤ）政権に審判が下るミャンマー総選挙が、８日に投票日を迎える。ＮＬＤが2016年に政権交代を果たしてから初の総選挙となる。選挙戦で優勢に立つＮＬＤが、単独過半数を維持できるかどうかが焦点となる。最大都市ヤンゴンなどでは６日まで、同党や野党の候補者らが「最後のお願い」に奔走した。

支持を訴えるＮＬＤのムスリム候補者、シトゥ・マウン氏＝３日、ヤンゴン（ＮＮＡ）

総選挙は連邦上下院と地方州・管区議会が対象。うち連邦議会では、治安上の理由で投票を実施できない選挙区を除いた上院161議席、下院315議席が改選される。連邦議会には、民選枠とは別に25％の国軍枠が存在する。このため、ＮＬＤが上下院を合わせた連邦議会で過半数を握り、単独政権を維持するには、改選議席の67.6％に相当する322議席を獲得する必要がある。

ＮＬＤは15年の前回総選挙で、改選議席の８割を獲得して地滑り的大勝を収めた。しかし、公約に掲げた和平推進や経済発展は、期待通りに進まなかった。今回の総選挙でも、第１党は確実視されているものの、獲得議席の減少が予想されている。

■最終盤に活発化

今回の選挙戦は、新型コロナの感染防止のための制限下で繰り広げられた。支持者を集めた集会は最大50人までに制限され、政見放送やＳＮＳなどが主戦場となった。特に感染者が急増したヤンゴンでは、主要政党は大規模な選挙活動を控えており、各党の動きが活発化したのは最終盤に差し掛かった２日ごろからだ。

10月までは選挙用の看板が立っているだけだった市街地では、ＮＬＤや民主化新党の支持者らが、各党のシンボルカラーである赤や黄色の党旗を掲げた街宣車などで支持を訴えた。

国軍系野党・連邦団結発展党（ＵＳＤＰ）も、選挙戦最終盤の数日はヤンゴンでの活動を積極化。一部の郡区事務所では支持者を集めた小集会を開催したほか、三輪人力車や自動車を交えて街頭で行進した。

色とりどりの政党の選挙看板が掲示されたヤンゴン市街地＝５日（ＮＮＡ）

■候補者ら、最後のお願い

「国政で力を尽くし、少数派への差別をなくす。一票を投じて欲しい」――。連邦議会下院選で、ＮＬＤから立候補したシトゥ・マウン氏は３日、選挙区のパベダン郡区で声を張り上げた。ＮＬＤは前回選挙で仏教徒に配慮し、ムスリム候補を擁立しなかった。同氏はムスリムが多い同郡区で、ＮＬＤのシンボルカラーである赤色のＴシャツを着た支持者ら40人ほどと隊列を組み、集合住宅の窓から顔を出す有権者に支持を呼び掛けた。

多数派の仏教徒ビルマ族を中心としたＮＬＤによる政権運営に、少数民族の不満は高まっているとされる。ＮＬＤが活動家出身のムスリムの若手候補、シトゥ・マウン氏を擁立した背景には、党の多様性（ダイバーシティ）をアピールする狙いがあるとみられる。

シトゥ・マウン氏の隊列を見守ったムスリム男性のミョー・ミン・アウンさん（30）は「候補者がムスリムであるのは大歓迎だが、大事なのは政治家として約束を果たしてくれること」と冷静に話した。

選挙管理委員会（ＵＥＣ）は、有権者に自由意志での投票を促すため、投票日前日の７日から選挙活動を禁止している。６日をポスターや党旗などの片付け作業に充てる政党支部もある。

ミャンマー・タイムズ（電子版）によれば、スー・チー氏は５日、選挙戦の締めくくりに当たり、フェイスブックに動画を投稿。支持者らに謝意を述べるとともに、「投票所の感染予防策に従えば、新型コロナを心配する必要はない」としてあらためて投票を呼び掛けた。また、「選挙結果が完全なわれわれの望み通りにならなかったとしても、怒ったり、問題を起こしたりすべきではない」と発言。選挙後の平静を求めた。