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【タイ】入国制限緩和を巡り論争過熱[経済](2020/10/08)

観光大国であるタイで外国人の入国制限緩和を巡り論争が過熱している。タイ政府は当初、きょう8日に特別観光査証(ビザ、STV)を取得した長期滞在旅行者の受け入れ開始を予定していたが、受け入れ準備に時間が必要との理由で延期した。これに対して、新型コロナウイルス感染症経済対策センター実行委員会は早期の入国制限緩和を政府に求めているほか、経済界からはビジネス目的の外国人の受け入れ拡大と入国後の隔離期間の短縮を求める声が上がっている。

観光業が国内総生産(GDP)の約2割を占めるタイでは、入国制限緩和を巡り論争が過熱している。写真は閑散とするプーケット島のパトンビーチ=7月、タイ・プーケット県(NNA撮影)

観光業が国内総生産(GDP)の約2割を占めるタイでは、入国制限緩和を巡り論争が過熱している。写真は閑散とするプーケット島のパトンビーチ=7月、タイ・プーケット県(NNA撮影)

バンコクポストによると、新型コロナウイルス感染症経済対策センター実行委員会のパイリン委員長は5日、タイ経済は観光と輸出に支えられていることに言及し、「観光業の復興が最優先だ」と主張し、政府に早期の入国制限緩和を求めた。

パイリン氏は「社会・経済活動の制限緩和の第6弾まで実施されたが、入国制限を続ける限り経済成長は見込めない。新型コロナウイルス感染症対策センター(CCSA)は外国人の入国を制限することで国内での感染を抑制できていることは事実だが、経済成長を犠牲にしている」と指摘。観光のピークシーズンを迎える第4四半期(10~12月)中に入国制限を緩和するよう訴えた。

タイ政府は、9月15日の閣議でタイに最長270日間の滞在が可能となるSTVの発給を承認し、同月29日付の官報で告示。当初は、きょう8日に第1陣として中国・広州市から約120人を南部プーケット県で受け入れる予定だったが、延期を発表した。STVは新たに導入されたビザであるため、関係機関の準備に時間を要することが理由としている。

現時点で新たな受け入れ開始時期は発表されていないが、ピパット観光・スポーツ相は、10月中には開始し、同月中に計1,200人を受け入れる方針を示している。

これに対して、金融業界の関係者らは、少人数のSTV取得者の受け入れは国内経済に大きな影響を与えないとしながらも、受け入れ開始を歓迎する姿勢を示している。

タイの商業銀行キアットナキン・パトラ銀行のピパット社長補佐は、タイ字紙クルンテープ・トゥラキットに対して、「仮に外国人旅行者を1日150人程度受け入れたところで国内経済に大きな影響はないが、何もしないよりはましだ」とコメント。タイの商業銀行大手カシコン銀行傘下の民間総合研究所カシコン・リサーチ・センターのチャオ社長も同様の見解を示し、「第2波を防止するため感染リスクが低い国・地域から段階的に受け入れを進めていく必要がある」と述べた。

タイ観光・スポーツ省によると、政府の入国制限により、観光目的でタイを訪れた外国人旅行者は4月以降、ゼロとなっている。1~8月の外国人旅行者は前年同期比74.8%減の669万1,574人、観光収入は74.3%減の3,320億1,000万バーツ(約1兆1,300億円)。タイ国政府観光庁(TAT)は、通年の外国人旅行者は前年比83.1%減の674万人、観光収入は82.6%減の3,365億1,000万バーツにとどまると予測している。

■商用客1万人を受け入れ

経済界からは、ビジネス目的の外国人の受け入れ拡大や入国後に義務付けられている隔離期間の短縮を求める声が上がっている。

在タイ外国人商工会議所連合会(JFCCT)のスタンレー・カン会頭は、投資家や定期的にタイに出張する企業関係者、技術者を中心に入国を希望している外国人が大勢いるとし、ビジネス目的の外国人の受け入れ拡大を求めた。

タイの工業団地・賃貸倉庫大手WHAコーポレーションのチャリポン会長兼最高経営責任者(CEO)は、「中国や台湾、日本の電子・自動車産業の関係者を中心に、タイでの短期滞在を希望する人が多数いるが、入国後の隔離措置を理由に断念するケースが多い」と指摘。隔離期間を現行の14日間から短縮するよう政府に求めている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の担当者は7日、NNAに対して、「盤谷日本人商工会議所(JCC)が実施したアンケート調査の結果も踏まえ、入国後の代替隔離施設(ASQ)の増加や日本―タイ間の特別便の増便など、その時々の日系企業の要望をタイ政府や民間の要人に伝えている」と説明した。

アヌチャー政府報道官によると、7月1日にビジネス目的の外国人の入国規制を一部緩和して以来、労働許可証の保有者を含め約1万1,000人の入国を許可したという。

■観光客受け入れ、賛否分かれる

一方、タイ観光協議会(TCT)が、8月15~30日に国内の主要観光地であるプーケット県、南部サムイ島、同クラビ県、北部チェンマイ県、東部パタヤ市に住むタイ人1,362人を対象に実施した外国人観光客の受け入れ再開に関する調査では、賛否が分かれた。

回答者のうち「反対」と答えた人は46%。このうち「世界各国・地域からの観光客受け入れ再開」に反対する人は83%、「長期滞在旅行者の受け入れ」に反対する人は58%に上った。

長期滞在旅行者の受け入れについては、地域によって回答に違いが見られ、プーケット県では「反対」が39%だったのに対し、「賛成」が51%だった。サムイ島では「反対」と「どちらでもない」がそれぞれ31%、「賛成」が38%だった。

外国人観光客の入国後の隔離措置については、「14日間の隔離を望む」との回答が57%に上った。「滞在可能なエリアを限定する代わりに隔離措置を撤廃することに賛成する」と答えた人はわずか10%で、「隔離措置を撤廃する場合は、団体ツアー客のみの受け入れを希望する」と答えた人は33%だった。

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