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【韓国】曺氏辞任で政権運営厳しく[政治](2019/10/16)

韓国の曺国(チョ・グク)法相が14日に辞任した。親族の疑惑を抱える曺氏の法相指名を強行した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今後、一層厳しい政権運営を余儀なくされる。曺氏辞任の背景や文大統領の政権運営、今後の日韓関係について神戸大学の木村幹教授に聞いた。

「曺氏の辞任で保守派が勢いづいたとしても、日韓関係に大きな変化があるとは思えない」と話す木村教授(NNA撮影)

「曺氏の辞任で保守派が勢いづいたとしても、日韓関係に大きな変化があるとは思えない」と話す木村教授(NNA撮影)

――曺国法相の辞任は誰も予想できなかった。

文政権の支持率低下に負担を感じたのではないか。文大統領が政権の重要課題である検察改革の実現に向け、エースである曺氏の法相任命を強行したにもかかわらず、与党に好意的と言われる調査会社のリアルメーターが14日公表した大統領支持率は41.1%と、過去最低を更新した。さらに深刻なのは与野党の支持率が拮抗(きっこう)するようになったことだ。曺氏と検察の対決構図をつくることで支持層の求心力を高める効果を狙ったようだが、逆に分裂気味だった保守層の結集を招いてしまった。来年4月に国会議員選挙を控える与党にとっては、重大な事態だと言える。曺氏にとって志半ばでの辞任は不本意だろうが、仕方のない情勢だ。

――文政権が検察改革にこだわる理由は何か。

検察改革は「民主化の完成」としての位置付けだ。人権弁護士として長く検察と戦ってきた文大統領の過去も影響している。政治は民主化し、司法や韓国の情報機関、国家情報院の改革も進んだものの、検察は相変わらず強力で、時の政権の影響を受けやすいままだ。しかし、曺氏の辞任により検察改革のトーンダウンは避けられなくなった。

――保守派が勢いづきそうだ。

野党は当然、国会で大統領に任命責任を問うだろう。朝鮮日報などの保守系メディアも政権批判を強めるはずだ。今後、コンクリート層と呼ばれる支持基盤の一部が離反し、政権の支持率が40%を割り込むようなことがあれば、国会議員選挙で革新系与党「共に民主党」の敗北は濃厚となる。その場合、文政権は完全にレームダック(死に体)化する。

■与党は人材が枯渇

盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の流れをくむ人材の枯渇も深刻だ。文大統領は「盧武鉉派」の最後の実力者。文チルドレンの代表格である曺氏の法相辞任で、文大統領より年長の李洛淵(イ・ナギョン)国務総理(首相)くらいしかいなくなっている。将来の与党を担う若手のいない状況で、今後、党内での権力争いが激しくなるかもしれない。

――支持率浮上のカードが見当たらない。

検察改革がトーンダウンして経済も下向く中、文大統領が北朝鮮との融和路線に一層前のめりになる可能性は否定できない。そうなれば、日本との温度差は一段と大きくなるだろう。

――文氏の求心力低下で日韓関係はどう変化するか。

文政権は国内政治できゅうきゅうとするあまり、日本側の反応に神経を使う余裕がなくなる恐れがある。元徴用工訴訟で韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じた判決を巡り、原告が差し押さえた日本企業の資産を現金化しようとする動きに対するブレーキがかからなくなりそうだ。

安倍政権の方でも、文大統領の支持率が30%台まで低下すれば「この政権との対話は無意味だ」と判断するだろう。その場合、現在の悪化した日韓関係がニューノーマル(新常態)として定着しそうだ。

――日韓関係は今や、政治が企業活動に大きな影響を与える段階に入った。

在韓日系駐在員の皆さんには、韓国の国内政治に一喜一憂しないように助言したい。保守派も日本企業の資産の現金化には反対できない。曺氏の辞任で保守派が勢いづいたとしても、日韓関係に大きな変化があるとは思えない。過度な期待は禁物だ。(聞き手=坂部哲生)

<プロフィル>

木村幹

神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者の人物像や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いてみせる。受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)など。近著に新潟県立大学大学院の浅羽祐樹教授との共著 『だまされないための「韓国」 あの国を理解する「困難」と「重み」』(講談社)がある。

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