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【香港】米、香港の優遇措置廃止へ[経済](2020/06/01)

中国による香港への国家安全法制導入を巡り、米中の対立が深まっている。トランプ米大統領は5月29日記者会見し、中国への対抗措置として、米国が香港に認めてきた経済的な優遇措置の廃止手続きを始めると表明した。詳細は今後明らかにされる見通しだが、香港の国際的な貿易・金融センターとしての地位に打撃となり、投資受け入れに一定の影響が出るのは必至だ。中国側は強く反発し、反撃を示唆している。

トランプ氏は、国家安全法制の導入について「一国二制度」の50年間の維持などを取り決めた1984年の中英共同宣言に違反すると指摘し、「中国は香港に約束していた一国二制度を一国一制度に変えた」と非難した。

米国は92年制定の「米国・香港政策法(香港関係法)」で、一国二制度が守られていることを前提に、香港を関税や査証(ビザ)発給などの面で中国本土とは異なる地域として優遇してきた。トランプ氏はこうした措置の取り消しに着手すると明言したほか、香港の自治侵害に関わった中国政府と香港政府の当局者に制裁を科すと説明した。これまで、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)など本土の個別企業や、本土からの輸出品に科してきた制裁の対象が、独自の通貨やゼロ関税で多くの外資企業が集まる香港にも広がることになる。

この問題では、ポンぺオ米国務長官が27日の声明で、米国が香港に認めてきた特別扱いを「続ける状況にはない」と議会に報告したことを明らかにしたほか、米議会でも対中強硬論が強まっている。今後、米政府が香港を本土と同じ都市と位置づけることになれば、香港を本土や東南アジア事業の中核と位置づける米企業の事業戦略や投資に影響が出ることは避けられない見通しだ。

香港政府は30日夜に発表した声明で、「同法の立法化は香港の高度の自治を変えることはなく、香港の司法の独立にも影響を与えない」と反論。「一国二制度を一国一制度に変えた」などとするトランプ氏の発言は「事実を無視したでっち上げだ」と非難した。

一方、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は30日の社説で、トランプ氏が香港への優遇措置廃止を発表したことに「偽りに満ちた発表だ」と反発。「米国が(制裁を)続けるなら、平然として受けて立つ」と対抗措置を示唆した。

■先端技術の輸出に影響か

トランプ氏の会見を受け、香港政府の陳茂波(ポール・チャン)財政長官は31日の公式ブログで、香港経済への悪影響に対する市場の不安払拭(ふっしょく)に動いた。

陳氏は、香港への国家安全法制の導入が香港の自由な資金流通、香港ドル相場を米ドル相場に一定の値幅内(1米ドル=7.75~7.85HKドル)で固定する「米ドルペッグ制」の運営、香港の国際金融センターとしての地位に「影響を及ぼさない」と強調した。

関税面での優遇措置廃止については、香港地場製品の米国向け輸出が香港全体の輸出額の0.1%に満たず、規模が小さいことを説明。「米国の措置はわずかに市場の妨害になるとみられるが、影響は限定的だ」との認識を示した。

一方、トランプ氏は会見で、軍事・民生両方に利用できる高度な先端技術の輸出規制についても言及した。サウスチャイナ・モーニングポスト(電子版)によると、香港の法律事務所、程偉賓律師事務所(ティアン・アンド・パートナーズ)のウィリアム・マーシャル氏は、米国の輸出管理が香港に及ぶことを懸念。香港が本土並みの輸出規制の対象となった場合、「粤港澳大湾区」構想(中国広東省と香港、マカオで一体的な経済圏を目指す構想)で中国が描く研究開発(R&D)ハブとしての香港の展望に、「確実にネガティブなインパクトを与えるだろう」と話した。

今回の対抗措置が実行されれば、香港に進出している米企業にも影響が及ぶことは必至だ。

明報などによると、香港には米国企業が約1,300社あり、8万5,000人の米国人が居住しているという。米国にとって香港は最大の貿易黒字の相手先でもあり、陳氏は米国による対抗措置で「米国企業の香港での利益が損なわれる」と警告した。星島日報によると、在香港米国商工会議所(アムチャム、香港米国商会)のタラ・ジョセフ会頭はトランプ氏の会見を受けて「悲しい日だ」と声明を発表した。

■詳細は明言せず

トランプ氏は会見で、優遇措置の廃止手続きを始めると明言したものの、詳細については明らかにしなかった。これについて、全国港澳研究会の劉兆佳副会長は31日付明報で「中国と香港に打撃を与えるため、トランプ氏がどの程度の代償を払う考えなのかを見なければならない」と事態を注視する考えを示した。一方、民主派団体、香港衆志(デモシスト)の羅冠聡(ネイサン・ロー)氏は、「向こう1~2週間で米当局がより詳細な計画を発表する」と予測した。

香港中文大社会科学院の陳偉信(ウィルソン・チャン)講師は官営メディアRTHKで、「米国が今後半年間で香港関係法の条項を見直す可能性がある」との見方を示した。香港の独立した関税区としての地位などを取り消すかどうかは未知数だとして「こうした不確実性が香港にとって最も大きな打撃になる」と指摘した。

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