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【台湾】台湾の防疫、昨年末から着手[社会](2020/08/20)

台湾では4月中旬以降、新型コロナウイルス感染症の域内感染例が出ていない。収束は政府の迅速な対応によるところが大きく、対策本部の台湾衛生福利部(衛生省)の中央流行疫情指揮中心は、域内外から高い評価を得ている。内政部(内政省)の政務次長(次官)で、指揮中心の副指揮官を務める陳宗彦氏は、政府の新型コロナウイルスへの対応が昨年12月31日に始まったと振り返る。【山田愛実、卓吟錚】

台湾の新型コロナウイルス対策本部ナンバー2を務める台湾内政部の陳宗彦政務次長は、各国・地域との往来再開に慎重な姿勢を示す=台北(NNA撮影)

台湾の新型コロナウイルス対策本部ナンバー2を務める台湾内政部の陳宗彦政務次長は、各国・地域との往来再開に慎重な姿勢を示す=台北(NNA撮影)

今月訪台したアザー米厚生長官は、「台湾の防疫措置は世界の模範だ」と称賛した。日本でも台湾政府の措置に対する注目度は高い。では、台湾政府はいつから新型コロナウイルス対策に乗り出したのか。

陳氏によると、台湾政府は12月31日、インターネット上で新型コロナウイルスの情報を得ていた。当日には行政院(内閣)副院長(副首相)事務所の対策会議が招集され、陳氏も参加。中国湖北省武漢市と台湾を往来する航空機の検疫を強化することを決めた。

その後、内政部長(内政相)が陳氏に防疫を担い、必要な準備を進めるよう指示。2月末には、同中心の陳時中指揮官からの推薦を受け、陳氏は副指揮官に就任した。

陳氏は指揮中心で副指揮官とともに、出入境と航空警察に関わる辺境検疫組の組長を担当。副指揮官としては、指揮官の意思疎通と調整の手助けや、指揮中心に設置された各組の職務の統合を担う。辺境検疫組の組長では、空港の税関・入境管理・検疫・治安(CIQS)チームとの調整も担当する。

6月7日まで毎日記者会見に出席するなど多忙を極めていたが、最も忙しかった時期は感染者が多く出た3月19日から4月末まで。「多くの措置を部門を越えて素早く調整することが必要だった」といい、週末も休むことなく働き、1日の勤務時間は14時間を超えた。

これまでの業務で印象に残っているのは、2月8日に基隆港に入港したクルーズ船「スーパースター・アクエリアス」での対応と3月の感染者増加の2点という。

スーパースター・アクエリアスでは結果的に感染者が見つからなかったが、対応に追われた。台湾政府が6日に国際クルーズ船の台湾への寄港を禁止した2日後に基隆港に入港。その背景には乗客の99%が台湾人と台湾在住の外国人だったことがある。

最終的に検疫対象は14日以内に症状があった人など計128人に絞られ、検査の結果全て陰性だったため、全乗客1,738人の下船が認められた。

3月の感染者の増加は、海外からの帰還ラッシュと検疫体制の強化が要因。指揮中心は3月21日から、全世界を対象に入境者の隔離措置を実施した。隔離者は観察対象とし、疑わしい症状が出た人には一律検査。感染者数は3月の1カ月間に283人増えた。

陳氏は、「当時は毎日、台北市内と台湾桃園国際空港を行き来し、空港の動線や検査過程を調整していた」と振り返る。

■マスク輸出地域に

指揮中心では、治療方法や感染予防に関する措置を専門家チームが検討の上判断する。各組はそれぞれの職権に基づき分担して措置を定めている。

マスクの実名購入制度は、蘇貞昌行政院長(首相)が指揮中心と直接調整を進めた。マスクの実名制で購入できる枚数は当初、7日間で2枚としていたが、現在は14日間で9枚にまで増やした。

陳氏は「個人のマスク使用状況を調べたところ、感染リスクの高い地域に出入りしない場合は、公共交通機関や仕事での使用に限られていた」として、14日間で9枚は十分な数と判断したと説明した。結果供給に余裕ができ、海外の国・地域にマスクを援助することも可能になったとみている。

マスクの生産ラインを作る台湾の機械メーカーはドイツから部品を調達していたが、欧州でも感染がまん延したことで輸入ができなくなった。そのため各社が技術とリソースを共有し、2カ月かからず131本の生産ラインを製造した。このようにして、台湾のマスクの生産能力を底上げした。

陳氏は「コロナ以前はマスクを輸入していたが、現在では輸出するようになった」と胸を張る。

■居家検疫、強制隔離にあらず

台湾政府によるマスク規制や隔離などの強い措置に、海外からは「強権」という声もある。ただ陳氏は、「基本的には自宅での自主隔離を求める“居家検疫”の形で進めており、いわゆる強制隔離とは異なる」と指摘。「居家検疫」は「isolation(隔離)」ではなく「quarantine(検疫)」。チャーター便などで帰還した市民に滞在を求める集中検疫所についても、「高リスク地域から帰還した市民を政府がケアするもの」と強調した。

「防疫ホテル」の利用も、住居が居家検疫にふさわしくない場合に政府が提供するもので、市民は自由に選ぶことができ、強制ではないと説明。陳氏によると、集中検疫所の利用者の満足度は98.9%に上る。

陳氏は、台湾は「伝染病防治法」に基づいた措置について罰則を執行しているが、違反率は1,000分の1と非常に低いと付け足した。

■往来「かつての水準に戻せない」

陳氏は「台湾は都市封鎖を行わず、マスクの着用や体温測定の徹底などを除きほぼ市民への制限を設けなかったが、入境に厳格な検疫措置を実施していたため、市中感染の危険はほぼなかった」と強調。経済面にもプラスの影響を与えているとみている。

ただ往来の再開には慎重な姿勢だ。他国・地域ではいまだ感染リスクが高いことから、往来を「かつての水準には戻せない」と話す。

台湾政府は6月22日から、一部の国・地域からの入境者に対し、入境後の隔離期間を14日から最短5日に短縮した。台湾への出発前3日間に受けたPCR検査の陰性結果を条件とする。日本に対しては従来最短7日に設定していたが、その後の日本での感染拡大を踏まえ、隔離短縮対象から除外した。

陳氏によると、隔離期間の短縮は、新型コロナウイルス感染症発症者の50%が潜伏期から5日以内に発症し、70%が7日以内に発症するとの統計に基づいて決定した。

今後は、病床や人工呼吸器などの設備を確保しつつ、病院内の隔離や分散を徹底し、第一線の医療スタッフが十分に休息を取れる体制を築く方針。陳氏は「市民1人1人の衛生意識を引き続き引き上げる」と力を込めた。

週1回の定例記者会見に臨む中央流行疫情指揮中心の陳時中指揮官(左1)と陳宗彦副指揮官(中央)=19日(同中心提供)

週1回の定例記者会見に臨む中央流行疫情指揮中心の陳時中指揮官(左1)と陳宗彦副指揮官(中央)=19日(同中心提供)

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