【韓国】人材不足の出前業界、未成年にしわ寄せも[社会](2019/11/07)
韓国南部・済州市のチェ・ウンボム君(当時17歳)は昨年、事故で亡くなった。訳あって両親から離れて姉との二人暮らし。生計を立てるためにアルバイト先を探していた矢先、「近所なら大丈夫だろう」と店主に勧められるままに無免許のままオートバイに乗ったものの、初出勤からわずか4日後に不幸が待ち構えていた。
同サービスが盛んな韓国で今、チェ君のように配達中の事故に遭う10代の若者が増えている。韓国勤労福祉公団によると、負傷者は年平均500人、死亡者は同10人に上るという。店の主人から「気を付けろよ」とだけ言われ、リアブレーキの壊れたバイクを渡されたというケースもあった。背景には慢性的な配達員不足がある。フライドチキンや中華など昔からの伝統的な出前メニューに加え、ウーワ・ブラザーズが運営する「配達の民族」など出前アプリの隆盛でハンバーガーやコーヒー、パスタ・ピザなどメニューの多様化が進む。サービスの拡大に配達員の確保が追い付いていないことが、経験に乏しい若者を雇わざるを得ない状況を招いているようだ。
1回の配達の報酬が平均3,500ウォン(約326円)と安いことも、配達員のリスクを上げている。多く稼ぐには相当な配達回数をこなす必要がある。さらに、出前業界には「注文から30分以内に配達しなければならない」という暗黙の了解があり、これが配達員の無理な運転につながっているという指摘もある。
日本でも「ウーバーイーツ」配達員の事故がたびたび問題に上がる。今年6月には配達員が待遇改善を求めて労働組合を結成。さらに、運営会社のウーバージャパンは9月に上限25万円の見舞金を支払うことを発表した。徐々にだが、事故への対策は進みつつある。
かたや韓国では、配達員の雇用形態によって事故補償に大きな隔たりがあるのが実情だ。「常時従業員」として正規に雇用された配達員でない場合、業務上の事故でも労災保険の対象外となる。業界では「自動車保険を積極的に活用すべきだ」との声も上がるが、改善への道のりは遠い。
韓国のフードデリバリー市場規模は世界4位の水準に成長し、今後も利用者は増える見通し。その過程で将来を担う若者を犠牲にしてはならない。政財界が現実を直視し、配達員を守る対策を早期に打ち出す必要がある。