【インド】「背中押す映画を作りたい」[媒体](2019/09/30)

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日本で大ヒット中のアニメ映画「天気の子」が27日、国際交流基金が主催する「インド日本映画祭」に合わせてインドで初上映された。鑑賞を希望する約2,000人の応募者の中から抽選で選ばれた約1,000人が同日、首都ニューデリーの映画館に足を運び、舞台あいさつやQ&Aで登壇した新海誠監督をスタンディングオベーションと大きな歓声で出迎えた。プレミア上映のために初めてインドを訪れた新海監督がNNAの単独取材に応じ、作品に込めた思いを語った。

プレミア上映の翌日、インタビューに応じる新海誠監督=28日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

プレミア上映の翌日、インタビューに応じる新海誠監督=28日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

――プレミア上映後、熱狂的な拍手で迎えられた。インドをはじめアジアの観客に一番伝えたいことは。

日本の観客に対してもアジアの観客に対しても変わりはないんですが、自分を奮い立たせてくれるような、背中を押されるような映画を作りたいと思っています。

「天気の子」は作品の中で、主人公の少年が大切な少女を救うためにある言葉を叫ぶ。その言葉は少年にとってはすごく純粋な願いなんですが、個人の純粋な願いはときどき、ほかの大多数の人の望みとぶつかることがあるわけで。

それ(ときに人の願いと衝突する個人の切実な願い)を考えちゃいけないよ、願っちゃいけないよ、というのは、すごく窮屈な社会だと思うんです。でも今は、少しそういう社会になっている気がして。自分の内心まで、心の自由までSNSのような簡易装置で縛られているような感覚が、どこかにあるような気がして。息苦しさが増しているような。

その反動としてナショナリスティックな政治であったり、いろんなものがあるんでしょうけど、エンターテインメントの中では、個人が身勝手な願いを叫ぶことができるし、そこに人々を感情移入させることもできると思うんです。やりたかったのは、そういうことで。

主人公が他人に言ったら叱られるような自分の願いを映画の中で全力で叫ぶことで、観客はもしかしたら励まされたり、自分も走り出したくなったり、一度あきらめたものをもう一度つかんでみようという気になったり。そんな気持ちになってくれる人がいるんじゃないかと。とにかく観客の背中を押すような映画を作りたくて、そんなことを思いながら作りました。

日本の観客であれアジアの観客であれ、そういう感覚をこの映画から受け取ってもらえればうれしい。

インドのファンと交流する新海監督=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

インドのファンと交流する新海監督=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

――前作「君の名は。」は世界的にヒットした。自身の作品がアジアの若者に広く受け入れられた理由をどう考えているか。

前提には「日本のアニメーション」という、ジャンルが持つ力がある。先人が積み上げてきたブランドのようなものが。宮崎駿さんが今もその中心に間違いなくいらっしゃって、作家主義的な部分がある。

映画は巨大産業で、例えばピクサー作品のようなハリウッドの大作アニメであれば、脚本から画作りから徹底的に、商品の価値が磨かれて世に出されるわけですよね。でも、日本のアニメはどこまでも合理的に作られているわけではなくて。宮崎さんのような偉大な天才がいて、彼一人の頭の中から出てくるものが映画になってきている。

――それが周囲の人を動かして、作品になるというような。

「天気の子」はPVR系列の映画館で、10月11日に商業公開される=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

「天気の子」はPVR系列の映画館で、10月11日に商業公開される=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

そうですね。商業的な市場を向いた理屈で作られていない部分があると思うんです。こうすれば人が入る、売れる、という理屈で作られていない部分が、日本のアニメには伝統的にあって。それは、いい部分も悪い部分もあるんですが。宮崎さんのような天才がそういう映画作りをしてきたおかげで、日本のアニメはほかのアニメとは違うという、信頼のようなものを得ることができて、世界各地に日本アニメのファンがいるわけで。だからこそ、僕の作品も「日本のアニメなんだから観てみよう」と。そういうきっかけになったんだと思います。

■日本人が楽しめなければ、外国人に届かない

――その信頼を保ち続けていくために、作品作りをされている部分は。

結果的にそうなればとても幸せですが、そのために映画を作っているわけではない。最初に考えているのは、まず日本の観客に楽しんでもらえる作品。彼らが十分に楽しめなければ、海外の人たちにだって届かないだろうから。

「天気の子」は2019年の夏休みに1カ月、(日本の)観客に観てもらえればそれでいいという気持ちで、同じ時代の人たちとの思い出のようなアニメとして存在できればいいと思って作ったんです。それが時代と場所を越えて残っていくのであれば、望外に幸せなことではありますが、一番の目的は、いま、自分の周りにいる人たちに楽しんでもらうことです。

そういう風に作った映画が結果的にアジアに出て行くのであればそれはうれしいし、それが宮崎さんがずっとやってきたような、日本のアニメの信頼を保つようなことの一助になるのであれば幸せです。

■ハリウッドと異なる手法で創作

――海外市場を意識して作品作りをしているわけではないと。

全く意識していないですし、むしろ、例えばピクサーやディズニーの作品は始めからグローバルマーケットを前提に作っているわけですよね。同じ方向を向いてしまったら、確実に勝てない。

映画産業として日本はハリウッド(米国)よりも貧しいわけで、人もお金も少なく(制作)期間も短い。ですからやっぱり彼らと違う方向を向いて、違う場所の穴を掘っていかなくてはならない。そしてそこは、まず自分の足元なのかなと思っています。

自分の立っている場所を深く掘っていって、そこに観客が喜んでくれるような水脈を見つけられないかな、と。それを続けていって、その果てに「もしかして水脈が外につながっている」みたいなことがあれば、うれしいです。

プレミア上映に集まったインドのファンと記念撮影=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

プレミア上映に集まったインドのファンと記念撮影=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

■人を励まし、寄り添う映画を

――人に夢や希望を与え、一方で巨大なお金を生む産業であるエンターテインメントを通じて、果たしたい責任やビジョンは。

世界に対しても日本に対しても、僕に役割のようなものがあるんだとしたら、人を愛する映画を作りたい。人を憎むわけではなく、愛してほしい。あるいは、人は、人のことを許してほしい。

「世界中のほかの人があなたの敵であっても、自分だけはあなたのことを全力で愛している。あなたのことが好きなんだ」。そういうことを言い続ける映画を作りたい。それが役割のようなものになればいいなと思います。

なぜなら学校や政治ではなるべくたくさんの人を救わなければならないし、場合によってはあるカテゴリーの人は排除しなければいけない、そういった判断があり得ると思うんです。誰に与えて誰に与えないかを、決めていかなければならないような。

会場には、インド公開を祝って自作のイラストを持参したファンも=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

会場には、インド公開を祝って自作のイラストを持参したファンも=27日、インド・首都ニューデリー(NNA撮影)

でも僕は仕事としてはそちらを選ばず、映画を作ることを選んだ。だから、全員が敵になったとしても僕は君を愛しているんだという作品を作ることで、できれば、もしかしたら、世界が少しだけ優しい場所に、良い場所になっていくかもしれない。そうであればいいなと思いながら、映画を作っているような気がします。(聞き手=天野友紀子)

<取材メモ>

自身の作品に似た柔らかな物腰で、一つひとつの質問に丁寧に答える姿が印象的だった新海監督。インドに来る前は「署名によって上映が実現したというけれど、実際はどんな感じなんだろう」と、期待と不安が入り交じっていたという。

だが、インドの観客への印象を尋ねると、「(一緒に作品を観て交流ができて)今は本当に幸せ。映画を観る姿勢が『全力で楽しみに行くぞ!』という感じなんですよね。熱狂的に観てくれて、お祭りのように楽しんでくれて。(周囲の反応や評価は)一切関係なしにまっすぐで、鑑賞中も見終わった後も『この映画が好きだ』『すごくよかった』とストレートに伝えてくれた。あぁ、いとおしい人たちなんだなぁという風に思いました」と、笑顔で語ってくれた。

<最新作について>

「天気の子」は、雨が降り止まない東京を舞台に、離島から家出してきた16歳の少年と、祈るだけで天気を晴れに変える力を持つ少女が、自らの生き方を選択していく姿を描く青春ドラマ。27日に開幕したインド日本映画祭のオープニング作品としてプレミア上映された。日本のアニメ映画で史上初となる、インドでの商業公開も決定。10月11日から地場の複合型映画館(シネマコンプレックス)運営最大手、PVR系列の30都市の映画館で上映が始まる。

本作は新海監督の前作「君の名は。」の135カ国・地域を超える、世界140カ国・地域での公開が決まっている。シンガポールとマレーシアでは、日本のアニメ映画の歴代興行収入1位の記録を塗り替えた。

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