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【台湾】第2期蔡英文政権が発足[政治](2020/05/21)

台湾の蔡英文総統(民主進歩党)は20日、2期目の総統就任式典に臨み、2024年5月までの第2期蔡政権が正式に発足した。就任演説では「産業発展」をはじめとする4項目を第2期政権の基本的な施政方針に据えることを発表。産業発展のために、情報通信・デジタル産業など6産業を「核心戦略産業」として強化することを表明した。

蔡英文総統は2期目の就任式典で、情報通信・デジタル産業など6産業を強化することを表明した=20日、台北(総統府提供)

蔡英文総統は2期目の就任式典で、情報通信・デジタル産業など6産業を強化することを表明した=20日、台北(総統府提供)

蔡総統は台北市中正区にある総統府で式典に臨み、その後同区の台北賓館に移動し、就任演説を行った。

演説では基本的な施政方針として、「産業発展」「社会安定」「国家安全」「国家体制強化と民主主義の深化」の4項目の充実を図ることを表明した。

このうち「産業発展」については、6産業を核心戦略産業に指定。6産業の振興を通じて、台湾経済の底上げを図る方針を示した。第1期政権で推進してきた「5+2産業」(モノのインターネット=IoTなど『5大イノベーション産業』と『新農業』『循環型経済』)の発展形との位置付け。

6産業は◇情報通信・デジタル産業◇第5世代(5G)移動通信システム・情報セキュリティー産業◇バイオ・医療産業◇国防産業◇再生可能エネルギー産業◇民生関連産業――。

■台湾をICTの中心地に

情報通信・デジタル産業では、台湾が持つ半導体分野などの優位性を生かす。「台湾がグローバルサプライチェーンの中核的地位を得て、世界の情報通信技術(ICT)の中心地となる」ことを目標に掲げた。人工知能(AI)とIoTの発展を全力で推進する。

5G・情報セキュリティー産業では、5G技術を生かして世界から信頼を得られる情報セキュリティーシステムを構築する。

バイオ・医療産業に関して、蔡総統は新型コロナウイルスのワクチンや検査試薬の開発で、台湾は世界に高い技術力を持つことを示したとの見方。政府が関連産業の成長をさらに促し、感染症対策の分野で台湾が一層大きな存在感を放つことを目指す。

国防産業では、軍と民間の協力を促進する。国防産業は「5+2産業」に含まれており、第1期政権でも戦艦や戦闘機の内製化を図る計画を策定していた。今後は軍と民間が持つ技術の統合を促し、産業の振興を図る。関連性の高い航空・宇宙産業の強化も同時に進める考えだ。

再生可能エネルギー産業に関して、蔡総統は「台湾をアジア太平洋地域のグリーンエネルギーセンターにする」との目標を示した。同時に、第1期政権時に台湾の再生可能エネルギーは飛躍的に発展し、世界中から投資を呼び込めていると成果をアピールした。

蔡総統は第1期政権時に、25年までに電力供給に占める再生可能エネルギーの比率を20%に引き上げることを目標に設定。演説では「同目標を達成する自信がある」と述べた。

民生関連産業では、市民の生活に関わる物資の自給率を高める考え。蔡総統は、「世界の秩序が変化する中、マスクや医療品、生活用品、エネルギー、食糧などの重要産業の供給網は台湾にとどめる」との方針を表明した。

■内需を原動力に

蔡総統は各産業にまたがる包括的な戦略として、内需による経済発展を推進する方針だ。

成功例としては、新型コロナウイルスが流行する中で、短期間で域内産マスクの増産に成功したことを挙げた。内需を満たしたことが、関連産業の発展につながり、その後は余剰マスクの輸出などで海外市場の開拓にも成功したと説明。国防産業や再生可能エネルギーでも、同様の好循環を生み出すことを目指す。

その他の包括的な戦略としては、「金融支援」や「諸外国・地域との投資・貿易協定の締結」「人材の充足」などを列挙した。

金融支援では、「各産業の発展には十分な資金が必要」として、柔軟性のある金融政策や金融制度の改革を推進する。投資・貿易協定では、とりわけ日本、米国、欧州との間で協議を進める考え。人材に関しては、語学やデジタル関連の高度人材の養成に注力し、域内産業の競争力向上につなげる。

■「中国と対話していきたい」

一方、「社会安定」の項目では、台湾で急速な高齢化が進んでいることを踏まえ、医療技術や感染症予防を強化することなどを目指す。「国家体制強化と民主主義の深化」は、日本の裁判員制度のような市民の司法参加制度の構築などを目標に掲げた。

「国家安全」では中台関係に言及。蔡総統は中台の平和と安定を図るため、「対岸(中国)と対話を展開していきたい」と述べた。

ただ第1期政権時と同様、中国政府が主張する「一国二制度」による中台統一は拒否する姿勢を強調。従来通り「平和、対等、民主、対話」を基礎にした上で、中台関係の深化を図る考えだ。

■新内閣が組閣

同日には、その他政府要職でも新任者が就任した。副総統には陳建仁氏に代わり、頼清徳氏が就任。頼氏は第1期蔡政権で17年9月から19年1月まで行政院長(首相)を務めていた。

総統府秘書長は蘇嘉全氏、安全保障政策を決定する総統府直轄機関の国家安全会議の秘書長には顧立雄氏がそれぞれ就任した。蘇嘉全氏は前立法院長(国会議長)で、顧氏は金融監督管理委員会(金管会)の前主任委員。

行政院(内閣)も同日に組閣。行政院長(首相)は引き続き蘇貞昌氏。蘇氏を含む計45ポストのうち新任は11人で、李永得・文化部長(文化相)、呉政忠・科技部長(科学技術相)、キョウ明キン(キョウ=龍の下に共、キン=金が3つ)・国家発展委員会(国発会)主任委員などが新たに役職に就いた。

蘇貞昌行政院長(前左2)率いる新内閣が正式に発足した=20日、台北(NNA撮影)

蘇貞昌行政院長(前左2)率いる新内閣が正式に発足した=20日、台北(NNA撮影)

<プロフィル>

蔡英文

1956年8月31日生まれ。台北市出身。両親は屏東県出身で、父方の祖父は客家人、父方の祖母は台湾先住民のパイワン族。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで国際貿易法の博士号を取得し、84年に政治大学の准教授に就任(後に教授に昇格)。貿易の専門家として台湾の世界貿易機関(WTO)加盟に尽力した。2004年に民進党に入党し、16年の総統選で当選。台湾で初の女性総統となった。20年1月の総統選では、最大野党の中国国民党の韓国瑜高雄市長などを大差で破り、再選を果たした。

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