【香港】本土からの入境、隔離を開始[社会](2020/02/10)
香港政府は8日、中国本土からの全ての入境者を対象に14日間の強制検疫を始めた。新型コロナウイルスによる肺炎の拡大を防ぐため、原則として2週間以内に自宅やホテルなどから外出することを禁じており、事実上の「隔離措置」となる。初日は午後4時までに161人が対象となったが、現地メディアによると一部は政府の決定に従わない意向を示すなど、実効性への懸念も浮上している。
政府によると、香港に到着する前の14日間に本土に滞在した外国人なども強制検疫の対象。これにより人の往来を減らす目的もある。香港居住者は自宅で、本土住民や外国人はホテルなどで行う。域内の滞在先を確保できない場合は政府が用意した施設で実施する。8日付香港経済日報によると、政府は九龍・茘枝角の饒宗頤文化館を臨時の検疫施設に決めた。一方、日常生活に必要な物資を香港に輸送する運転手などは強制検疫の対象外にした。
対象者にはマスクを着用して自宅などにいることを義務付け、香港からの出境を禁止した。違反した場合、最高で禁錮6月、罰金2万5,000HKドル(約35万円)を科す。
対象者の家族には強制検疫を実施しないが、同様に毎日の体温検査を求める。発熱やその他の症状が出た場合は政府衛生署衛生防護センター(CHP)を通じて、病院に搬送する。
■トラック運転手など除外
政府は域内への物資や食料の供給を確保するため、一部職種を強制検疫の対象外とした。具体的には、本土からの越境トラックやバスの運転手と同乗のスタッフ、香港国際空港(チェクラプコク空港)到着後に入境する航空機の乗員、貨物船と漁船の船員、政府関係者などだ。衛生署はこれらの人に対し、域内滞在中のマスク着用や、毎日の体温測定を義務付け、同署に報告するよう求める。出入境の際の体温測定と健康状態の報告も義務付ける。
7日に会見した政府の張建宗(マシュー・チョン)政務長官は「強制検疫の実施によって香港への物資輸送が滞ることはなく、市民は安心してほしい」と呼び掛けた。
■7日は駆け込み入境者が急増
政府が8日からの強制検疫実施を発表した5日以降、香港への入境者は急増した。政府入境事務処によると、実施を翌日に控えた7日に広東省深セン市との間にある深セン湾出入境検問所から域内に入境した人は5万8,502人に上り、5日の3倍となった。このうち85%以上は香港居住者だった。本土などで働く香港居住者らが強制検疫を避けるため駆け込みで戻ってきたとみられる。
その他の主要な出入境拠点である香港国際空港や、香港と本土を結ぶ海上橋「港珠澳大橋」を加えた7日の全入境者数は9万5,982人となり、5日と比べて6割以上増えた。
■8日は9割減
一方、強制検疫の初日となった8日の香港への入境者は午後4時時点で8,953人と前日に比べて激減した。うち強制検疫の対象となったのは161人(香港居住者143人、その他18人)。148人が自宅、11人がホテル、2人が政府関連施設から外出禁止となった。
ただ、強制検疫といっても、大半の人の隔離場所が自宅やホテルなどだったことから、どこまで感染拡大の実効性を確保できるか不安も残っている。9日付明報によると、初日に強制検疫の対象となった香港居住者の男性は「いつも通りに出勤し、隔離は受け入れない」と述べ、政府決定に従わないことを明言したという。男性は深セン湾出入境検問所から自宅に直行しなかった。
本土から香港に戻った別の夫婦は、自宅にある食料が少ないとして、帰宅途中に市場で野菜などを買った。政府は入境する対象者には2時間以内に自宅やホテル、政府の検疫拠点に到着するよう求めているが、夫婦はその時間を過ぎても帰宅を急ぐ様子はなかったという。
政府は対象者が自宅などにいるかどうかを確認する抜き打ち検査も随時行うと説明しているが、「隔離措置」は対象者の自主性に委ねられているのが実情のようだ。