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【韓国】「文政権に当事者意識欠如」[政治](2019/08/27)

1965年に日韓の国交正常化を成り立たせ、その後50年以上にわたって両国関係を安定させてきた法的土台が根幹から揺れている。「旧朝鮮半島出身労働者(「元徴用工」)」判決や輸出管理の厳格化で両国の外交摩擦が激しくなり、在韓日系企業にも影響が出始めている。落としどころはあるのか。韓国政治や日韓関係が専門の同志社大学教授・浅羽祐樹氏は文在寅(ムン・ジェイン)政権について「当事者意識を感じていないのが最大の問題」と指摘。緊張関係は長期化するとの見方を示す。

「文大統領自らが当事者意識を持つことが大切」と話す浅羽教授=19日、ソウル(NNA撮影)

「文大統領自らが当事者意識を持つことが大切」と話す浅羽教授=19日、ソウル(NNA撮影)

――日本政府による韓国向け輸出管理の強化は、日韓企業にも大きな衝撃を与えた。         

輸出管理とは本来別次元の問題だが、元徴用工訴訟問題が引き金となったのは間違いない。元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決は、「65年の日韓基本条約による国交正常化とそれ以降の友好協力関係の法的基盤を覆した」というのが日本政府の認識だ。

――徴用工判決と日韓基本条約はどのような関係があるのか。

日本の朝鮮半島統治期(1910~45年)の法的性格を巡り、「たとえ不当だったとしても、少なくとも合法的で有効だった」とする日本の主張に対し、韓国政府は「不当で不法ゆえに当然そもそも無効だった」と反論した。そこで日韓基本条約では、「(日本の朝鮮半島統治は)もはや無効」という文言で決着し、日韓がそれぞれ自国民に対して異なった解釈をできる余地を残した。「不同意の同意(agree to disagree)」という高度な政治的判断、リーダー(statesman)としての「賢慮(prudence)」だった。

ところが大法院は、元徴用工を「日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配および侵略戦争の遂行に加担した日本企業の反人道的な不法行為を前提にした強制徴用の被害者」と定義。「日本企業に対する慰謝料請求権は、請求権協定の枠組みの外である」との判決を下した。これは1919年に「大韓民国臨時政府が樹立された」とする韓国憲法前文から直ちに裁判規範性が認められるというアクロバティックな「法理」である。

――文政権は慰安婦合意も破棄した。

元徴用工問題は慰安婦問題と異なり、65年の日韓請求権協定2条で「完全かつ最終的に解決された」と韓国政府も認めていた。文氏自身も、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2005年に政府高官として「(慰安婦や被爆者、在サハリン韓国人と違い)元徴用工問題は法的に解決済み」と規定した当事者だ。

仮に2条の解釈に食い違いがあった場合、外交協議や第三者による仲裁委員会の設置など解決に向けた手続きも3条で規定している。サブスタンス(具体的な中身)をめぐって争いがあるときこそ、一定の手続きに則って解決しようとするのが「大人の振る舞い」である。

――文政権は仲裁委員会の設置にも応じようとせず、「司法の最終決定を尊重する」という立場だ。

あくまでも韓国国内向けの説明で、「条約法に関するウィーン条約」でも明文化されている「合意は拘束する」という法の大原則に反する。ウィーン条約では国内の事情を優先する例外規定も設けられているが、政権交代や司法判断、さらには「民主化」などはこれには該当しない。日本企業からすれば、韓国企業からある日突然「社長が変わったので、会社として結んだこれまでの契約は破棄します」と言われたようなものだ。ビジネス相手としての韓国のカントリーリスクは確実に高まった。

――日本側の深刻さが十分に伝わっていない。

韓国政府に「当事者意識」がないのが一番の問題だ。大法院の判決から半年以上経て、韓国政府がようやく提案してきたのが、日韓の企業が資金を出し合う「1プラス1」の財団案だ。大法院の判決をそのままなぞったような内容で、日本政府は到底受け入れられない。

他にも、日韓両企業に加えて韓国政府も出資する「1プラス1プラス1」や、日本政府が朝鮮半島統治の不法性を認めることを条件に日本企業にはアクションを求めない「1プラス0」と韓国では言われている案などが提示されている。これは、日本政府にアクションを求めている以上、事実上、別の「1プラス1」である。

しかし、日本側が受け入れられるのは、韓国政府と韓国企業のみが出資する別の「1プラス1」か、韓国政府だけで行う「1」だけだ。

――韓国政府に当事者意識を持たせるには。

「このまま行けば支持率が低下したり、議席を失ったりする」といった「政治的なコスト」を認識するまで難しいだろう。たとえ、日本との対決姿勢を打ち出すことで韓国経済に被害が出るなどの「経済的なコスト」が積み重なっても、政治的なコストに跳ね返らない限り、政治家はなかなか動こうとしない。皮肉なことに、日本の輸出管理強化による実害がないとなれば、なおさら難しくなる。

――来年4月の総選挙で政権与党が勝てば、日韓関係の改善はさらに遠のくか。

文政権が「政治的なコスト」を認識するケースは他にもある。元徴用工だったと主張する韓国人と遺族らが韓国政府を相手取って「日韓請求権協定に従い補償責任は韓国政府にある」と憲法裁判所に訴えた。これを機に韓国政府が「当事者意識」に目覚めれば、2000年代と同じように韓国国会と協力して被害者支援のための特別法をもう一度制定するなど、司法プロセスの外で包括的に和解の道を選択するかもしれない。

海外からの圧力もありうる。この間の日韓関係の法的土台であった「1965年体制」への挑戦は、51年のサンフランシスコ体制への挑戦でもある。韓国はサンフランシスコ講和会議に参加できなかったが、日韓基本条約と請求権協定はサンフランシスコ条約で規定された「特別取極」という位置付けである。「韓国が1965年体制、サンフランシスコ体制、要は戦後国際秩序の根幹を覆そうとしている」との認識が海外、特に「戦勝国」の間で広まれば、文政権が政治的なリスクを感じる可能性はある。

いずれにせよ、「大韓民国を対外的に代表するのは大統領」と韓国憲法で規定されている。司法のせいにしたり、知日派とされる李洛淵(イ・ナギョン)首相に丸投げしたりせずに、文大統領自らが当事者意識をもって日本に向き合うことが必要だ。(聞き手=坂部哲生)

会談を前に握手する河野外相(左)と韓国の康京和外相。徴用工、輸出規制に関する協議は平行線に終わった=21日、北京郊外(共同)

会談を前に握手する河野外相(左)と韓国の康京和外相。徴用工、輸出規制に関する協議は平行線に終わった=21日、北京郊外(共同)

<プロフィル>

浅羽祐樹:同志社大学グローバル地域文化学部教授。専門は、比較政治学・国際関係論。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程終了。Ph.D(政治学)。新著は、『知りたくなる韓国』(有斐閣,2019年,共著)。

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