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【タイ】初の国産衛星宇宙に、日本留学の博士ら開発[製造](2018/12/11)

タイ初の国産人工衛星が4日未明(タイ時間)、宇宙に打ち上がった。開発したのは、日本に16年間留学して宇宙工学を学んだポンサトーン・サイスッチャリット博士(37歳)率いるキングモンクット工科大学ノースバンコク校(KMUTNB)のチーム。「次は高校生の作った衛星を打ち上げたい」――。科学者の夢はさらに膨らんでいる。

衛星は1辺10センチの立方体の「キューブサット」で、重さは約1キログラム。名称は「KMUTNBの学問的挑戦」を意味する「KNACKSAT」。米カリフォルニアで、打ち上げ会社スペースXのロケットから他の63基の衛星とともに打ち上げられ、高度575キロメートルの地球周回軌道に乗った。

携帯電話のカメラを積んでおり、宇宙からタイの国土を写真撮影する。衛星がタイの上空に来た時に地上局から撮影の指令を出したり、撮影済みデータを地上でダウンロードしたりと、通信技術を試す。搭載したコイルに電流を流して磁場を作り、カメラが地上を向くよう衛星の姿勢を制御する実験も行う。

製作に参加したのは、学部生から博士号の取得者まで約20人。プログラミングをはじめ設計、部品の調達、プリント基板への部品のハンダ付け、地上局のアンテナ作りまで、自力でこなした。授業の合間を縫った作業で、夜が中心となった。指導教官はポンサトーン氏の他、通信やエレクトロニクスなどの専門教官。「教える側も含めて徹夜の連続」(ポンサトーン氏)で、2年がかりで昨年9月に完成。スペースXの事情で、ロケットの打ち上げ延期が続き、製作から1年以上たってようやく打ち上げることができた。設計寿命は2年。やがては高度が落ちて燃え尽きる。それまでに多くの実験をこなす。

初のタイ産衛星の模型を手にするポンサトーン氏。手前に巻き尺を利用したアンテナが伸びる=11月22日、バンコク(NNA撮影)

初のタイ産衛星の模型を手にするポンサトーン氏。手前に巻き尺を利用したアンテナが伸びる=11月22日、バンコク(NNA撮影)

■中学卒業後に日本へ国費留学

ポンサトーン氏は1996年、タイに当時存在した中学卒業者を対象とした日本への国費留学制度に合格。東京の日本語学校と東京学芸大学附属高校を経て、東京大学工学部航空宇宙工学科へ入学。日本の人工衛星の製作技術を現場で学ぶ機会を得た。

「留学試験を受けたのは、友達に誘われたから。合格して、さて日本で何をやろうかと思った時、ひとつの思い出が浮かんできた」

93年、タイは初めて人工衛星を打ち上げた。外国製の通信衛星だったが、未明のテレビ中継にかじりついて、打ち上げを見守った。「すごい。自分の手で人工衛星を作れるようになりたい」と思ったという。

2003年、東大の中須賀真一教授の研究室は、世界で初めてのキューブサット「XI(サイ)4」を打ち上げた。世界で初めて学生が作った衛星でもあった。その研究室で、ポンサトーン氏は中須賀氏の直伝で、衛星を作る技術を学ぶことができた。

12年、同氏は博士号を取得して帰国。KMUTNBの講師となり、タイ初の小型衛星の開発研究室を作り、日本で学んだことをタイで教え始めた。

「自分たちで衛星を作ろう」と提案すると、最初は皆「できるはずがない」という反応だった。政府にキューブサットの見本を持って行くと「これが何の役に立つか」と聞かれる。「確かに、携帯のカメラで地上の鮮明な写真が撮れるわけではない。衛星を作るのは教育のため。成功すれば、次回はもっと複雑なものを作れる」と、ポンサトーン氏は言う。「日本には、いかにコストを抑えつつ、短時間でしっかりしたものを作るかというデザインの哲学がある。それも教えたい」

■日系企業の技術も生きる

最初は手弁当で、「バンコクの秋葉原」と呼ばれるバンモー地区へ行き、部品を集めた。15年10月、国家放送通信委員会(NBTC)から27万米ドル(約3,000万円)の予算が下りた。試作品は数十基に及ぶ。設計に失敗したり、試験で不具合が生じたり。ようやく完成したのがKNACKSATだ。

国産衛星だが、日本の技術も一部では使われている。衛星内に格納し、宇宙到達後に広げるアンテナには巻き尺のばねの仕組みを利用したが、尺の幅を狭く削らねばならない。それを正確に削るスリッターの技術は、日系企業が持っていたという。

打ち上げの様子は、学生たちとライブ映像で見守った。「無事軌道に乗るまで、ドキドキした」。以後、ドイツやインドネシアのアマチュア無線家から、衛星の信号を受信したとの連絡が来た。ただ10日夕現在、KMUTNBの地上局とは直接交信できていない。アンテナが開いたことは確認済みで、タイの上空を通る時、電池が充電モードに入って信号を出さないでいる可能性があるという。

■「次は高校生が作った衛星を」

ポンサトーン氏はすでに、次の目標に向けて踏み出している。17年7月、恩師の中須賀教授と、宇宙工学の能力構築を目的とする会社「アストロベリー(=宇宙の果実)」を立ち上げた。宇宙を人間の役に立てようという意味で、バンコクの高校の生徒に、人工衛星の作り方を教えている。現在、28人の高校1年生が衛星を製作中で、20年3月までに打ち上げる予定。成功すれば、東南アジア初の高校生が作った衛星となる。

「さらにその先は、重量100キロ級のマイクロサットを作って実用化させたい」と、夢は広がるばかりだ。

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