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【日本】【ハノイ重慶】自動車生産250万台の柳州[経済](2019/01/11)

中国・広西チワン族自治区の南寧から高速鉄道で桂林・重慶方面へ1時間強。柳州駅に降り立つと、自動車を搭載する専用貨物列車が構内に停車しており、自動車産業の町に来た実感が湧く。低価格の多目的車(MPV)を中心に、中国全自動車生産の1割近い250万台が柳州で生産されている。この巨大な生産拠点が、日本の部品メーカーにとっては未開拓のままだ。【文・写真=遠藤堂太】

上汽通用五菱汽車(SGMW)の工場ヤードに留め置かれた完成車は1万台以上はあるようだった。小型EV(手前)はカラフルな色が好まれる=広西チワン族自治区・柳州

上汽通用五菱汽車(SGMW)の工場ヤードに留め置かれた完成車は1万台以上はあるようだった。小型EV(手前)はカラフルな色が好まれる=広西チワン族自治区・柳州

柳州市中心部から車で30分。年産200万台を超える上汽通用五菱汽車(SGMW)の巨大工場を見下ろす丘に立つと、そのスケールに驚く。黒や赤が目立つカラフルな2人乗り電気自動車(EV)の奥に、白のMPVがずらりと並ぶ。セダンは見つけられなかった。

「1万台以上はありますね」。同行した自動車シニアエンジニアがつぶやく。カメラで写せる範囲はその3分の1程度だ。

SGMWは、中国自動車最大手の上海汽車集団(上汽集団)と米ゼネラル・モーターズ(GM)、それに自治区内の柳州五菱汽車(現・広西汽車集団)の3社合弁事業として2002年に設立。SGMWとしての自主ブランドに「宝駿」「五菱」シリーズがある。MPV「五菱宏光」は5万人民元(約80万円)程度から購入でき、同カテゴリーの車名別販売で中国トップにランクされることも多い。GMの名を冠するSGMWだが、自主ブランド車ではGMからの技術供与はほとんどないという。

柳州ではこのほか、乗用車と大型トラックを年間30万台規模で生産する東風柳州汽車や、部品生産にも力を入れる広西汽車集団の工場がある。

東風柳州汽車の本社工場。ロボット導入による自動化も進む=柳州

東風柳州汽車の本社工場。ロボット導入による自動化も進む=柳州

先の同行したエンジニアは、自動車関連の人材派遣や企業診断を行う地場の柳州安美科技(アンメイ)に所属する日本人。日本や中国の車両メーカーでの勤務を経て、東風柳州でトラックの設計支援などを担当する。労働力不足や賃金高騰を背景に、東風柳州でもオートメーション化への投資が急ピッチで進んでいるという。

■小型EV、街中を縦横無尽

柳州の街角では、小型EV「宝駿Eシリーズ」が走っているのが目に付く。SGMWは17年に小型EV「E100」、18年に「E200」を販売開始。柳州以外での普及はこれからのようだ。17年の生産は1万台強、18年は3万台程度とされる。わずかこれだけの台数なのに存在感があるのは、黒や赤が目を引くからかもしれない。E200の最大航続距離は250キロメートル。補助金を差し引いた販売価格は約5万人民元で、最大8人乗れるMPVと大差ない。このため、家庭内で女性や運転初心者のセカンドカーとして使われているようだ。

外観は、大きなプラモデルのような簡素さ。ただ、先のエンジニアによると、技術的には「良くできた車」なのだという。市内を走ったが、狭いのが気になる程度。

歩道にEV十数台が同時に充電できるスペースがあった。日本なら排気量50ccの原動機付自転車を歩道に乗り上げる感覚だ。

歩道で充電中のSGMWの2人乗りEV(左)。警察車両にも使われている(右)=柳州

歩道で充電中のSGMWの2人乗りEV(左)。警察車両にも使われている(右)=柳州

■独コンチがR&D、日系部品は1社

60年前から重機・建機の生産拠点として位置づけられた柳州は産業基盤が整っている。柳州安美科技の林志勇総経理は、「完成車メーカーの自治区内での部品調達率は75%に上る」と話す。

カルスト地形の奇岩で有名な桂林と南寧のほぼ中間に位置する人口400万人の柳州

カルスト地形の奇岩で有名な桂林と南寧のほぼ中間に位置する人口400万人の柳州

これだけの自動車産業の集積にも関わらず、日本の部品メーカーの進出は、自動車部品・金型製造のヒロテック(本社・広島市)の1社だけだ。広西チワン族自治区政府や柳州市政府は部品生産基地や研究開発(R&D)を進めている。18年4月には独自動車部品大手コンチネンタルとSGMWが、柳州市で安全システムのR&Dを行うと発表された。

林氏は、「自治区や柳州は、低価格車に依存しない付加価値の高い自動車産業を目指しており、日本との協業、技術移転にも期待している」という。

■弱さは「メーカーとサプライヤー」の関係

先のエンジニアは、「中国のものづくりの弱さは、設計と製造部門が分離していることだ」と話す。デザイン先行の結果、トラックのドアが開かない、キャビンの高さを考慮した運転手の死角を検討しないといった問題もある。このため東風柳州では、欧州向け輸出が可能な国際基準で設計するよう指導している。しかし、設計と生産部門に協力関係がないため、設計変更には時間がかかるという。

「日系中小企業も柳州でチャンスが見つけられるはずだ」と話す柳州安美科技の林志勇総経理=柳州

「日系中小企業も柳州でチャンスが見つけられるはずだ」と話す柳州安美科技の林志勇総経理=柳州

林氏は中国の自動車産業について「完成車メーカーの技術力は高い」としながらも、地場部品サプライヤーの技術は低く、両者間の関係が「売買」のみで「協業」する感覚がないことが、日本との大きな違いだと話す。柳州では、優秀な人材が北京などの大都市に流出してしまう問題も深刻だという。それだけに地元行政は日本企業や日本人エンジニアの支援を歓迎していると話す。しかし、10年前だったら「日本人エンジニアなら誰でも歓迎」の状態だったが、今では「必要な人材を選別している」ほど、地場企業の技術水準は上がっているとも付言した。

日本の電機メーカーの北京事務所代表を務めた経験も持つ林氏は、日本企業の中国ビジネスについて、中国人との考えの違いを認識すべきだと指摘する。日本人は技術をコツコツと積み重ねていく。しかし、「中国企業の最大の目的は、技術ではなく発展。だから技術は買うものなのだ」と話す。また、公務員が企業に出向したり逆のケースもある中国は、政治・経済が一体化していることも留意する必要があると説く。

■インドネシアでは人気ブランドに

SGMWは15年、インドネシアに進出。17年には現地生産を開始した。NNAが18年夏に実施した消費者の自動車購入意識に関するアンケート調査で、「インドネシア人が買いたいと考えている自動車ブランド」は、トヨタに次いでSGMWとの結果が出た。20~30歳代の若年層に限定すればトップ。もはや中国車は「安かろう悪かろう」の代名詞ではない。

SGMWで1万台以上がヤードに留置されていた要因は、中国の新車市場に急ブレーキがかかった影響の可能性が高い。中国市場の減速は、中国地場メーカーが日系メーカーの牙城である東南アジア諸国連合(ASEAN)への低価格完成車や部品供給輸出を加速させる可能性もある。輸出元の一つである柳州の動向を注視していく必要もありそうだ。(次回は1月16日掲載予定)

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