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【日本】【ハノイ重慶】中越国境、人的交流も拡大[経済](2019/01/08)

中越国境の友誼関まで15キロメートルのベトナム・ランソン省都のランソン市。意外だったのは中国人観光客やビジネスマン、中国語の看板や中国車両をほとんど見掛けなかったことだ。ただ、中越間の国際陸路輸送は拡大し、ベトナム側の国境では中国への留学や就労も目立つ。首都ハノイからみた辺境地域は、さまざまな課題を抱えつつも中国南部への玄関口としての顔を持つ。

中越国境の友誼関では「一帯一路で未来を共有」とのスローガンがベトナムに向け掲げられていた=ベトナム側から中国側を撮影

中越国境の友誼関では「一帯一路で未来を共有」とのスローガンがベトナムに向け掲げられていた=ベトナム側から中国側を撮影

ハノイから北へ約150キロ離れたランソン市に入る手前、中国・桂林のような雨水に浸食されたカルスト地形特有の奇岩が林立し、中国に近いことを実感する。

ランソン市内で乗ったタクシーの運転手に、中国人は多いのかと尋ねると「中国人はバスに乗ってやってくる観光客だけだ。省政府は中国人の居住を認めたくない。ここの人はみな中国嫌いだから」と話す。1979年の中越紛争で、ランソンの町は中国側に破壊され廃墟となったことが、人々の記憶に今も鮮明に残るという。中国語の看板がほとんどないのもこうした配慮なのだろうか。

中国企業向けの工業団地開発計画が省内にはある。都市開発や貿易を行う地場企業幹部に、匿名を条件に話を聞くと、2018年に勃発した「米中貿易戦争」以降、中国企業は工業団地の早期建設の意向を示している。しかし、ランソン省政府は中国人居住者が増えることを懸念し、認可しないだろうとの見方だ。やはり、省政府は中国に対する警戒感を根底からは拭い去ることはできないようだ。

中国人投資家90%出資のドラゴン自動車として2010年に設立。電気二輪車を生産していたが、中国の商銀がベトナム事業への融資基準を厳格化したため資金繰りが悪化し閉鎖=ベトナム・ドンダン国境経済区

中国人投資家90%出資のドラゴン自動車として2010年に設立。電気二輪車を生産していたが、中国の商銀がベトナム事業への融資基準を厳格化したため資金繰りが悪化し閉鎖=ベトナム・ドンダン国境経済区

ただ、この幹部は「仮に工業団地が整備されても、ランソンでの製造業は厳しい」との見方を示す。ランソン省は山岳部が多く人口が少ないうえ、住民の多数を占める少数民族は工場勤務が難しいとみられているからだ。「中国企業は以前ならランソンに強い関心を持っていたが、現在はハノイ近郊のバクニン省付近に移っている」と述べた。バクニンなら国境から100キロ強しか離れていない上、日本や韓国の企業が集積しているため、人材や販路の確保が容易なのがその理由だ。

■国境での売買は減少か

中国人とベトナム人以外の第三国の外国人も通過できる友誼関国境(広西チワン族自治区憑祥=ピンシャンとランソン省ドンダン)では2017年、23万台の車両が行き来した。1日平均640台で、ピークの日は1,200台にも達する。

中越国境をグーグルマップの衛星写真でみると、中越両国の貿易拡大の様子が分かる。友誼関以外にも国境ゲートが新設され、トラックターミナルが各所で建設中だ。

しかし、中越間を走るトラックは、コンテナの積み替えを中国側で行うルールとなっている。ハンドリング手数料で潤うのは中国だ。

タンタイン国境に集まる冷蔵コンテナトラック。メコンデルタやドラゴンフルーツの産地ビントゥアン省など南部の車両が多い=ベトナム側から中国側を撮影

タンタイン国境に集まる冷蔵コンテナトラック。メコンデルタやドラゴンフルーツの産地ビントゥアン省など南部の車両が多い=ベトナム側から中国側を撮影

ドンダンから北西方向へ約15キロのタンタイン国境を訪れた。ランソン省経由で中国へ輸出される果物の多くはここを通過。ベトナム地元紙によると、1日平均400~500台だという。このほか、地域住民が無税で輸入できる特権を生かした「中国製品市場」で有名だ。

11年にタンタイン市場を訪問した時は、安価な中国製の雑貨・食品・衣類を求めるベトナム人であふれていたが、その時と比べると閑散としている。リヤカーを付けた自転車で中国から無関税で商品を運ぶ行商の女性も少ない。店の人に聞くと「以前ほどベトナム人はタンタインで買い物をしなくなった」という。理由として「わざわざ国境に来なくても、ベトナム北部各都市では中国製品が安く購入できるようになった」「ベトナム製品の品質が上がっている」の2点を挙げた。

■美田の村、中国へ出稼ぎ

中国と国境を接し、陸路貿易トップの玄関口であるランソン省だが、国境という立地を生かしきれていないことが人口動態からも読み取れる。ランソン省の人口は16年の76万8,700人から17年は77万8,400人に増加しているが、流入数より流出数が多い社会減(0.27%減)となっている。北部山岳エリア14省のうち、社会減率は隣接するカオバン省(0.32%減)に次ぐワースト2位だ。人口はどこへ流出するのだろうか?

その答えの一つがタンタインからさらに北へ30キロのナヒン国境付近にある。国道4号線から省道に入ると、緩やかな棚田で農民が手作業で稲刈りに追われていた。しかし、若者をほとんどみない。国境手前の茶店に寄って、その理由を尋ねると「中国への出稼ぎだよ。見ての通り、ここは貧しい村だから」と男性客が話し、女性の店主が相づちを打つ。多くの住民は少数民族(ベトナムのヌン族)といい、中国の壮(チワン)族と同じ言語を話す。一方、ハノイへ稼ぎに行く人は少ないという。

現地紙によると、地元自治体首長は「ナヒン国境があるランソン省の山間部は各村で数百人(人口の1割以上)ずつは、中国へ非合法の出稼ぎに行っている」とコメント。行方不明や人身売買の被害にあうケースも多いようだ。

広西チワン族自治区では、安定した収入が得られる建設労働を選ぶ農民が増えており、ベトナム人労働者のニーズが高まっている。

ランソン省バンラン郡のナヒン国境への道路沿いの景観。中国への出稼ぎ者が多い地区だ=ベトナム

ランソン省バンラン郡のナヒン国境への道路沿いの景観。中国への出稼ぎ者が多い地区だ=ベトナム

ナヒン国境への省道の沿線はのどかな農村の風景だったが、トラックが約3~5分おきぐらいの高頻度ですれ違った。ナヒンは主にキャッサバ粉(タピオカ粉)などコンテナに入れない農産品の専用ゲート。ただ、中国からの帰り荷はほとんどないという。

■ベトナム人留学生は北部から

友誼関から220キロの広西チワン族自治区都の南寧。ここにある広西大学を訪れた。複数の学生から聞いた話を総合すると、ベトナム人留学生は100人を超える。出身地別に一番多いのはハノイだが、2番目はハノイよりも南寧の方が近いカオバン省だという。一方、南部にある最大都市ホーチミン市からの留学生はゼロで、南寧への近さと中国政府の奨学金が、ベトナム北部から留学生を引き付ける土壌となっている。【文・写真=遠藤堂太】

中越沿岸国境(中国・広西チワン族自治区東興、ベトナム・クアンニン省モンカイ)では2番目の国境ゲートが完成間近(左)。しかし、川をはさんだ中国側には電流柵を設け密入国・密輸に目を光らす=中国側

中越沿岸国境(中国・広西チワン族自治区東興、ベトナム・クアンニン省モンカイ)では2番目の国境ゲートが完成間近(左)。しかし、川をはさんだ中国側には電流柵を設け密入国・密輸に目を光らす=中国側

(次回は1月11日掲載予定)

<メモ>

■広西の越人留学生は3千人

「広西チワン族自治区で留学中のベトナム人は3,100人、中国全土の3分の1を占める」。VOVニュースによると、駐南寧ベトナム総領事が18年1月、新年の祝賀会でこう述べた。同自治区居住のベトナム人は2万5,000人だという。

■ベトナムの「労働力輸出」は14万人

ニャンザン電子版によると、18年に海外に合法的に派遣されたベトナム人労働者数は約14万人。このうち日本と台湾向けが90%以上を占める。3番目は韓国。

■ランソン省からの農産物輸出

ベトナム農業電子版によると、18年上半期(1~6月)にランソン省から中国へ輸出された農産物は160万トン。ドラゴンフルーツ(30万トン)、マンゴー(20万トン)、生ライチ(6万トン)などだ。一方、中国からの農産物輸入は20万トンにとどまった。

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