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【日本】【ハノイ重慶】「陸海新通道」がスタート[経済](2019/01/16)

中国内陸部の重慶市で今月7日、鉄道・海上の複合輸送ルート「国際陸海貿易新通道(ILSTC)」の事業を開始する式典が行われた。重慶とシンガポールを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)を複合輸送で結ぶ「南向通道(SCT)」を名称変更したものだが、ASEAN発の貨物を重慶経由で中国南西部8省市区や中央アジア、欧州へも輸送し、中国内陸部と国外との連結性も高める。その要衝となるのが、広西チワン族自治区の北部湾に位置する欽州港だ。

欽州港は鉄道で成都や重慶、海運でASEANや日本と結ばれる=中国・広西チワン族自治区

欽州港は鉄道で成都や重慶、海運でASEANや日本と結ばれる=中国・広西チワン族自治区

欽州港を経由して重慶とASEAN各地を鉄道と海上輸送で結ぶルートは2017年9月頃から本格化した。同港の運営会社、北部湾・PSA国際コンテナターミナル(BPCT)の蒋昌府ディレクターは、「従来は重慶からシンガポールまでは長江水運の上海経由で1カ月以上。これが、最短8日にまで短縮された。重慶からベトナム北部なら1週間を切る」とその有益性を強調する。

18年11月末時点で、欽州港から中国内陸部へのコンテナ列車は週約10便で、重慶(4便)に次いで成都(3便)が多い。欽州港―重慶約1,460キロを2日間で結び輸送コストは40フィートコンテナで約2,600人民元(約4万1,820円)だという。

■在ベトナム日系メーカーも利用

蒋氏によると、在ベトナムの日系車両メーカーも既に利用している。重慶からの部品調達で欽州港経由に切り替えたケースが多いという。ハイフォンと欽州を結ぶコンテナ船はほぼ毎日運航。欽州港からシンガポールへは週5便だが、近く毎日就航に増便するという。日本への直航も週2便ある。蒋氏はまた、プラスチック原料のポリエチレンを中東から輸入する事業で、日本の商社が欽州港の利用を検討していると話す。

米フォードのベトナム工場。部品供給はフォード重慶工場からもある=ベトナム北部

米フォードのベトナム工場。部品供給はフォード重慶工場からもある=ベトナム北部

日本通運は重慶から欽州港を経由して日本を含むアジア各国への輸送業務も手掛ける。ただ、同社重慶支店によると、欽州港の取扱量が急増しており、従来より欽州通関に要する時間が長くなっている。このほか中国内の鉄道コンテナ輸送は、到着時間が直前まで分からない、運用が硬直的といった不満を持つ荷主も少なくない。それだけに今後の鉄道や通関手続きの改善に期待がかかる。

■一帯一路を強化、ASEANから欧州へ

中国シンガポール両国政府は15年、「重慶コネクティビティー・イニシアチブ(CCI)」を打ち出し、「南向通道」を事業化した。昨年11月の中国シンガポール首脳会談では、「南向通道」を「国際陸海貿易新通道(陸海新通道、ILSTC=New International Land-Sea Trade Corridor)」へと名称変更すると発表。今月7日に重慶市など中国南西部の対象8省市区との間で調印が行われ正式にスタートした。

「陸海新通道」に名称が変更され、ルートが重層化されたことについて、中国共産党成都市委員会・政策研究室の李好ディレクターは、「(現代版シルクロード経済圏構想の)一帯一路事業としてさらに強化する中央政府の姿勢の表れであり、中国を軸とした陸海の複合輸送を中国ASEAN間だけではなく、日本を含む世界に広げる狙いがある」と話す。

中国から欧州への鉄道コンテナ輸送「中欧班列」の18年の運行本数は前年比71.5%増の6,300便(速報値)と大幅に増えた。中国の都市別輸送実績でトップは3年連続の成都(1,587便)。次いで重慶(1,442便)、西安(1,235便)と続いた。

中欧班列と海運を組み合わせた複合輸送は、韓国サムスン電子が既に別の港で利用している。韓国・仁川から大連港経由とベトナムから厦門(アモイ)港経由で欧州へ輸送。これをモデルとして、ASEANから欽州港経由で欧州へのルートが構築される可能性がありそうだ。

成都市の青白江地区では欧州行き「中欧班列」とASEAN行き「陸海新通道」のコンテナが集散する=中国

成都市の青白江地区では欧州行き「中欧班列」とASEAN行き「陸海新通道」のコンテナが集散する=中国

■日通、中欧班列で専用列車

日通はこのほど、中欧班列のブロックトレイン(自社で一列車を編成)の試験運行を初めて行った。列車は昨年12月20日に西安を出発し今年1月4日に独デュイスブルクに到着した。40フィートコンテナ41本を輸送。積み荷は電機製品や自動車部品で、西安以外や非日系の貨物も含まれる。

地元紙によると積荷の総額は1,700万米ドル(約18億4,000万円)相当。西安発の一列車の輸送としては、これまでで最も高額だったという。日通は今年3月からの定期輸送化を目指す。

輸送実績が拡大している中欧班列。李好氏は「次の課題は運行ルートの最適化とオペレーションの効率化だ。日本の物流会社はこうした経験と競争力を持っている」と述べ、日通の中欧班列参画を歓迎する。

写真手前は南寧の「ASEANビジネス地区」(左)。地下鉄の駅もある(右)=中国

写真手前は南寧の「ASEANビジネス地区」(左)。地下鉄の駅もある(右)=中国

沿海部からの生産移管が進み、政府が開発に力を注ぐ中国内陸部。重慶・成都に次いで注目すべきは西安だろう。サムスン電子が70億米ドルを投じた半導体新工場も今年完成する。上海から飛行機で3時間前後かかるこれらの内陸部だが、もはや「奥地」ではない。近年の産業集積に加え、欧州とASEANを結ぶ結節点としても機能し始めている。

中国ASEAN間の貿易拡大基調に加え18年に勃発した米中貿易摩擦、中国国内の物流インフラ整備は、日本企業のASEAN事業に有形無形の影響を与えていくことは間違いない。(文・写真=遠藤堂太)

【関連記事】

「成都訪問記 勃興する消費、 物流・産業インフラ~中国内陸部をけん引~」

https://www.nna.jp/nnakanpasar/backnumber/190101/topics_003

<メモ>

■欽州港

シンガポールの港湾管理大手PSAインターナショナルと海運大手パシフィック・インターナショナル・ラインズ(PIL)、地場の広西北部湾国際港務集団(BPG)が出資した港湾会社「北部湾・PSA国際コンテナターミナル(BPCT)」が運営。欽州港の18年のコンテナ取扱量は前年比3割増の230万TEU(20フィートコンテナ換算)に達する見通し。北部湾3港(北海、防城港、欽州)のうち欽州港は主にコンテナ、残り2港はばら積みが中心。

■陸海新通道の対象8省市区

今月7日に中国の対象8省市区(重慶市、広西チワン族自治区、貴州省、甘粛省、雲南省、青海省、新疆ウイグル自治区、寧夏回族自治区)が調印した。ただし、重慶のライバルである四川省(省都は成都)、陝西省(省都は西安)は含まれていない。

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